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石川県 旅館 ホテル 心に残る旅の宿

お宿奇談2[ぼろ寺民宿]

[怖い話、幽霊話、不思議な話]

[北海道 某古寺民宿]
 女子大生3人の話。

「ねえ、これ、いいんじゃない。」
 サヨ(あだ名)が指差したのは、ぼろ寺でした。
「いかにも凄そうね。2食付き4500円、どんな食事を出すのかしら。」
「ちょっと気味が悪いわぁ。ほんとに何か出そう。」
「いいわねえー。出てもらいましょうよ。何が有るか分からない、それが旅の醍醐味ってもんじゃない。」

 サヨは気に入ったようで、私(エリ・あだ名)も、もう1人のカンナ(あだ名)も反対はしませんでした。
 私たち3人は高校が一緒、大学も一緒の仲良し友達。旅好きで小遣いがたまるごとに旅相談です。ただ、お金は無いので最も安く泊まれる宿ばかり探します。それに、3人とも古色蒼然とした場所、秘密めいたものに、より魅力を感じる方、幽霊が出そうなところも面白いな、と思っていました。

 その宿は、田舎の小さい駅から結構歩いた山の中に有りました。一見、写真よりステキに見えました。確かにぼろいのですが、がっしりして年代を感じさせます。中は民宿らしく改造してありました。こんなぼろ寺に、きれいな様式トイレが有ってちょっと笑いましたけど。食事は町の安食堂の定食程度、すべてセルフサービス、壁に「食器はきれいに洗って返してください」「みほとけ様に感謝を」「おとうさん、おかあさんに手を合わせてください」なんて書いてあって、ちょっとカチンとくる人もいるんじゃないかな。

 私たちの部屋は2階、階段を上がったすぐ左手に有りました。部屋の隣にはもう二部屋有りますが空室のようです。私たちは部屋に荷物を放り込むと、早速周辺探検。探検と言っても無邪気なことを言ってワイワイ騒いでいるだけ。でもそれがまた楽しかったんです。

 この宿の主人は、面白い人でした。60から70ぐらい、歳の割りに元気いっぱい。顔は丸くて頭はつるつる、お寺をやめてからも袈裟を着ています。夕食後、主人の話が面白いので宿泊客全員(8人くらい)も縁側に集まって来ました。人生論から、男女関係、何でもかんでも、だみ声の名調子で面白おかしく話します。みんな大笑い。こんな所に泊まる人がいるのは、この主人のおかげかも。そのうち、8時、9時になってくると、やっぱりあの世の話になりますね。こんな話はお寺ですからお手のもの。その中に、この民宿の話もありました。でも、こんなこと、お客に話してもいいのかしら。

 『このお寺がまだ現役のころ、小坊主が1人いたそうです。年は17、少し知恵遅れで頭が大きくでこぼこ、あまり言葉も出さず、笑わず、何を考えているか分からず、ちょっと不気味なところもありましたが、大人しくて従順でした。あまりに役に立たないので両親は面倒がって寺へ預けたんです。
 その子は言い付けられたことは頑張るんですが、やはり愚図で失敗ばかり。ご主人はそれを見越して預かったので大目に見ることができました。でもやはり奥さんはどうにも我慢がならず、いつも大声で叱ってばかりいました。「このグズ!」「早くうちに帰んな!」「ただ飯食らわすとこなんて、どこにもありゃしないよ。」 小坊主はただ黙って下を向いているばかりでした。
 ある日、朝の勤行に降りてこないので、天井裏の部屋を見に行くと、小坊主は首を吊って死んでいたんです。
 その数ヶ月後のこと、奥さんが何か変なことを言い出して、気が触れたようになったそうです。「あすこに利吉がいる。」「利吉、利吉、かんにんや。」突然白目をむいて倒れたり、歯を食いしばって失神してしまう。利吉というのは小坊主の名前なんです。そんなことがおよそ半年続き、とうとう亡くなってしまいました。
 亡くなる寸前は壮絶でした。奥さんは布団の中で身をもだえ、布団を足で蹴りつけ、カッと目を見開き、「利吉ィ、おのれえ、いまにみておれー。」それは、どう考えても奥さんの声ではない、魔物の叫び声のようだったそうです。』

 私たちはこの話を聞いて震え上がりました。
 部屋へ戻った私たちは恐る恐る天井を見上げました。
「まったく、もうっ、あんな話聞かなきゃ良かった。」とカンナ。
「さあ、さあ、こんな雰囲気ぶっ飛ばそう。隣は誰もいないようだし。ガンガンやれば幽霊もきっと恐れをなして出てこないわ。」と私。

 そうして夜中の1時頃まで酒のカップを空けて騒いでいました。
「ちょっとトイレ。」とサヨがふらりと立ち上がり、ドアを開けようとした時、
「あら、誰かドアを閉め忘れた?」と言う。
「嫌だあ、変なこと言わないでよ。」
 見るとドアが、ほんの10cmほど開いている。私たちは青ざめてしまいました。私たちは女性ばかり、用心のためドアを閉め忘れることなんか有りません。
「いややー、みんなトイレについてきて。お願い。」
 こうした場合しょうがないです。三人でギシギシ音のなる階段をそっと降りていきました。

 三人一緒にトイレを使い、また階段を上がっていきました。ドアの前に着くと、再びみんな黙りこくってしまいました。ドアがまた10cmほど開いているんです。そっと部屋のドアを開けて中を覗いてみましたが誰もいません。
「やっぱり、利吉さん、いるのかしら。」と私。
「いやあ、お願い、もう何も言わんといて、私もう眠りたいの。もうだめだわ。」
 3人で布団を敷き、その中にもぐり込みました。

 私も昼間の疲れですぐに寝入ってしまいました。
 ところが夜中の3時ごろ、ふと目が覚めたんです。他の二人は、と見ると熟睡しているようです。明日に差し支えると思って眠ろうとしましたが、そう思えば思うほどますます目が冴えて布団の中で何度も寝返りばかり打っていました。

 と、そのとき、誰かが階段を上がってくるような音が聞こえたんです。ギシリ、ギシリと。二階には宿泊客はいませんので、私たちに用が有るのに決まっています。考えられるのは泥棒か夜這い。私は身を硬くして身構えていました。いざとなれば酒のカップを投げつけて大声を出す。そう思って音が上まで上がって来るのを待ちました。ところがその音は、下から4段ぐらい上がって止まります。音の間隔もじつに緩やか、ギシリ・・・ギシリ・・・ギシり・・・ギシ・・リ・・・。途中で何か迷っているような様子が分かるんです。しばらくするとまた音が始まります。迷いながらも次第に上がって来るようでした。そうして、とうとうドアの前に立ち止まりました。しばらく沈黙のあと、カチリと音がして、ドアがじつにゆっくり、ゆっくりと開くんです。10cmほど。確かにカギをかけたドアなんですよ。私は思わずドアの隙間から目をそらせました。何か見えたら今後立ち直れないような気がしたんです。

 その後、部屋はしんとして何事も起こりませんでした。いや、もう一つだけ、私の枕元にぽたりぽたりと数滴落ちたものが有りました。それも私が布団から覗くその目の前に。何か水のようなものです。そうしてその後の部屋の記憶は有りません。失神してしまったのかもしれません。

 起きたのは午前9時頃、夢にうなされていた私を、カンナとサヨが揺り起こしました。
「エリ、エリ、しっかりして。どうしたの。」
 がばっと起きて、しばし呆然として、私は大泣きしてしまいました。
 そんな私の様子を見た二人は、
「早くここを出ましょう。」
 そう言って私の荷物もみんな抱えて、ぐずぐずする私の手を引いて宿を後にしたんです。
「どうしたの、エリ。いつものエリと違う。」
「・・・ごめんなさい。利吉さんが出てきて泣くの。お母さんにもお父さんにも、お寺の奥さんにも疎まれて、どこにも行くところが無いって・・・」
「いやーねえ、あんなこと聞いたから影響されたのね。」
 その時カンナが言いました。
「わたし思うんだけど。あの宿、屋根裏ってどこなの。私たちの部屋の上ってすぐ屋根だったわ。宿は相当改造してあったから、もしかして私たちの部屋って・・・」


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