|
カテゴリ:お宿奇談(お宿の怖い話・不思議な話)
[お宿の 怖い話 不思議な話 幽霊] 2011年10月20日更新
[東北 某ペンション] 40代の男性 霊感が強い方 私には、霊はいつでも見えます。街を歩いていても、立ち寄った本屋でも。スーパーのレジ待ちでも、前の若い女性に重なって、体をこちらに向けた男性が、私を見つめていたりします。まあ事故現場の霊はあまり見たくは無いですけど、たいていは他愛もない霊なんです。よほどの恨みを持っていない限り、たいした害を与えません。この方々はちょっと行き場を見失っているだけ。正しいことを伝えれば彼らもすぐに悟って行ってしまうんです。 しかしね。ごくわずかですが、どうしようもない霊がいるんです。いわゆる狂霊ですね。この霊は人を呪おうとして、何百年もこの世にしがみついています。正しいことをいくら伝えても、彼らは決して帰ろうとはしません。この世が長いものですから、この世的な力も強く、物質化、声、人の意識を操るなど何でもやります。まことに厄介な霊なんです。この話は、私がペンション経営者富永さんに頼まれてそのペンションを見に行った時のことです。あまりに現実離れしていて、信じてくださる方は少ないでしょうね。 3年前の6月にそのペンションを訪ねました。小高い丘の上に立ち、見晴らしも良く、西洋風の素敵なペンションです。しかし扉を開けると私は驚きました。明かりはついているが、中は薄暗く感じます。無人のはずですが、あちこちから人の話し声が聞こえます。いや話し声というよりわめき声、うめき声でしょう。ガヤガヤザワザワと間断なくいつまでも続きます。耳を澄ませると、「死ね!」「殺してやる!」「このばいた!」中には男女関係のいやらしい言葉も有って、じつに聞くに堪えない言葉ばかり。それにもまして、内部の臭気、表現し難いのですがね、けものが腐ってゆく匂い? いやそんなものは、まだまっとうと思わせるほど、この世ならぬ、ひどい臭気で私は吐き気に襲われました。 私は、入るかどうか、かなり迷いましたよ。でもせっかくの知り合いの頼み、ここで逃げる訳にはいきません。私はそろりそろりと中に入っていきました。まずカウンター、休憩室、食堂。やはり、どの部屋にも人影が有ります。ただ、形がだいぶ崩れています。たぶん精神異常者の幽体じゃないかな。生前でも精神に異常をきた人は、じつのところ、幽体に異常をきたしていることがほとんど。いくら薬で治そうとしても無理ですよ。霊的な治療をしなければならないのです。 食堂の床に50代ぐらいの太った男の顔が一つ。口元はだらしなくたれ、ニタリニタリとしています。ピアノの上の壁に二つの目がこちらを見つめています。目つきは鋭いですが、結構寂しい表情。その他、影が薄いもの、煙状のもの(エクトプラズムと呼ばれています)、丸いオーブ状のものも含めると、ここには数え切れないくらいの霊体がいるんです。 それから私と富永さんは二階への階段を登り始めました。と、突然後ろでダダダと音がして、富永さんが階段を転げ落ちてゆきます。見ると、階段に無数の白い手が突き出て、何かつかもうと、ゆらゆらとあがいているんです。すぐに私の足元も強く捉まれ身動きできなくなりました。 「富永さん、大丈夫ですか!」 私は手すりにつかまり、足の手を振りほどき、階下へ急ぎました。富永さんは仰向けにひっくり返っています。呼んでも返事が有りません。どうも脳震とうのようです。私はすぐに抱えて外に連れ出しました。このままここにいると危険なんです。タチの悪い霊が富永さんの体を使って何をするか分からない。突然棒で私を襲うなんてことも有りうるのです。 外に出るといい天気でした。心地よい微風もあり、スズメの鳴き声も聞こえたり、ペンション内部とはえらい違いです。私は富永さんを車へ運び、しばらく介抱していました。そのうち富永さんが気がつくと、私は言いました。 「富永さん、あとは私1人で見てきますから、ここにいてください。でも、もし私が40分以内に帰らなかったら、誰か人を呼んでもらえませんか。お願いします。」 そう言って私は再びペンションへ向かいました。歩きながら自問自答していました。このままやめても良かったのだ。内部の状況は、ペンションとしてやってゆけないことは充分過ぎるほど分かった。それに、どんな魔物がいたところで、私には悪霊を退散できるような力など無いじゃないか。 しかし、私にはあの2階が気になったのです。2階の方に、より邪悪なものを感じました。単なる私の好奇心か、もしかすると呼ばれているのかも。そう思いながら2階へ上がっていきました。今度は先ほどの手は出ませんでしたが、髪の毛を引っ張るやつ、手首を引っ張るやつはいました。どうも、連中は私を階段から突き落としたくて仕方が無いようです。 2階には6室有りました。廊下を挟んで3室ずつ並んでいます。私はその部屋を一つずつ開けてゆきました。1室目は、2、3体の見苦しい幽体を見つけましたが、たいしたことは有りません。2室目にはやせこけた女の人が寝ています。3室目へ入ると、窓が開いていました。外から見た時、開いている窓なんか無いように思ったのに。私は窓を閉めるため部屋へ入り、ベッドを横切り、窓から外を眺めました。50メートルほど先に私たちが乗ってきた車が見えます。車の中に富永さんの姿を見つけると、私はちょっと安心して窓を閉めようとしました。 「ううう・・・」 と、その時、突然、私は物凄い力で後ろを押されたんです。手で押しているような感じではなく、ミシミシミシと体全体に強く圧力をかけられてゆく感じです。私はその力に抵抗し、窓の前の小さいベランダに手を突き、必死でこらえました。窓の下はコンクリート、落ちたらただではすまないでしょう。だがすぐにベランダがバキリと折れ、体が半分窓から飛び出しました。何と、足まで何者かが持ち上げます。私は窓から放り出されるのです。 その時、私の胸にパシッと光が走るような気がしました。と、同時に圧力もふっと弱くなったようでした。私はすぐに後ろを振り返りました。 「うあーっ!・・・」 そこで見たものはとてつもないものです。巨大な片目なんです。らんらんと見開き、白目が血走り、目の周りのまぶたや皮膚が真っ赤に染まり、憎悪のかたまりの表情をした片目なんです。霊的なものを見慣れていた私にも、さすがにこれは怖いものでした。 私はどうしてよいか分かりませんでした。ただただ震えてその恐ろしい目と向き合っていることしかできません。こいつはこのあと私に何をしたいんだろう。どうしたら去ってくれるのか。そんなことを考えてその目をただただ睨み付けていました。 しばらくそんなにらみ合いが続きました。すると私に不思議な感覚がやってきたんです。ひどくやさしく、思わず涙が出てくるように懐かしく、美しい思いです。それと同時に私の口が勝手に動き、何かつぶやくのです。それも一定の心地よいリズムをつけて。何か歌のような、和歌のような、能舞台で聞いた歌のような・・・もちろん私の意志では有りません。そんな歌など聞いた事も有りませんから。 うるわしき みやこをはなれ いくせいそう いかにえどのかたえにいくるとも ふぼのなさけをわするるや ふぼのなさけをわするるや うるわしき たいがをはなれ ぐれんごう いかにかえんのふちにくるうとも ふぼのなむだをわするるや ふぼのなむだをわするるや その歌が終わってからもしばらくにらみ合いが続きました。そうするうち、その片目はゆっくりと、ゆっくりと消えてゆくのです。 そこに何も無くなり、私も我に帰って部屋を出ようとした時、 「ぎゃあああ・・・ああ・・ああ・・・」 ペンションが揺れるほど大きな叫び声を聞きました。今でも耳に焼き付いています。じつに悲しい響きでしたよ。もしかしたら、あの魔物がペンションから出ていってくれたのかもしれませんね。そのあと、ペンションを再開しても何も起こらなくなったのですから。 [お宿奇談 目次] ホームへ戻る お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.10.20 12:42:41
コメント(0) | コメントを書く
[お宿奇談(お宿の怖い話・不思議な話)] カテゴリの最新記事
|