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カテゴリ:お宿奇談(お宿の怖い話・不思議な話)
[お宿の 怖い話 不思議な話 幽霊話]
[北信越地方 某民宿] 50代男性 あれは6年前の4月中旬、午後6時ごろ、私は山菜採りに夢中でつい遅くなり、細道を宿へ向かって歩いていました。左はうっそうとした杉林、右は笹が茂った土手。日が傾きかけて薄暗く物音一つせず、土手の上に墓地や石碑が立っていたりして、じつに心細い感じがしました。ここから宿まで1キロほど、夕食は6時半に頼んであるし、ちょうど着けるだろうな、そんなことを考えて急いでいました。 と、その時、私の後ろを誰か歩いてくるような気配と音を感じて振り返りました。しかし後ろには誰もいません。私がたどってきた暗い細道が見えるばかり。私は良く確かめましたよ。でも人はいないけれど音だけします。その音は私の歩く音よりはるかに遅く、ザリ・・・ザリ・・・ザリと、まるで老人が杖でもついて歩いているような、そんな弱弱しい音で次第に近づいてくるんです。 私は急に怖くなり、歩くスピードを上げました。動悸が早くなり、背中が冷や汗でぐっしょり、緊張のあまりか肩やら腰が痛くなってひざもガクガク、今にも倒れそうになりました。とにかく大通りに出れば人もいる。 ところがいくら急いでもその音はついてくるんです。あの歩く様子じゃ、とてもついてこられるはずが無いのに。私はついに走り出してしまいました。あと数百メートルがこんなに長く感じたことが有りません。体が重くて、まるでスローモーションで走っているような感じなんです。 そうしてやっとのことその細道を抜け出しました。大通りに着くと、私はふうふう息を切らしながらも平常を装って歩きだしました。だって50の男があわてふためいているのも変ですからね。 宿に着くと、さあお帰りだ、と言わんばかりに食事の用意が始まりました。このお宿は広い部屋が二つしか有りません。お客も少ないからとても大事にされるのです。若い女将さん、お嬢さんがかわるがわる料理を運んできます。広いテーブルの半分ほどに豪勢な料理が並んだ頃、この宿の78になるお婆ちゃんが挨拶に見えられました。私のテーブルの前に座って深々とお辞儀をします。そうして体を上げ、はっとした顔で後ずさりして言うんです。 「あらあ・・・お客さん・・・どこでお連れになったのでしょうかねえ。」 「は?・・・」 「しらがのお婆さんがお客さんの肩におんぶしていらっしゃります。」 「えっ!」 私はどきりとして後ろを振り返りました。何も見えません。でも背中に悪寒と嫌な匂いのようなものがありましたから、上着を脱いでみたんです。すると数本の長いしらががはらはらと畳に落ちるんです。嫌な匂いは、ほら、お葬式で棺おけを開けた時に感じるあんな匂いでしたよ。 [お宿奇談 目次] ホームへ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.10.20 12:40:19
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