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石川県 旅館 ホテル 心に残る旅の宿

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yosshi1019

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2010.06.30
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[お宿の怖い話 不思議な話 幽霊話]     2011年10月20日更新

「お宿奇談 13 石を抱く女(1)」


[関東 某リゾートホテル] 私と、霊感の強いご夫婦

『ここが地獄と言うところね、女はそう思って目の前の薄暗く濁った滝つぼを見つめていた。何度ここに飛び込んだか分からない、だが気付くと再び岸に立っている。ここを逃れようと暗い山道を歩き回り、いくつの山を越えたことだろう。だがどこへ行っても同じ滝つぼと同じ景色があるのだ。
 ここには昼が無い。枯れて葉が落ちた木々の間に、ほのかな薄闇、ほとんど闇の世界。かすかに見える道筋、土手には不気味な目付きと恐怖が潜み、女を責める。何か生きる物の生臭い息づかいを感じるが、一度も姿を見たことが無い。
 女の後ろには、昔嫁いだ旅館がある。しかし、その旅館はすでに朽ち果てあばら家である。女は時々自分の部屋を訪れた。だが部屋にいると、常にどこからか嫌な話し声が聞こえてくる。それは彼女をののしり、憎み、怒る声。恐ろしくて再び滝つぼへ戻ってきてしまうのだ。
 女は生まれて数ヶ月ほどの赤ん坊を抱いていた。だがその子は目をつむって動かない。女にはこの子だけが望みだった。この子さえ目を開けてくれ、女がした大それたことを謝ることができたら、それだけで地獄にいたってかまわないのだ。
 太一、太一、一度でいいから目を開けておくれ。お母ちゃんが悪かった。おまえはちっとも悪くない。こんなお母ちゃんのところに生まれて苦しかったろう。太一、許しておくれ・・・、女はそう言って胸の子供を抱きしめた。』

 以上のことは、私の知人、霊感の強い山下さんが霊視した女の様子である。

 そのホテルは、2年前、山際を切り開いて建設された新品同様の建物であった。部屋数は82。玄関は総ガラス張り、床にじゅうたんが敷かれ、ボーイや仲居は良く教育され、にこやかな表情でお客を迎えた。近辺も同時に整備され、テニスコート、湖を一周する遊歩道、サイクリングコース、山側には清冽な滝が落ち、若者たちに結構人気スポットになっていた。
 
 ところが、建設当初からひそかに幽霊話が囁かれていたのである。夜遅く簡易小屋で泊まっていた建設作業員が、薄暗い窓外に、髪を背中まで垂らした女が歩いてゆくのを目撃している。その女は胸に大事そうに何かを抱えていたと言う。
 
 ホテルが完成した後も、時々お客から苦情が入った。廊下を何かが歩いていた。ある部屋から女の泣き声が聞こえた。そして極めつけは、数ヶ月前、若いカップルが寝ていたベッドの脇に髪の長い女が座っていた。その女は大事そうに石を抱えていたと言う。二人とも半ば狂乱状態で逃げ出し、ホテルじゅうを叫びまわった。

 ホテルではもちろん、神主を呼び建設前にお払いをし、その後も坊さんを呼んで数度供養を行った。しかし、全く効き目が無いかのようだ。そうしてこのたびのこと。支配人はホテルの危機を感じて霊感が強い山下さんに助けを求めたのだ。

 山下さんはこの事件に私を同行させてくれた。山下さんのお話は、私にはいつでもじつに興味深い。私が人の心と思いに対して常日頃疑問に思っていたことが、いつの間にか氷解しているのだ。私の方が歳が五つも上だが、いつも頭が上がらない。

 私たちがホテルに着くと、支配人やその他管理職総出で幽霊が出た部屋へ案内された。いたって普通の部屋。山側の部屋で、滝が見え、心地よい水の音が聞こえる。山下さんはしばらく部屋の内部、ユニットバス、壁の油絵など眺めていたが、そのうち窓を開け滝の方角を眺める。
「蓮見さん(支配人)が仰るのに最も近いのは、滝のそばにいらっしゃる女の方ですね。髪が長くてかなり悲しそうなお顔です。確かに石を抱いていますね。では行ってみましょうか。」
「山下さん、どうかよろしくお願いします。あの、今日の夕食は和食風にしましょうか。洋食風にしましょうか。ホテル自慢の料理を腕を振るってご馳走します。」と支配人。
「蓮見さん、夕食は用意してきましたよ。私どものおにぎりとおかずで充分。今日の宿代はただですので甘える訳にいきませんよ。」
「そ、そんな。私どもの方からお願いしたんです。もう用意はして有ります。お出しできなければ困ります。」
「そうですか。有難うございます。では、和食風で。」
 山下さんには欲は無いのだろうか。自慢の料理人の腕を振るった料理がうまいに決まっている。普通はホテルを助けてやるのだから最高級の料理を要求したっていい。もし事がうまくいけばホテルはこの後何億円も儲けるのだ。たかが数万円の料理なんかただみたいなものだ。そんな時もなんで奥さん手作りのおにぎりなんか持ってくるのだろうか。

 山下さんご夫婦と私の3人が滝のそばへ寄った時、山下さんが言う。
「女の方が1人、滝つぼの中を見つめています。ほら、そこにいらっしゃいます。」
 山下さんはそう言って滝つぼの脇を指差す。不思議なもので、山下さんにそう言われて見ると私にも見えるのだ。髪を肩まで下ろした貧相な女の人が身動きもせずうつむいているのを。その時奥さんが両手で顔をおおった。
「ごめんなさい。私、涙が出てきちゃった。赤ちゃんのことばかり気にかけているのよ。でも、この方、抱いているのは赤ちゃんほどの大きさの石だわ。」
「うむ。亡くなったのは7、80年くらい前のようです。当時、ここにとても繁盛していた旅館が有りましてね、彼女は両親と回りの勧めで嫁に行った。ところが、そこの若旦那が遊び人で、外に何人も子供を作っていて彼女は相当苦しんだ。
 やがてその若旦那との赤ちゃんが生まれた時、その赤ちゃんが若旦那にそっくり。毎夜遅く帰り、そのうち数日家を空けるようになってきた若旦那。子供をあやしていても嫉妬と憎らしさが募るばかり。ついにノイローゼのようになり、ある夜、宿を抜け出した彼女は、子供を滝つぼへ投げ捨てたのです。
 子供は滝の怒涛の中で浮いたり沈んだりする。浮いてきた時、ぶくぶくと泡を吹き苦しむ顔が見える。彼女はその時、自分の過ちに気付き、あああと叫び滝へ飛び込んだ。彼女は子供にすがりつこうとした。しかし水の流れの中で子供の体は次第に離れてゆく。自分も浮き沈みし、もがきながら必死の思いで子供に追いつき、その体をつかんだと思った途端、息絶えてしまった。しかし、彼女が子供と思ってつかんだもの、それは浅瀬の石だった。あの世へ行ってからも、彼女はその石を子供と思い込んで決して離そうとしないのです。」
 
 私もつい奥さんと一緒に涙を流していた。この人は、どんな理由が有ろうとわが子に手をかけたのだ。それは悪鬼の仕業。その罪は充分受けねばならない。この女が地獄の思いに至るのも当然なことだ。しかし、なぜ私はこんなに涙が出るのだろう。
 山下さんが静かな口調で話を続けた。
「この方は、長い間この世界に住み、わが子のことしか考えていません。周りは全て恐怖と猜疑と責め苦の世界。私たちの問いかけも意識が捻じ曲げてしまいます。おそらく洞窟の奥から聞こえる恐ろしい魔物のささやきぐらいにしか聞こえないでしょう。彼女を救うのはなかなか難しいと思います。部屋へ帰って対策を考えましょう。」


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Last updated  2011.10.20 12:35:51
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