Zero-Alpha/永澤 護のブログ

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西麻布



2005.2.3
1.研究課題
在宅福祉サービス提供事業者職員における「普遍化された優生主義仮説」の妥当性検証の試み
――「会話的文章完成法(Conversational Sentence Completion Test)」を活用した意識調査結果の分析を通じて
2.研究の背景と目的
「遺伝子レベルの障害」がもたらす諸問題の克服は、医療・保健領域と統合されつつある社会福祉の政策領域において主要な課題となっている。本研究が焦点とするのは、今後、予防を目的とした予測医療の潮流が、社会福祉政策の実践をどの程度方向づけていく可能性があるのかというテーマである。生活習慣病が慢性疾患化する高齢社会に対応して、近年の社会福祉政策は、要介護状態の予防を政策目標にしている。こうした現状において、「個人、カップルの自由な選択(自己決定)による遺伝性疾患の診断、治療、予防」という理念の実践が、リスクグループの選別につながるのではないかという問題が浮上している。生存/生活の質を階層化しデータ化するQOLという尺度は、こうした選別を正当化する可能性を持っている。
3.研究の重要性
本研究は、個別的社会福祉援助実践(ミクロレベル)と社会福祉政策実践(マクロレベル)の関係性の考察を目指している。本研究は、これら両レベルの関係性を今後研究していく上での土台を構築する試みである。そのために、媒介項としての「普遍化された優生主義仮説」を、今後実証的に分析するための方法論を構築する意義があると考える。また、先端医療の問題など複雑化する社会的問題に対応する援助の質を高めるためには、社会福祉専門職者の実践を根本的な視点から見つめ直さなければならない。それは、現在及び近未来の社会福祉の実践倫理を問う試みでもある。
なお、本研究は、「テクノロジーによるQOL向上」としてイメージされ得る事例を主題的に分析する。国際的な医療保険福祉の政策レベルにおいては、「個々人のQOLは一元的な尺度により階層序列化可能である」という信念が政策決定上のパラダイムとなっている。この意味で、必ずしもこうしたパラダイムを批判的に捉えるのではなく、ミクロレベルとマクロレベルの関係性という観点から考察していく必要があると考える。
4.研究目標
本研究は、在宅福祉サービス提供事業者職員に対するアンケート形式の意識調査結果を分析することによって、「普遍化された優生主義仮説」の妥当性を検証することを研究目標とする。
5.検証する仮説、または調査したい質問
まず、「普遍化された優生主義」を、「この私の(または誰かの)生存(+)が、他の誰かの生存(-)よりも一層生きるに値する」という言説形態によって明示化され得る意識的または無意識的な信念とする。この信念は、「個々人のQOLは一元的な尺度により階層序列化可能である」という「信念2」へと移行していく可能性を持つ。さらに、この「信念2」は、「テクノロジーの介入による個々人のQOL向上は正当化され得る」という「信念3」へと移行していく可能性を持っている。これら信念は、必ずしも意識されている必要はなく、もしそれが無意識的状態にあるなら、その信念は「会話的文章完成法(Conversational Sentence Completion Test)」を活用したアンケート調査を通じて意識化され得ると仮定する。以上の前提の上で、「普遍化された優生主義仮説」を次のように定義する。
普遍化された優生主義仮説:ある個人Aが、「この私の(または誰かの)生存(+)が、他の誰かの生存(-)よりも一層生きるに値する」という言説形態において明示化し得る意識的または無意識的信念を持つ。
従って、本研究が妥当性を検証する「普遍化された優生主義仮説」とは、在宅福祉サービス提供事業者職員が、「この私の(または誰かの)生存(+)が、他の誰かの生存(-)よりも一層生きるに値する」という言説形態において明示化し得る意識的または無意識的信念を持つ、というものになる。以下に会話文のサンプルを示す。
下記のそれぞれのa欄の発話文を読んで、最初に頭に浮かんだ言葉をb欄に記述して、会話文<a>-
<b>を完成させて下さい。
1.<a:子どもが生まれてくる前に遺伝子を治療して、今まで治らなかった病気をあらかじめ治すことができるかもしれない>
<b:(この欄のスペースはある程度余裕を持たせる)

(以下略)
6.既存の調査・研究結果との関連
厚生労働省専門委員会の議論によれば、先端医療現場におけるケア・カウンセリングを効果的に行う上での社会的・制度的基盤は不十分である。他方、社会福祉の研究領域において、先端医療の急速な進展がもたらす問題を主題化した研究は筆者の見る限りでは存在せず、研究の遅れが生じている。広く「(新)優生主義(優生学・優生思想)」をテーマ化する社会学的研究であっても、それら研究は、(1)社会福祉領域を事例にした研究ではなく先端医療の領域に限定したものか、または科学史等の歴史学領域における研究である、(2)個々の臨床的事象またはそれに関連した社会現象の質的解釈に限定された研究が主であり、上記テーマに関する客観化可能なデータの収集と分析を組み込んだ調査研究ではない、という共通点を持っている。本研究のように、社会福祉の実践現場を事例とした調査結果の言説分析と客観化可能なデータ分析を統合する研究は見られない。
7.研究課題の概念、理論の枠組み
本研究は、「投影法」の一類型である「文章完成法」を応用した「会話的文章完成法」を活用することにより、被験者の潜在的な「信念」を言語化し分析可能なデータにするという方法論を取る。言語化されたデータは、「言説分析」の方法論によって分析される。本研究では、M.フーコーの言説分析の方法論に準拠する。フーコー(1969)は、通常は無意識なものにとどまる個人の態度や構え自体が、さまざまな社会的・制度的・歴史的コンテクストを構成する「言説実践」において構築されていることに注目する。また、個人が社会的に構築されていく過程で、「発話行為」や「書く行為」として実践される一群の言説を「言表(enonce)」として主題化した。本研究が採用する「言説分析」は、この意味での「言表分析」であり、会話的文章の完成という「言説実践」を分析することを目標としている。この場合、被検者に提示される文と被検者の「言説実践」によって完成される会話文が「言表」となる。この「言表分析」により、ミクロレベルとマクロレベルの関係性の考察が可能になる。なお、本研究は、遺伝子診断等のテクノロジー的基盤が成立して以降における、社会福祉の法制度と結びついた「言説実践」に注目する。法制度の一例として、「介護保険制度」を挙げることができる。従って、本研究では、介護保険の現場に従事する事業者職員を調査対象者とする。
8.研究対象、調査・研究のデザイン
 研究対象者は、「会話的文章完成法」を活用したアンケート調査の対象者、言説分析の対象者ともに同一とする(言説分析は、アンケートの回答者の会話文を対象とする)。具体的には、民間株式会社である(指定居宅サービス・指定居宅介護支援)事業者に所属する常勤・非常勤職員(ケアマネジャー・ケアコーディネーター・ホームヘルパー)50名を調査対象者とする。対象者に対して、アンケート調査を実施し、(1)統計分析(下記参照)、(2)会話文の言説分析を行う。なお、アンケート用紙は、上記事業所に所属する常勤職員(ケアマネジャー)を通じて対象者に配布する。回答は自己式で収集は郵送方式とする。
9.データの測定器具〔尺度〕・分析方法
「会話的文章完成法」がモデルとする「文章完成法」は、「社会的適応度」、「自己概念」、「達成動機」等の分析において妥当性が検証されている。この方法の変形である「会話的文章完成法」による各回答者による回答は、本研究においては、「普遍化された優生主義仮説」に対する関係において、肯定タイプ(親和的)=2点、否定タイプ(非親和的または批判的)=0点、どちらとも言えない(中立的または判別不能)=1点という形で点数化される。また、各回答者の点数の合計点は、「仮説肯定度スケール」によって高・中・低の3段階に区分される。各回答の点数及び各回答者の点数の合計点を「仮説肯定度スケール」により3段階に区分した結果を、SPSSを用いて統計分析する。統計分析は、単純集計・クロス集計・相関関係とする。また、統計分析結果と照合しながら、会話文の言説分析を行う。これら両分析は、本研究においては相互補完的に統合されるが、必ずしも段階的に行われない。例えば、「仮説肯定度スケール」を3段階に区分する際の具体的な述語カテゴリー(共通した頻度の高いもの)と点数(境界値)は、言説分析を通じて選択・決定される。



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