バス停地名学のすすめ

2008/09/11(木)22:32

第252回 【幻の橋編(18)】 二ツ橋(ふたつばし) 後編

渋谷区(11)

(前回からのつづき) バス停から西へ少し歩くと、東大教養学部に隣接する駒場公園の入口があります。深い緑に包まれたこの場所は、旧加賀藩主前田家の前田利為侯爵邸跡地であり、園内には昭和4年築の洋館と、同5年築の和館が健在で、それぞれが一般公開もされています。気品ある化粧レンガとタイルの外観が美しい洋館は、土、日、祝日のみの公開で、あいにく私が訪ねた際は中を見ることができませんでしたが、和館の一階部分には入ることができ、玄関から続く広間や縁側、その先の庭などを静かに堪能することができました。 和館はもともと外国人の接待用に建てられたといわれ、戦後は米軍極東司令官の官邸などにも使用されていたといいますが、洋館も含めた敷地全体が昭和42年から公園として公開されるようになりました。明治期の公爵邸の趣をそのままに残した深みのある貴重な景観が、今日もなお維持され続けている様子には、驚かざるをえません。 和館のすぐ北側は、やはり昭和42年開館の日本近代文学館です。作家の原稿や初版本など、各所に散逸していた近代文学関連の資料を収集、保存している施設で、常設の展示物だけでも、文学ファンには見応えたっぷりのコレクションが揃っています。私の趣味でいえば、永井荷風の『墨東綺譚』が新聞連載時の切抜きの束となって展示されているところなどに、ついつい釘付けとなってしまいます。たまにはこうした場所で、ひそやかに時間を過ごすのも悪くないでしょう。 注)『墨東綺譚』の「墨」は、本来の字と異なります。

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