第316回 油面公園(あぶらめんこうえん) 後編
(前回からのつづき)以前、第95回「月光原」の項で、目黒区には風変わりな地名が多いと記したことがありますが、この油面などはその筆頭ともいえる地名でしょう。もともとこの付近は、菜種の栽培が盛んだったようで、菜種から採取した菜種油は近くの祐天寺や芝の増上寺に奉納され、灯明用として使われました。それにより、江戸期の油業者は租税が免除されていたようで、これが「油免」と呼ばれるようになり、いつの頃からか「油面」と表記されるようになったといいます。菜種の栽培は昭和初期の頃まで続けられていたようで、現在はすっかり住宅地となっているこの周辺が、かつては一面の菜の花畑だったかと思うと、なんだか不思議な感じがします。バスを降り、中町2丁目交差点から南へ歩くと、突きあたりが油面公園です。公園入口に「目黒区みどりの散歩道」と題した大きな地図が掲示され、周辺の名所旧跡や坂道などを結んだ散策コースが明示されています。地図の右上に油面地名の由来に触れた解説がついていますが、それによれば、公園内に往時を偲ぶミニ菜の花畑があるとのこと。早速入ってみると、どうやら公園東隅の梅林のあたりがそのようです。私が訪ねたときは、菜の花らしきものを見つけることはできませんでしたが、春にはここが鮮やかな黄色で覆われるのでしょうか。公園前の通りを油面通りと呼ぶ他、公園裏手には油面小学校もあり、バス停ともども、土地の歴史を伝える貴重な呼称には、今後も末永く存続してもらいたいと切に願います。