穂口雄右氏インタビュー
ご自身の作品(アイドルポップ名曲)を語る
作曲家の穂口雄右先生のメール・インタビューの第2回目になります。当ブログにとってアイドル以上にアイドルとも言える穂口先生ご自身によるアイドルポップの歴史的名曲を紐解く貴重なインタビュー(解説)をどうぞ。
【第2回】
林寛子 / 素敵なラブリーボーイ '75 作詞千家和也 穂口雄右作曲編曲
Q(zouky): なんとも洒落たフレーズや洗練されたメロディラインですね?
A(穂口雄右氏): 「素敵なラブリーボーイ」は良く頑張りました。なにしろ林寛子さんと小泉今日子さんのお2人で全部で2回のスマッシュヒット。残念ながら大ヒットにはほど遠い順位でしたが、林寛子さんが31位、小泉今日子さん19位とまずまずの成績で、合算すればベストテンと同等の頑張りです。
それにしても、デビューからなぜか低迷していたあの林寛子さんをベスト31まで押し上げたのはそれだけで敢闘賞もの。それまではどうも重たくて、いえ、体重ではなく曲調が。それで担当ディレクターが「年下の男の子」を聞いて閃いた。「そうだ、彼女にも明るい曲を」と極めて単純な発想で千家・穂口コンビに白羽の矢を立てたようです。
頼まれてから彼女の歌を再試聴したところ年齢の割になかなかの歌唱力。これなら少々の無理はOKと踏んであのリーピングメロ、サビ出でいきなりの6度跳躍連続技は聴く方は快適でも歌う方は結構大変なところを彼女は当然なんなくクリアー。当時は彼女の恐ろしさを知る由もなく、ひたすら可憐な美少女と信じて、知らぬが仏の書きたい放題で無邪気に作ったのが良かったようです。知っていたら私のメロも重くなったかも知れません。
さて、「洗練されたメロディーラインですね?」との嬉しいお言葉にお応えして、メロディー創作法の蘊蓄を一言。なぜ「素敵なラブリーボーイ」のメロディーが快適か? ここには深い訳があります。何を隠そう、それはメロディーラインのプロポーションが快適だから。暮らしも人間もプロポーションが良ければ快適だし見ても気持ちが良い。ならば音楽もと言う訳で当時いろいろと研究したところ、やはりプロポーションが調っている音楽は聴いてて気持ちが良いし何回聴いても飽きない。
ところが音楽にはプロポーションを調えるべき要素が膨大にあって、全部を説明するには少なくとも500ページは必要なので、ここではメロディーのプロポーションを調える方法の中のたった一つだけを大公開。はじめに自慢をしておきますが、一つの簡単なメロディを作るために、アレンジも含めた膨大なプロポーションを予め想定します。そしてメロディーのプロポーションは「いろは」の「い」であることを忘れないで下さい。
そう、メロディは大別して次の3つのタイプに分類できる。メロディック、ハーモニック、リズミック、そしてこの3つのタイプのメロディーを1曲の中にバランス良く配分すると、メロディーのプロポーションが調って聴いても気持ち良く、しかも長持ちするメロディーになります。そして 「素敵なラブリーボーイ」は、サビはハーモニックに続いてリズミック、Aメロになるとメロディック、など注意深くプロポーションを調えてあります。興味のある方はゆっくりと研究して下さい。
ところで貴方は、どちらの「特別な男の子」になりたいですか?「林寛子さんの特別な男の子」か? それとも「小泉今日子さんの特別な男の子」か?私はなぜかどうしてもやっぱり「林寛子さん!!」いえ、あの、誤解しないで下さい「素敵なラブリーボーイ」の歌唱時限定です。どうぞ悪しからず、今後ともよろしくお願い申し上げます。
Q(zouky): これ程のメロディの完成には、やはり緻密な計算があったのですね。因みに個人的にはダイナミックでロック色の濃い林さん版が大好きですが、小泉今日子さんのファンの方でも林さん版の良さに気づいてくれる方もいるようですよ。どうも有難うございました。
パンチが効いてて 第4位 林寛子 素敵なラブリーボーイ 穂口雄右作曲
穂口雄右氏インタビュー【第1回】フィーバー / 熱い気分のさめないうちに