ゲニウス・ロキ

2009/06/19(金)19:46

海に帰る日

NOVEL(11)

夜が明けると、廊下の窓ガラスに雨粒が弾けていた。 その廊下の真ん中で、アロハシャツにトレパン姿のブタが倒れこんでいる。 近づくと、ブタは小さく胸で呼吸しているのがわかった。 マチコはハンマーを構えた。 ブタの頭に、止めを刺すためだ。 この村では、ブタが出ると”古いものが出た”と言い習わされてきた。 そして村の娘が一人選ばれ”彼”と一夜を共にすることになっているのだ。 マチコにその話が回ってきた時。彼女は両親と共に、一晩中泣いた。 母親は「私が身代わりになるから」と、きつくマチコを抱きしめて、慰めた が、村の掟は絶対だ。 その夜。家族は、マチコを挟んで畳の上で川の字になって眠った。 彼女が成人してから、そんな風に家族3人で眠るのは、初めてのことだった。        ∞ マチコがハンマーを構え、ブタに近づくと。呼び鈴が鳴った。 「誰?・・。」 窓ガラス越しに外を覗くと、傘を差した数名の役場の男たちが、喪服で立っ ているのが見えた。 ブタを引き取りにきたのだ。 そういえば。ブタはこの後どうなるのだろう? マチコも、そこまでは聴かされてはいなかった。 ブタは昨晩あった事を全部。村中にふれまわるのだろうか? そう考えると身が震えた。マチコはハンマーを構えた。呼び鈴がまた鳴る。 そして何度もマチコの頬を汗が伝ったその時だ。 ブタがむっくりと上体を起こした。彼女が放った一発目のハンマーの後が、 ブタの顔を激しく傷つけていた。 その顔の傷を、手触りで何度も確かめるとブタは言った。 「殺す気かっ!ボケーっ。(`Э´゛)/」 「ゴメンなさい。そんなつもりじゃ・・(><:)」 マチコはうろたえた。 ブタはトレパンのポケットからハンカチを取り出すと、額に滲んだ血を拭っ た。 「俺も今まで色んなオネーチャンをコマシテきたけどさ。ハンマーで叩かれ  んのは初めてだよ!モグラじゃないんだからな」 「ゴメンなさい。痛かった?」 マチコの気持ちに、急にブタに同情する感情が沸いてきた。 「痛いとかじゃないだろっ!血ィーとか出てんだろ!о(><;)о」 「生きてる、証拠だよ・・」 マチコは。恐る恐るブタの顔色を伺うように言った。 「今なんか言ったか?」 「・・生きてる証拠だよ」 「お前ハンマーで叩いといて!その言い方は何だよ!(`Э´*)/」 「ゴメンなさい。о(><;)о」 また呼び鈴が鳴った。外では怒声のようなものまで聴こえた。 「誰だよ?」 「役場の人みたい」 マチコのその言葉を聴いた途端に、ブタの表情に急に暗い陰が差したのがわ かった。 「気分でも悪いの?」 「アホかーっ!お前がハンマーとかで叩いたんだろ!」 「でも役場の人来てるよ(´・ω・)/」 ブタは思いつめたように言った。 「・・・・。ワルい。助けてくれないか?」 「何?(・ω・;)」 「俺と一緒に逃げてくれないか?」 「何で?(・ω・`)」 ブタはマチコの手をキュッと引っ張って家の裏口に向かってズンズン歩いて いった。 ブタのその横顔は何かを思わし気にキッと一点を見つめ、マチコはブタの手 を払いのけることができなかった。                       (つづく)

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