『蟲(むし)』見慣れた動植物とは違う、時にヒトに妖しき影響を及ぼすもの。
蟲師(むしし)は、それらを調査し在るべき様を示す。
ヒトと蟲の世を繋ぐ者、蟲師ギンコの旅の物語。
★前のお話は→
蟲師 続章 あらすじまとめ (特別編「棘のみち」もこちら)
★蟲師1~26話 特別篇は→
蟲師 あらすじまとめ
蟲師 続章 第11話 「草の茵(くさのしとね)」
☆しとね(茵・褥) 座るときや寝るときに下に敷くもの。敷き物、布団。
山を歩く蟲師のスグロ。やけに蟲が騒がしいなと思ったら少年(ギンコ)が倒れていた。
闇の中からギンコを見つめるふたつの目。何だ? 俺を食う気なのか? いや、ただ見ている。俺が何なのか探っている...ギンコはスグロの家で目を覚ました。置いてあった食事を貪る姿を見て、どうやら人の子ではあるようだなと言うスグロ。緑の目玉に白い髪、蟲を寄せる体質を持ち歩く地に災いをもたらす異形の子と噂は聞いていたと言った。
★ギンコがこの姿になった経緯はこちら→
蟲師 第12話 眇の魚(すがめのうお)
何度か蟲師に拾われたと聞くが、また厄介払いでもされたのかとスグロ。なぜ蟲を寄せるままにしておくのか、一つ所に留まらなければ災いは防げるだろうにと言った。ギンコは食ってくためだと答えた。ギンコが蟲を寄せて蟲師が治す。がそれが時々、手におえないことになる。
お前を拾ったのは、そういう輩ばかりってわけだ。ギンコの左目の闇を見たスグロは、穴にトコヤミが囚われている。トコヤミに飲まれたことがあるな、それで体質が変わったのだと言った。トコヤミは闇の姿をした蟲、記憶を食うからある時期から昔の記憶がないだろうというスグロに、じゃあ取り出せばこの体質もなくなるのかとギンコは聞いた。
トコヤミはお前に囚われているだけ、蟲を寄せるのはあくまでもお前だ。そういう者は稀にいるがそれを治す術はないとスグロは言った。気の毒だが受け入れるほかないと。蟲は散らしておいたから数日はもつだろうから行き倒れないよう体力をつけていけとスグロは言った。スグロが蟲師をしているこの山は光脈筋。じゃあ自分を見ていたあれはヌシかとギンコは思った。ここに居座ったりはしないのに。
歩けそうならついてこいとスグロはギンコを山に連れていく。基本的な薬効くらいは覚えたかとスグロ。この山の草は薬効が高いからいくらか持って行けと言った。蟲よけのタバコの作り方も覚えておけ。周囲への影響を弱めるだけでなくお前自身を蟲患いから守ってもくれる。長居はさせてやれないが、たまにたずねるくらいならヌシ殿も文句は言わないだろうと話した。
山で会った猟師がスグロに新しいヌシはどうだと聞いた。スグロはまだだが心配はいらないよと言った。我々が心配しなくても毎年花は咲くし実をつける。それが理(ことわり)というものだ。ギンコが新しいヌシとはどういうことかと聞くと、ヌシにも寿命ってもんがあると言った。
この山のヌシはかなりの高齢だが次のヌシらしきものが見当たらない。ヌシの座に空白ができれば山は荒む。現れなかったら?とギンコ。やがて世は滅ぶ...と言ってもそれは春になっても花が一輪も咲かないのと同じこと。ヌシというのは理のあらわれ、山と理とが深く結ばれていることの証だとスグロは言った。
夜、ギンコが目を覚ますとヌシの監視がなくなっていた。外にいたスグロにどうしたのとたずねると、おそらくヌシが死んだと言った。山を見てくるからお前はここにいろとスグロ。俺が来たからと言うギンコに寿命だと言ったろ、次の主が現れてないから山が不安定だ。お前はここを動くなと言うと山に向かった。
ひとり木に登っていたギンコは山の中に光るものを見て、もしかしてと思い行ってみる。そこにはいくつかの卵があって、そのうちのひとつが黄金色の光を放っていた。ヌシの卵か。凄い、ちゃんと生まれたんだ。ギンコはそれを手の平に乗せた。あのヌシの力がこの中にあるのか。俺とは正反対の選ばれたもの。
今ならその力を自分のものにできるんじゃないかと思ったが、バカなと思い直して巣の中に卵を戻そうとする。するとそこに親鳥が戻ってきて驚いたギンコは卵を落としてしまう。卵が割れた。山の様子がおかしくなり、スグロも異常に気付く。割れて光が弱くなっている卵を抱えてギンコはスグロの名を呼び走る。どうしよう。ギンコの前にヌシが現れた。生きていたのか。
去ろうとするヌシにギンコはどうしたらいいのか教えてくれと言う。何だってするから、全部もとに戻るなら俺はどうなってもいいから。すると足元が...ギンコは卵を抱えたまま落ちた。気づくと目の前は光る川? 光脈か。ヌシがその中に入っていく。待ってくれとギンコ。
ヌシが消え立ち尽くすギンコの前に光の輪が。ギンコはたぶんあそこは行ったら戻れないところだと思った。でもかまわない、もともと俺にいていい場所なんてないんだ。ギンコは輪のほうに歩く。左目の穴が痛む。トコヤミが暴れている。なんで俺のジャマばかりするんだと言ってギンコは気づいた。そうかお前、生きていたいのか。
ギンコの前に手が現れた。卵を乗せろと言っているようだ。ギンコはその手に卵を乗せた。すると手が輪と反対側を指した。戻れと言っているのか。卵は輪の中に消えた。俺は戻ってもいいのか...ギンコは山の中に戻っていた。スグロがギンコを見つけた。ギンコ、お前、無事か? ギンコの目から涙があふれた。
家に戻りギンコの話を聞いたスグロは、この山は当分閉じねばならんなと言った。理は消えてしまったの? この山はどうなるのとギンコ。スグロはお前が会ったものこそが理だよと言った。地表に現れる花がヌシなら、彼らは根。彼らがヌシの命を受け取ったのなら、いつかまたヌシは現れるだろう。
旅のしたくをしろとスグロ。俺はお前を許すわけにはいかん。もう二度とお前には会わんと静かに言った。
ひとり山を歩くギンコ。今日はここらで休もうか。草の上に寝そべって星空を仰いだ。スグロの言葉を思い出した。
「もう二度とお前には会わん。だが忘れるな、この世に、居てはならない場所など誰にもないよ。お前もだ。理に戻ることを許されたんだ。この世のすべてが、お前の居るべき場所なんだ」
☆次回 「香る闇」