『蟲(むし)』見慣れた動植物とは違う、時にヒトに妖しき影響を及ぼすもの。
蟲師(むしし)は、それらを調査し在るべき様を示す。
ヒトと蟲の世を繋ぐ者、蟲師ギンコの旅の物語。
★前のお話は→
蟲師 続章 あらすじまとめ
★蟲師1~26話 特別篇は→
蟲師 あらすじまとめ
蟲師 続章 第15話「光の緒」
ゲンは今日もケンカ。年上の子を相手にすごい怪力、おまけに癇癪持ち。今に何やらかすか末恐ろしいなと大人たちは心配する。父にケンカの理由を聞かれ、あっちが悪いと答えた。母さんのことを陰でコソコソ、病気というのはウソでゲンのことが嫌いで出て行ったと言っていた。
そんなわけないだろ、いい子にしてれば母さんの病気も治ると父は言うが、ゲンはそんなのウソだと言った。俺を産んだせいで病気になったから俺に会いたくないんだというゲンに父は、お前が元気すぎるから会わせると病気に良くないのだと言った。
(ゲンには蟲が見えた) 父が話しているとき、家の中の不思議なものを見ていた。いったい何を見ているんだと言われ父を突き飛ばした。ひとり部屋にいると行李が崩れてきて、その中に光るきれいな衣を見つけた。なんだこれ? いろんな色がゆらゆら動いてまるで生きているみたいだ。
きれいだなあ。でもきっとこれは見てはいけないものだとゲンは思った。あれらと同じもの。見たと言ったら叱られる。前に空に人がいるから天女かなと父に聞いたときも、何を言ってる気のせいだと言われた。そんなもの見ちゃいけない、そんなものいやしないと父は言った。
夜中にもういちど光る衣を見て、どこにも縫い目がないと気づいた。天女の衣には縫い目がないのだと草紙(子)で読んだ。空にはまた人のようなものが飛んでいる。もしかしてあれは、この衣を探しているのかなとゲンは思った。
またケンカをしたゲンにギンコが声をかけた。ずいぶんとたくましく育ったものだな。誰?と聞くゲンにギンコは、お前が赤子の頃にちょっいと縁があってなと言った。あの貧相な子がここまで...そして、変わった衣がお前の家にあるだろう、あれは俺がお前に着せたものだと言った。
とても体が弱い赤子がいるというのでギンコはやって来た。かなり心配な状態だった。特別な衣を着せて、この子が生きる力を取り戻すまで、この衣はこのままにしてくださいと言ったが、衣が見えない父親はデタラメを言うなと言った。しかし赤子は意識を取り戻し顔色も良くなってきたようだった。少しこのまま様子を見ませんかとギンコは言った。お礼はこの子が立派に育ってからでかまわないから。
とまあ、そういう事だったんだが、少し効果がありすぎたかねとギンコ。怒ると自分でも力の加減ができないのだろう。蟲切りが必要かもなと言う。蟲を見る性質が強くなりすぎると、子供のうちは特に、自分で自分を思い通りにできなかったりする。薬を塗ろうと手を貸してみと言うと、それをしたら、あれは見えなくなるのかとゲンは聞いた。
いやなら全部は抜かないがと言いゲンが差し出した手に薬を塗った。指の先から蟲が出て来るはずだったが何も出てこなかった。父親に息子さん元気に育ちましたなと言うと、たくましく育ってくれたのはいいが、いくらか手におえないところがあると言った。
あのときは藁にもすがる思いだったが、ゲンがああなったのは、あんたのせいじゃないのかと父親。あんたいったい、あのときゲンに何をしたかと聞いた。ギンコは本人に口止めされていたが、あのときここへ来る前にあの子の母親に会ったと話した。あれは彼女が作ったものです(ゲンがこっそりふたりの話を聞いていた)
あのとき...ギンコは山の中で不思議な衣が掛けてある家を見つけてたずねてみた。家にいた女性はゲンの母、ゆいだった。きれいな衣ですね、どこで手に入れたんですと聞くと、あなた、この着物が見えるの?とゆい。これは自分が紡いだ糸で織ったものだが、その糸が何なのかわからない。息子を産んだとき生死を彷徨ってから急に見えるようになったと言った。
ゆいはゲンを産んだ後、何日も眠ったままだったので、子供は里へ連れて帰ったが、近いうちに連れて来るから、しっかり養生しろと夫に言われた。(蟲が見えるようになって) まるで生まれ変わったみたい、世界が違って見えた。草や木はあんなに光を宿してたかしら。木に触れると糸のようなものが出た。とてもきれいな糸なのでゲンの晴れ着にいいと思い紡いでいると母が驚いた顔で何をしているのかと言った。ここらの木からこんなにきれいな糸がとれるのよと言ったが、母はあんまり無理するんじゃないよとだけ言った(母親は蟲が見えない)
夫が息子のゲンを連れてきてくれた。元気そうだと言われたが母親は、時々おかしなことを言うと話した。ゲンも光を帯びていた。なんて愛おしい、顔に触れると糸のようなものが出た。そしてゲンは急にぐったりしてしまった。何があったと夫に聞かれ、撫でたら光る糸が抜けてと話すと、何を言っているんだと言われた。ゲンを抱くと医者に連れていったが、お前は来なくていいと言われた。
夜、衣が脈打つように動き脱皮のような現象が起きた。これは生きているのだ。あの糸は触れてはいけない何かだったのだと思った。ギンコに話すと、あの糸は蟲師が妖質と呼ぶもの、あんたが急に持った今まで見えなかったものを見せる力のことだが、それを薬も使わずただ指で紡げるという話はきいたことがないと言った。
抜くとどうなるのかとたずねると、成長した子供なら障りはないが赤子のうちは妖質は生きるのに必要な要素でほとんどの者が持っている。むやみに抜けば生きる力を失うとギンコは言った。だが、ひとつ望みはある。この衣をあの子に着せればあるいは...
結果はご存じの通りですと父親に話すギンコ。あの子は人一倍たくましく育った。が少々、妖質を持ちすぎた。普通なら蟲師が薬で抜けるものが効かないくらい。あなたには信じられない話かもしれないが、あの子に話して母親に会わせてみては。今、あの子の糸を抜けるのは母親くらいですよと言うと、それは無理だと父親は言った。
隠れて聞いていたゲンが戸を開けた。母さん俺のこと嫌いじゃなかったんだ。母さんに会いたいとゲンは泣いた。父親は、すまない、もっと早く会わせてやるべきだったと言った。ゲンを連れていく。ゆいはまるで抜け殻のようになっていた。もう二年近くこの状態だと父。もっと早くゆるしてやれてたらと言った。
あの後も糸を紡いでいたのか。新しい衣を作るために。妖質に触れすぎて蟲の気を帯びてしまっている。もっとこっちに注意しておくべきだったとギンコは思った。
ゲンがゆいを見て、この人、知ってると言った。覚えているのかと父親が聞くと、そうじゃないよと言った。
「いつも俺を見ている天女だ」
親子は母親の体を里へ連れ帰った。しばらくするとその体に生気が戻っていった。やがてその天女は姿を消した。ゆいは夫に、ある時すっと体が軽くなって、気づくと空からあの子を見ていた。あの子がちゃんと育っていて嬉しかったと話した。ギンコは約束通りお礼に衣をもらった。あの光はもう全く見えなくなったとゆいは言った。そして強力な薬でも開発しないとかと思えたゲンは、明るく優しい子になっていた。
☆次回 「壷天の星」