およそ遠しとされしもの。
下等で奇怪、見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達。
それら異形の一群をヒトは古くから畏れを含み、
いつしか総じて『蟲』と呼んだ。
(2006年に放送されたものです)
★2014年4月~12月「蟲師 続章」→
蟲師 続章 あらすじまとめ
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蟲師 あらすじまとめ
蟲師 第21話 綿胞子
嫁入りの時に北の森を通った時についたのだろう。いつの間にか被衣綿(かずきわた)に緑色のシミができていることに婚礼の後で気がついた。酷く禍々しいもののように思えた。翌年に長男のワタヒコが生まれた。斑が出始めてから衰える一方で見るたびにあのシミを思い出すとギンコに話す夫婦。
見当違いでしたらお許しをと言うとギンコはこの子は生まれたとき人の姿をしていましたかと聞いた。ケモノの姿ですらなかったたと母親のあきは答えた。夫のヤスケがあれは産声も上げぬ緑色の得体の知れないかたまりだったと言った。
それはあっという間に床下に入り込み姿を消し子どもを欲しがっていたあきはふさぎ込んだ。一年が過ぎた頃、夜中に床下から音がするので見ると赤子がいた。誰かが捨てていったのかと言うと、あの時の私たちの子が人の姿に育ったんだとあきは言った。内心恐ろしかったがヤスケもそう思い込むことにした。
その子、ワタヒコの成長は早く半年あまりで三歳児ほどにもなったが頭の中は赤子のままで表情はなく言葉を発することもなかった。それでも自分たちに似てくる面差しに次第に情も移っていった。そんなある晩、また赤子が同じように床下にいるのを見つけた。
ワタヒコと何から何までそっくりな赤子を抱いて同じように育てないととあき。また増えるかしらと言うあきに恐ろしいことを言うなよとヤスケは言ったが予感は的中した。ワタヒコは半年ごとにまるで湧くように増えていった。しかし何度も床下を掘り返してみたが何も変わったものは見つからなかった。
今年に入って長男の様子がおかしくなり、一日の大半を眠り続け緑の発疹が増えた。医者には匙を投げられギンコに相談したのだった。ギンコは残念ながら蟲師にもこの子を救う手だてはない、これが寿命だと言うと蟲の話をした。
【綿吐(わたはき)】 緑色の綿のような姿で空中を漂い身重のヒトの胎内に入り寄生する。生まれてくる時はヘドロ状だが素早い動きで床下や天井裏に逃げ込み一年が経った頃、赤子の形の人茸(ひとたけ)をヒトの親元へ送り込む。
それからの増え方といい記録と寸分違わない。床下を調べるとやはり大きく育った綿吐がいた。人茸の体はこの蟲の本体と糸のようなもので繋がっている。あれらは本体に養分を送るための蟲の一部にすぎないとギンコ。あの子はじきに役目を終え壊死する。そして死に際に大量の「たね」を吐く。その前に殺さなければならないと言った。
何を言っているのと怒るあき。あの子を救うためにあなたを呼んだのだからと言うが、救える「子供」などもういないとギンコは言った。あの「子」らはあなたたちの子供の皮をかぶった「蟲」そしてあれこそが生まれてくるはずだったあなた方の子供を殺したモノ。
ギンコはすまんなと言い長男に注射をした。ヤスケは他の子どもたちは発症するまでは見逃してくれないか種を吐く前に自分が始末するからと頼む。綿吐の寿命は十年から三十年と個体差があり、この先何年続き何人の子を殺さなければならないのかもわからないとギンコは言うが、あの子らをすべて失えばあきがどうなってしまうかわからないから約束すると言った。あきは昔、町の大店の家に嫁ぎ跡取りを産んだが一歳を迎える前に些細な事で死なせてしまい離縁されていた。
これまでは綿吐の子とわかれば直ちに全員を殺すことで根まで枯らし、いずれは危険となるふたつめ以降を生かしておいた記録はない。それらはこの先、何らかの変化をしないとは言い切れないがしないかもしれない。わからんものも皆殺しというのは大雑把で好きじゃない。三月のうちにはまた様子を見に来るから何かあったら文をくれと言うとギンコは去った。
そして文は三月足らずで届けられギンコは再び訪ねた。「あいつがきた、ころされる」とワタヒコ。納得したと聞いていたあきだったがギンコを刃物で刺しケガをさせた。事情が変わったようだなとギンコが言うとあの子らは成長が早まっただけではないとヤスケ。ある時、次男にしか教えていない栗の皮むきを四男がやっていた。そして言葉も話すようになった。そんな中、次男はあの症状が出て俺たちの務めだからやらねばと思ったが、死ぬのは怖い殺さないで、助けて、まだ生きたいと言った。
あれはもうヒトのようなものになってしまった。たとえ我が子の仇だろうと俺たちにはもうとヤスケは言った。綿吐は思考力を持つようになっていた。これまでも機能はあったが長男の死で危機を察したのか。一人が得た情報が全員に伝播している。ひとりひとりは根元で繋がった全体の一部だ。人のようなもの、否、彼の中に棲むは、ただ思考するばかりのくさびら
ワタヒコたちが意志を伝え合う。「しっぱいした、ころされる、たねをまもらなきゃ。なにかほうほうがあったきがする。ことばをおぼえてわすれてしまった。たねをまもるほうほう......」そしてギンコの蟲のことが書かれている巻物を見た。
翌朝ギンコは次男が寝ている奥の間へ。その後、根をはらい残りの子らを連れて行くとヤスケに話した。もうあれらをこれ以上あんたたちの元には置けない。次男は死にたくないから殺さないでと言ったがギンコは無駄だと言った。どうして殺すのと聞かれお前らがヒトの子を喰うからだとギンコ。僕らは悪くないと言う次男に俺らも悪くないが俺たちのほうが強いからお前は種を残せずに死ぬんだと言った。
「それじゃあ、しかたがない。やろう」ワタヒコたちは家に火を着けた。床下の根もろとも焼くつもりか。次男がギンコに言った。「おまえのもっていたまきものにかいてあった。ほんらいならむいしきにできるはずなんだがな。たねをまもるにはこうするしかない。われらのかちだ」
子どもたちを助けようとするあきに来るな火を着けたのはあいつらだ、種のためなら何でもする蟲なんだとギンコ。炎の中にワタヒコたちは消えた。家は焼け根は完全に消えていたがギンコは見つけた。綿吐は災害などの危機に陥ると人茸を根から切り離し、たねだけでもよそへ逃がそうとし人茸は姿を変えて長い眠りに入る。ギンコはそう話すとあきにあるモノを渡した。再生がいつかはわからない。あんたたちの死んだ後かもしれないが時が来るまで預けておくと言うと、わかった肌身離さず持っているよとヤスケは言いギンコはヤスケの家を後にした。
「なにをわたしたんだ」とワタヒコ。人茸はギンコが持っていた。鉱物だよ、生活の糧の一部だったのに丸損だとギンコ。「なぜそんなことを。ふかかいないきものだ」と眠らずに話すワタヒコ。「なぜわたしを、いまのうちにころさない」と言われギンコは答えた。「まだ寿命があるからだ」ふかかいないきものだと言うワタヒコに、いいからお前もう寝ろよとギンコは言って懐にしまうと歩き出した。
★原作では第2巻にあります。