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once 2 私の旅立ち

***2***

朝子は息を弾ませて飛行機に乗り込んだ。あぶないあぶない、乗り遅れるところだったわ。子供がいると、なかなか予定の時刻に家を出るのは難しいわね……。

時間がなくてまとめられなかった胸まである髪を揺らし座席に腰を下ろすと、やっと一人で旅行に行く実感が湧いてきて、朝子は鼓動を静めようと胸にそっと右手を当て、外を見た。

……よく晴れてるわ。

彼女は6年前に幸せな結婚をし、その後子供にも恵まれた。

夫が朝子に与えたのは、安定した収入と、それに伴う孤独な時間だった。

彼女は一度、「私も外に出て働きたい」と、言ったことがある。

でも夫は「朝子がそんなことをしなくても暮らしていけるし、何より俺が家にいられないぶん、お前が家にいて、一人(いちひと)の面倒をよく見てやってくれ」と言った。

朝子は晴れた外を見るのをやめ、俯いた。

夫は優しい人。何より、子供のことを第一に考えてくれる。

彼女はそんな夫が好きだったし、子供もとってもよい子だ。だから少しでも気持ちよく過ごしてもらおうと、一日中家の中で、掃除や洗濯、料理や裁縫なんかに明け暮れることが多かった。

……でも。

朝子は目の前の座席を意味もなく凝視し、心で呟いた。

私は今、賭けに出ようとしている。

夫も、子供も知らない。旅行の目的が、本当はカステラじゃないことを。

ま、あいつに会える確証はないんだけどね………。本当に、カステラ旅行になったりして。

そう考えてクスリと笑い、朝子は離陸に備えベルトを締めた。聞こえてくる意味のわからない音楽と共に、意識は遠くへ飛んでいた。



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