前回は、「読みやすい文章にする」 ということについて触れました。この作業の中で編集者が行っているもう一つのこととして、 “用字と用語を統一する” というものがあります。
著者の原稿には、同じ言葉なのに、前の方では漢字だったのが途中からひらがなになっていたり、用語の表現に不統一があったりと、いろいろな問題点が見つかります。そこで編集者は、それをある一定の基準で整えていきます。 (ただし、この整理の基準は編集者によっても違いますし、同じ編集者でも、それぞれの原稿に応じて整理の仕方を変えたりもします。)
以下に、いくつか簡単な例を示しますが、これはあくまでも私の場合ということで理解して下さい。
1. 漢字にするのか、ひらがなにするのか、あるいはカタカナにするのか
例1 : 「AはBと呼ばれている。」
“呼ばれて” の表現は、まさに声に出して呼ばれているような場面ではよいかもしれないのですが、 「一般に、そのように言われている」 という意味に近いのであれば、 “呼” をひらがなにして、
「AはBとよばれている」
とします。
例2 : 「これはねじです。」
“ねじ” という言葉の前後がひらがなだと、周りの言葉に埋没してしまってわかりにくいということがあります。そこで、 “ねじ” を “ネジ” とすると、
「これはネジです。」
となって、“ネジ” という語がはっきりとわかるようになります。ちなみに、ねじを漢字にすると “螺旋” となるのですが、これはパッと見て読みにくく、漢字の上にルビをふる必要があるでしょうし、 “ネジ” の方がよいだろうと判断します。
2. 同じことを指している用語は同じ表現で統一する
例1 : 「携帯電話は大変便利である。・・・ そして最近は、小学生でも携帯を持っている。」
“携帯” という用語が “携帯電話” を指していることは読者の方にも明らかにわかると思うのですが、用語の統一という観点から、
「そして最近は、小学生でも携帯電話を持っている。」
と直します。
例2 : Microsoft は巨大企業である。・・・しかし最近は、マイクロソフトも・・・。
それぞれの文は不自然というわけではないので、“Microsoft” か “マイクロソフト” のどちらかに統一します。ただし、他にも会社名がたくさん出てきて、たとえばカタカナ表記が多いという場合には、そちらに揃えた方がよいだろうと判断します。
用字と用語の統一では、読者が少しで読みやすいように “表現” を整理していきます。しかし、実際の作業では、上のように簡単に統一がはかれる (方針が決まる) ものではなくて、横組みと縦組みの違いで英字をカタカナにするか、そのままでいくかどうか悩んだり、「これは漢字の方がいいなー。 でも、ここまではひらがなで統一してきたし・・・。 やっぱりひらがなの方がいいかなー。」 と何度も原稿を戻って読み返したりしながら、作業を進めていきます。
今度一度、手元にある本を、表現の統一がなされているかどうかということに少し注意して読んで見て下さい。 「あれ? さっきは漢字だったのに、ここはひらがなになってる」 などというところが見つかるかもしれません。 たぶん、見つかると思います。でもそれは、その本の編集者が統一すべきところを見過ごしたのかもしれませんが、もしかしたら、意図的にそのようにしたのかも・・・。本当のところは、担当の編集者のみが知り得ることですね。
次回は、ちょっと道からはずれるのですが、編集者が普段の編集作業で使っている道具 (文具) を紹介してみたいと思います。