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カテゴリ:日本映画
CURE
Kiyoshi Kurosawa 111min (所有VHS) 黒沢清作品、『ドレミファ娘の血は騒ぐ』、『カリスマ CHARISMA』(明日アップ予定)、『回路 Pulse』、『降霊 KOUREI/Seance』、『ドッペルゲンガー Doppelganger』、『LOFT』、『叫』とこの『CURE』でもうかれこれ8本見てきました。結構好きだということですね。 やはり完成度とか脚本の練られ度とか、この『CURE』がいちばん良く出来ていると思います。比較的難解でもないし、黒沢作品を観たことがないという方にはいちばんオススメでしょうか。この『CURE』もそうですが、ホラー/サスペンスで、しかし描いている内容は倫理的問題で視点はペシミスティック、でもユーモアを交えたコミカルな面もあって、そんな不思議な世界が黒沢作品の魅力です。『回路』でも『カリスマ』でも象徴と言うかメタファーというか、深読みはいくらでも出来るのですが、だから2度3度と見れば色々新しい味わいを与えてくれますが、単純に映像に身を任せて観るだけで映画的楽しみを与えてくれます。 中川安奈(後に主人公高部刑事の妻・文江とわかる)が心理治療を受けている場面で始まる。固定画面に写されるのは、病院の治療室とは思えないようなオシャレな家具の置かれた広い部屋、テーブルの前について『青鬚』を音読する文江、そしてその前を右や左に歩いてフレームに入ったり出たりの医師、もう既に我々は黒沢ワールドに招き入れられる。同時に精神医学的・心理学的ことが作品の根底にあるらしいことを観客は知らされる。本庁の高部刑事(役所広司)が追っていたのはある類似した特徴を持つ何件もの殺人事件だった。殺人の動機がはっきりしない。警察の精神鑑定をする医師・佐久間(うじきつよし)は、「犯罪の動機など他人にはわからないし、本人にだってわからない」と言うが、犯人は皆捕まっているが、互いに何の関係もなく、なのにどの事件でも両の首筋から胸にかけて X 字に切られた共通性に高部は納得いかなかった。 しかしその真相はやがてわかってくる。元精神医学科の学生で、今は記憶を失っている間宮邦彦(萩原聖人)という謎の男が、どの殺人の前にも犯人に会っているといて、どうやら催眠術を使って犯行をさせていたということだ。それは誰かを殺させるというのではなく、会った人の内なる欲求を発現させて、結果としてはその人の心を解放するというものだ。その意味で連続殺人事件の謎というサスペンスは早々に終結してしまう。そこからは取調の会話で間宮が高部の心を揺さぶっていくサスペンスとなる。 映画の中で描かれる殺人事件は4件だ。最初は理由もわからずホテルの部屋で娼婦を殺した男。2件目は特に憎んでいるわけでもない妻を殺してしまう教師。「その時はそうするのが当然だと思った」と教師は言う。3人目は新任の若い巡査を嫌っていて殺してしまった交番の警官。最後は医者になることで「女だてらに」と批判され、外科医を諦め内科医になった女医(洞口依子)。最初の2人には特別の理由はなく、後の2人には個人的ないし男尊社会に対する恨みがあった。 いずれの場合もたぶん周囲からは「あの人がこんなことをするなんて」と思われていたであろうごく普通の人たちだ。映画的には間宮という仕掛人を用意したが、そういう普通の人たちがあるとき突然事件を起こす背後に潜む現代の社会、特に日本の社会の病理。人々は社会のシステムに組み込まれてしまって個人の顔を失ってしまっている。洗濯物を受け取りにいくクリーニング店のシーンで高部が出会うサラリーマン風の男がそれを象徴する。高部にとって精神障害の妻・文江はお荷物であり、間宮との接見の結果、妻の死を妄想したりする。しかしこの妻が、あるいは妻の病気が示しているのも、個人の顔を失ってしまっていることだ。何も入っていない空の洗濯機を執拗に回す文江。彼女の人格はただ空回りをするのみで、決して文江その人としては扱ってもらえない。 この映画には18世紀の動物磁気説や催眠術の異端の医師・フランツ・アントン・メスメルが、間宮の研究ないし信仰の対象という形で登場する。『LOFT』でも昔の記録フィルムが登場するが、ここでもメスメルの明治期の研究記録フィルムなるものが登場する。語られるのは明治政府による弾圧だ。江戸幕府の鎖国による停滞の遅れを急いで取り戻そうとした明治以来の近代化政策。日清・日露戦争、2度の大戦と敗戦、その急速な近代化が現在の日本の病理の原因となっていると考えるのは、深読みに過ぎるだろうか。(以下ややネタバレになるが)高部は精神の危機を上手く整理できたようなラストだが、映画全体、つまりは社会への視点はペシミスティックだ。 監督別作品リストはここから アイウエオ順作品リストはここから 映画に関する雑文リストはここから お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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