工場長の呼び出し
ある日土井は山口工場長に呼び出された。また、何かお叱りを受けるのかと内心ひやひやしていた。工場長の部屋のドアを開けると晴れやかな顔をした山口が部屋の奥の窓際の机の前で待っていた。「君、飛行機の設計をやってみないか」土井は驚いた、職工上がりの自分には手に余る仕事だと思ったからだ。「私には無理です」土井はきっぱりと断った。山口はにやりと笑い、「いや、君には出来る」と答えた。東京帝国大学卒の山口はかねてより土井を設計主任に抜擢しようと計画していたのだ。そして、工学系の理論を深く理解している山口には土井の底知れぬ能力が分かっていたのだ。同盟国にナチスドイツ軍があるがメッサーシュミットBF109のようなスマートな機体を作ってくれ。土井はもちろんBF109のことは知っておりドイツ空軍の主力戦闘機として大きな成果を上げているのも知っていた。「あれは液冷ですよね」「そうだ、だれもやったことがないスマートで速度の出るやつを作ってくれ」山口工場長は川崎重工のなかでそれを完成させられるのは土井しかいないと確信していた。「既存の理論に固守する奴じゃ駄目なんだ」面白そうですね、土井はそう答えた。