風呂場のジョン 2
「やめて、流さないでぇえええーーー!」スネグチは叫んだ。 …それはもうほとんど、泣き叫んだのだった。彼女はいつも、夜八時頃に子供を産み始める。この出産は約15分かけて行われるが、そのためには、オケロフとナラオの協力が欠かせないナラオが子供達に体温を与え、オケロフがその子供達を抱きとめるのだそして、今の時刻は11時40分毎日必ず訪れる、日常的な別れの始まりだったジョンを始め、ナベシキも、ラシブも、オッケーも、これには慣れっこになっていたただ一人、スネグチを除いて……「イヤ……私…堪えられない…………」スネグチは、冷水をピチョピチョと垂らしながら、クビを背けた「いい加減にしろよ……」あきれ顔のオケロフが言った「僕が流しているのは、ただの水だろ?……君の子供じゃないよ」スネグチには、残酷な一言だった「確かにこの子達は空から来たわ…。でも私はね、この子達を産んでいるのよ!」「バカ言ってるよ……しかも、『この子達』だって?水っていうのは、数えることができないんだよ。知らないのかい?」スネグチは、クビをガキュガキュと振った「分かってるわよ……でも、この子達は私の子供だと思うの………。だって、私の中から産まれてきてくれるんだもの…」そのときゴキュッっという音と共に、オケロフの穴から最後の水が抜け落ちた「空から降ってきたって言うんだな……」オケロフはつぶやいた 「だったら簡単な話じゃないか。大体、その水がお前の子供ならどうして俺に預けるんだ。捨てられるって分かっているのに」「そんなの……TOTOの設計者に聞きなさいよ!私だって、捨てたくて産んでるんじゃないのにーー………!!」オケロフはため息をついた「だから、どうして産むのかって聞いてるんだよ……。捨てたくないのなら、どうして水を流すんだ?」オケロフは「それはな」と、スネグチの答えを遮った「水は絶対に流れていくものだからだ。お前は『捨てる』なんて言い方をしたが、実際はそうじゃない、むしろ空から降ってきた水を俺に産み落としたあと、海を産み出しているんだ。」スネグチは、冷えた鉄パイプのように笑った「バカ言わないで…分かってるのよ。私があの子達を産み出すのは結局、人間の汚いものを海に流すためよ。海を産む?あんたバカァ?」オケロフはかまわず言い続けた「それでもお前の流した水は、必ず海へ行く。たしかに汚いかもしれないが、一種の微生物には歓迎されるんだ。いいか、歓迎されるんだぞ!!?」スネグチはもう冷え切っていて、ただ黙っていた「いつの日かお前の流した水は、お前だけのものではなくなる。お前が流した水を『子供』だと言い張るなら、その時の水は『大人』になるはずだ!…だからお前が産んでいるのは………」スネグチは言った「なんでもかまわないわ。私は、私の子供がいなくなるのが悲しいだけよ」