カテゴリ:噺家の落語とボクの人生落伍記
太宰治『富嶽百景』を読む 二十回
帰りに、娘さんは、バスの発着所まで送ってきてくれた。 歩きながら、「どうです。もう少し交際してみますか?」 きざなことを言ったものである。 「いいえ。もう、たくさん。」娘さんは、笑っていた。 「なにか、質問ありませんか?」いよいよ、ばかである。 「ございます。」 私は何を聞かれても、ありのまま答えようと思っていた。 「富士山には、もう雪が降ったのでしょうか。」 私は、その質問には拍子抜けがした。「降りました。いただきのほうに、_。」 と言い掛けて、ふと前方を見ると、富士が見える。へんな気がした。 「なあんだ。甲府からでも、富士が見えるじゃないか。ばかにしていやがる。」 やくざな口調になってしまって、「いまのは、愚問です。ばかにしていやがる。」 娘さんは、うつむいて、くすくす笑って、 「だって、御坂峠にいらっしゃるのですし、富士のことでもお聞きしなければ、悪いと思って。」 おかしな娘さんだと思った。 甲府から帰ってくると、やはり、呼吸ができないくらいひどく肩が凝っているのを覚えた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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