「主よ、あなたの息子をどうぞ」 フォード・マドックス・ブラウン
一見不吉な印象を与えるこの絵。イギリスの画家フォード・マドックス・ブラウンの描いた「主よ、あなたの息子をどうぞ」という絵だ。彼の描画スタイルはラファエロ前派のそれである。彼のことはあまり詳しくないが、一生を不遇のうちに終えたという。中学生の時に初めてこの未完の絵を見て私は激しい衝撃を受けた。不吉で薄暗いイメージが画面全体を覆っている。女が差し出した子供の先には、その父親と思しき男がおり、それは女の背後にある凸面鏡に写り込んでいる。凸面鏡は後光("halo")のイメージであり、壁紙は星が輝く天国を表現しているのだという。聖母子像のスタイルをとりながら、女の表情は病的であり、生気が失せている。この絵は、ブラウン氏の妻子をあらわしたのだとも、ある女の私生児を描いたのだともいわれているが、私にはよくわからない。この絵が私に激しいインパクトを与えた理由は未だによく分からないが、芸術を体験するときに、あまりあれこれ深く考えずに見て感じるということは非常に大事なことだと思う。