そろそろプロトンポンプ阻害剤は見直しの時期では?(2)アスピリンとの併用
逆流性食道炎に対する治療薬としてはプロトンポンプ阻害剤は優れた薬剤であることは理解しています。「鎮痛剤服用中の消化性潰瘍の再発予防」に対する効能を見直した方がいいということです。鎮痛剤使用中に発生した消化性潰瘍(NSAID潰瘍)に対して、ガイドラインはNSAIDの中止と通常の潰瘍治療を行うこととされています。通常の潰瘍治療はプロトンポンプ阻害剤となっています。NSAIDの中止は疼痛によるQOLの著しい低下を招く恐れがあることと、NSAIDの鎮痛作用のために消化性潰瘍が発生しても自覚症状に乏しく、無症状のうちに消化性潰瘍が発生して重症化する可能性が高いことからNSAIDを長期間使用する場合にはプロトンポンプ阻害剤を投与する合理性があるということになっています。もっともな話ですが、NSAIDを投与するとどれぐらい消化性潰瘍が発生するのでしょうか。そしてプロトンポンプ阻害剤はそれをどれぐらい予防するのでしょうか。その答えは申請概要が公開されているので、臨床結果をみることができます。タケプロンの審査報告書で臨床試験の内容を見てみました。すでにアスピリンとの併用に関して適応を取って、さらに鎮痛剤まで効能を広げたときの審査報告書です。第Ⅲ相試験の結果はとなりました。投与361日までの累積発生症例ゲファルナート群は46/181(36.9%)、タケプロンでは15/183(12.7%)となりました。審査官はゲフェルナート群でも70%以上で潰瘍が発生していないことから、消化管潰瘍が再発する症例としない症例で何か差がないかとの疑問を出しましたが、この試験で収集した背景因子の中には判別できるような症例はなかったこと、長期試験を行ってもこの差は埋まることがない事から併用投与する意義があるという主張を審査官は認めました。薬理学的には承認条件を満たしています。これはすでにこのブログに書きましたが、医療経済上は併用意義があるかどうかは検討が行われていないので、不明です。しかし、長期投与すればするほど医療経済上は併用しない方がいい事になります。医療経済的は面も保険で使えるかどうかを検討するヨーロッパではNSAID潰瘍の予防は使うことは出来ません。日本ではNSAIDが処方されると短期間であってもプロトンポンプ阻害剤が処方されることがあります。実際に抜歯の痛み止めでプロトンポンプ阻害薬を処方されたときには断りました。問題はプロトンポンプ阻害剤が長期投与を行って問題のない薬剤であるかどうかです。プロトンポンプは1989年に米国でオメプラゾールが発売されたのが最初です。2020年ですから、発売30年になります。消化管潰瘍の再発防止に使われる用になったのが2010年頃ですから、10年が経過したことになります。消化管潰瘍の治療では1年にわたるような長期投与は認められないと思いますが、NSAID潰瘍の予防に使うのであれば、10年ぐらいは使う可能性があります。長期使用薬剤は申請時には2年程度投与の副作用の発生状況が短期投与と変わらなければ認可されると思います。再審査時に長期投与による影響が考慮されるべきではありますが、臨床試験として行われていないので、副作用は副作用報告によって副作用発生数は分かりますが、発生率は実際にNSAID潰瘍予防のために用いられていることを把握しているところはないので分かりません。といわれていましたが、保険のための処方データが第三者が利用することが可能になったので、ビッグデータの処理を行えばプロトンポンプの長期投与の影響に対して疫学的に研究することができるようになっています。できることとやることは別の話で、何らかの仮説がなければ実施することはできません。しかし、仮説が出てきたと思います。Cheung KS, Chan EW, Wong AYS, et alLong-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based studyGut 2018;67:28-35.https://gut.bmj.com/content/67/1/28.infoです。香港で行われた疫学的研究です。ピロリ菌排菌した人々で胃癌の発生率を見たものです。ピロリ菌感染は胃がんのリスクを上げることは既に高値であると思います。その因子を除外して他にどんな因子があるかどうかをみたということです。その結果PPIを3年以上飲んでいる人は有意に胃癌の発生率を高めているということでした。このデータを具体的に見てみると長期間飲んでいる人とそうでない人の胃がんの罹患は1万人に4人分増えているということです。日本での男性の胃がんの罹患率は10万人で144.9(2017年)ですから、10万人に40人増えたということはもしかしたら、PPIの長期使用を止めれば胃がんの罹患率は10万人に100人強となり2番目の罹患率である胃がんの順位は3位の大腸がん(141.4人)、4位肺がん(134.4人)に抜かれて4位になる可能性は高いと思います。この計算は非常にざっくりしたものであることは認めます。しかし、ビックデータの解析を行う動機としては十分ではないかと思います。だれかやりませんか?ピロリ菌治療後10年ぐらいのデータを処理して、なにが胃がんの罹患率を高めているかを検討することを。今日読んだ本いかん20年前のコミックスを20巻読みたくなった。BLACK CAT 1【電子書籍】[ 矢吹健太朗 ]価格:647円 (2020/10/9時点)楽天で購入