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あすなろ日記

あすなろ日記

黒執事小説『夢幻の森』

     黒執事「夢幻の森」


 真夜中、人里離れた森の中の屋敷に恐怖が訪れた。

 「助けて。神様。どうか、お母様から僕を守って。」

 胸元で十字を切って祈る10歳の少年は神に祈っていた。

 突然、食事中に倒れた母親が夜中に目を覚ますと、

 壁に飾ってあった銀の斧を持ち、父親の首を刎ねたのだった。

 母親は屋敷の中を徘徊し、次々と使用人を惨殺した。

 少年は兄に渡された小銃を持って、自室に隠れ、

 屋敷中に響き渡る悲鳴を聞きながら、恐怖と闘っていた。

 鍵をかけた部屋の扉を斧でバキバキッと叩き割る音が聞こえたかと思うと、

 扉に開けられた穴からスゥッと手が入ってきて、ドアノブの鍵を開けた。

 ゆっくりとギィッと開いた扉には血に染まった少年の母親が

 物凄い形相で立っていた。少年は震えながら、銃を身構えて、

 「お母様。こっちに来ないで。僕を殺さないで。」

 と言った。だが、母親は笑いながら少年に近付き、銀の斧を振り上げ、

 少年を殺そうとした。少年は泣きながら母親を撃った。

 バキュンという銃声と共に母親の顔は吹き飛び、

 母親の振り翳した斧は手から離れ、少年の頭の上に落ちた。

 少年は一瞬、頭に斧が刺さった事を理解できなかった。母親が倒れると、

 絨毯に黒い穴が開いて、デスサイズを抱えた黒い死神が現れた。

 死神は母親の骸を黒い穴の中に引き摺り込み、消えて行った。

 そして、次にまた部屋の絨毯に黒い穴が開いた時、兄が廊下から

 駆け寄って来て、扉の前に立ち、

 「逃げろ!窓から飛んで逃げろ!」

 と叫んだ。少年は兄の言う通りに窓に向かって走った。

 死神が現れ、少年の身体を掴もうとした瞬間、少年は窓から空に飛び立った。

 少年が空から窓の方を振り返って見ると、死神は少年の骸を抱えて、

 口惜しそうに少年を見ていた。少年は屋敷を離れて、森を抜け、

 夜空を飛んで逃げた。幾日も果てしなく飛び続けた挙句、

 復讐を誓った少年の住む屋敷を見つけて、窓から侵入した。

 ベッドで眠る美しい黒髪の少年に興味を持った斧で殺された少年は

 静かに黒髪の少年の上に乗り、寝顔を見つめていると、

 微かに聞こえる呻き声と共に黒髪の少年の瞳が開いた。



 「うわああ!!!」

 シエルが寝苦しさを感じて目覚めると、頭上に斧が刺さった血まみれの少年が

 胸の上に跨っていた。

 「坊ちゃん?!」

 悲鳴を聞いて1秒で駆けつけてきたセバスチャンが思わず息を呑んで身構えた。

 すると、少年は

 「うわぁ。悪魔来た。逃げよ。」

 と言って、フワッと舞い上がり、窓をすり抜けて外に飛んで行った。

 セバスチャンは窓を開けて、少年が近くにいないか確認してから、

 シエルの傍に来て、

 「坊ちゃん。大丈夫でしたか?」

 と聞いた。

 「い、今のは何だ?」

 「悪霊でございます。おおかた、どこからか飛んで来たのでしょう。

 悪霊は人の負の心につけ込み、人に憑りつきます。おそらく、

 坊ちゃんに憑りつこうとしていたのでしょう。危なかったですね。

 では、おやすみなさいませ。」

 セバスチャンはニッコリ笑って部屋を出ようとした時、

 「ま、待て。そこにいろ。」

 と、シエルは引き止めた。

 「仰せのままに。お傍にいて差し上げます。」

 セバスチャンがシエルの手の甲に口づけした。そして、ベッドに横たわる

 シエルの髪をそっと撫でた。

 「坊ちゃん。怖かったですか?」

 「こ、怖くなんか・・・」

 「強がらなくても良いのですよ。怯えた瞳の坊ちゃんも美しい。」

 セバスチャンはシエルの唇に唇を重ねた。



 舌と舌を絡めながら、セバスチャンはシエルに指を這わせ、

 寝巻のボタンを一つ一つゆっくりと外していった。

 生まれたままの姿になったシエルにキスをして、口に含み、

 果実の蜜を味わうように舌を動かし、指の先で蕾を愛で焦らして、

 シエルを快楽の波に漂わせた。

 「あっ。あっ。は、早く・・・」

 「坊ちゃん。どうして欲しいですか?おねだりしないと、

 ずっとこのままですよ。」

 「く、くれ。焦らすな。早く入れろ。」

 「よくできました。入れて差し上げますね。」

 セバスチャンはシエルを俯せにして、後ろから抱きしめるように貫いた。

 「あっ。ああ~」

 シエルは枕に顔を埋めて、枕の両端を掴んで耐えながら腰を僅かに浮かし、

 嬌声をあげて、セバスチャンを受け入れた。

 セバスチャンは肉を掻き分ける感触を楽しんだ後、

 貪欲な肉が我が身を締めつけるのを味わいながら、熱く蠢く肉の中で

 じっとして動かなかった。セバスチャンがシエルのうなじを甘噛みすると、

 シエルはビクッと身体を震わせ、こう言った。

 「あっ。もう、いつまで焦らすんだ。さっさと動け。あっ。」

 セバスチャンは無言で肩を噛んだ。そして、首筋を舐め上げて、耳朶を噛み、

 「坊ちゃん。イって良いですよ。このままでおイキなさい。」

 と言った。シエルは困惑して、躊躇いながらも自ら腰を動かし、

 シーツに擦り付け、イこうとしたが、

 「はしたない真似はおよしなさい。」

 と、セバスチャンに咎められた。

 「坊ちゃんは貞節な淑女のように何もしてはいけません。

 身体を貫いているものを体内に感じて、イクのです。」

 「そ、そんな・・・無理・・・」

 シエルは首を横に振った。しかし、執事に命じられて、

 身体の芯が疼いてしまった。

 「あっ。あっ。ああ~」

 シエルはセバスチャンをキュゥキュゥと締めつけて、絶頂に達した。

 「浅ましいほどに締めつけて、イってしまいましたね。

 貪欲な坊ちゃんにご褒美を与える時間が来たようです。

 気を失うまで激しく突いて差し上げますよ。」

 セバスチャンはそう言うと、激しく腰を突き動かした。

 シエルは何度も絶頂を迎え、夜が明ける前に眠りに落ちた。


 「坊ちゃん。お目覚めの時間です。」

 翌朝、セバスチャンは何事もなかったかのようにシエルを起こし、

 シエルに服を着せ、紅茶を用意した。そして、

 「昨日はお知らせするのをうっかり忘れてまして、申し訳ありません。」

 と言って、セバスチャンは女王からの手紙をシエルに手渡した。

 「坊ちゃんには女王の番犬として、先月、悲惨な惨殺事件が起きた
 
 クロウ家を調べて欲しいとの事でございます。詳しくは、こちらの

 新聞をお読み下さいませ。」

 突如発狂したクロウ男爵夫人が夫であるクロウ家当主を始め使用人までも

 次々と斧で惨殺し、嫡子である10歳の息子を斧で殺害する際、息子に

 射殺され、死亡。生き残った妾の子のクロウ男爵の長男ジャスティスが

 爵位を継承し、クロウ家当主となった。

 キノコの産地で有名な森を所有するクロウ家には血塗られた過去があり、

 現在、クロウ一族の血を引く者はジャスティス・クロウ男爵のみである。

 しかし、彼の母親は森に住み呪いを行うウィッチ家の末裔でもある。

 ウィッチ家もまた血塗られた歴史により領民の襲撃に遭い、滅ぼされている。

 今回の継爵には異議を唱える者も・・・と新聞には書かれていた。

 「こ、これは・・・」

 シエルは新聞の写真を見て、驚いた。クロウ家の嫡子である少年の顔が

 昨日現れた幽霊と同じだったのだ。

 「私も最初に幽霊の少年を見た時には驚きました。女王様の使者が昨夜

 お見えになりまして、坊ちゃんに手紙を渡す前に調査資料をご用意しなければと、

 新聞等を集めておりました矢先の事でしたので、偶然とは思えません。

 クロウ男爵に会いに行きましょう。馬車で6時間のところでございますから、

 今から出発すれば、いにしえに魔女の森と称されていたキノコの森の中にある

 クロウ家の屋敷に日が沈む前には着けると思います。」



 小鳥の囀りさえ聞こえない静かな森だった。森は木々の葉が生い茂り、

 陽当たりが悪く、木々の根元には色とりどりの見た事もないような

 キノコが見渡す限り無数に生えていた。シエルは馬車の窓から

 森中に生えている赤や黄色の妖しいキノコを見て、こう言った。

 「この森は気味が悪いな。本当にマッシュルームの名産地なのか?」

 「はい。左様でございます。クロウ男爵家の荘園は森の入口にある

 村一つにございますが、この広大な森を私有地として持っておりますので、

 マッシュルームを始めとするキノコの栽培だけで暮らせるらしいのです。」

 「森中に生えている見た事もないキノコの群れ。まさか、あれは

 売り物じゃないだろうな。」

 「さあ。キノコの名前は私も存じませんが、おそらく幻覚作用を

 引き起こすような類の毒キノコかと思われます。毒を作って売ったら、

 きっと高く売れるでしょうね。色鮮やかで美味しそうですけれど、

 坊ちゃんはくれぐれも食されませぬように・・・」

 「あたりまえだ。誰が食べるものか。」

 シエルはフンっと鼻で笑い、再び森を見つめた。曇天のせいか森は

 昼間だというのに薄暗かった。陽の光を嫌う森なのだとシエルは思った。

 キノコを太陽から守るように生い茂る木々は何百年も森を守り、

 中世までは道すらなかったのであろう。近世に作られたと思われる

 屋敷に続く1本道は獣道に等しく、馬車1台通るのがやっとだったに

 違いない。半径徒歩1時間と言われる樹海に似た森は18世紀に

 なってから道の整備が行われ、クロウ男爵家の所領となったのだ。

 それまでは森も村もウィッチ家の領地だった。

 シエルがいつまでも続く同じ景色を眺めていた時、突然

 シエルの目の前に陰惨な光景が現れた。木々が途切れた隙間から

 焼け焦げた家屋が見えたのだった。

 「こ、これは・・・」

 「ウィッチ家の屋敷跡でございます。薬を作り、呪いを家業とする

 ウィッチ家は近世に流行った魔女狩りのせいで没落し、後から来た

 クロウ家に全てを奪われました。それでも150年くらいは細々と

 森の中で薬を作って暮らしていましたが、20年前、村で疫病が

 流行った年に村人に襲撃され、皆殺しになったのです。

 その襲撃の際に当時15歳だったウィッチ家の一人娘は略奪され、

 クロウ家の地下牢に幽閉されました。長年の凌辱の末、クロウ家長男

 ジャスティス・クロウが生まれたのでございます。」

 「悲惨な話だな。」

 シエルは溜息をついた。



 それから、しばらく馬車に揺られ、屋敷に着くと、暗い顔をした老人が

 出迎えてくれた。クロウ家の執事だった。メイドの数も少なく、皆

 陰気な顔をしていた。不思議と人の話し声が一つもしない屋敷だった。

 村から離れた森の中の屋敷は幽霊でも出そうな雰囲気だった。

 「ようこそ。おいで下さいました。ファントムハイヴ伯爵。

 なにぶん田舎なもので、突然の来客に十分なおもてなしもできませんが、

 キノコ料理でも召し上がって行って下さいませ。」

 エントランスホールに待たされる事10分。吹き抜けの階段をゆっくりと

 下りて来たクロウ男爵は漆黒の髪に深緑色の瞳の美しい少年だった。

 シエルたちはディナーをご馳走になる事になった。

 「はじめまして。シエル・ファントムハイヴです。ここから馬車で

 半日ほど行った先の町に所用がありまして、ドルイット子爵にその事を

 話しましたら、爵位を継承されたお祝いを渡してくれと頼まれまして、

 ちょっと立ち寄るだけのつもりだったのですが、この辺りは宿屋も

 レストランもなく、困っていたので、クロウ男爵の御好意に感謝します。」

 席に着くなり、シエルは嘘をついた。クロウ男爵が爵位継承を

 とりなしてもらう為にドルイット子爵に賄賂を送ったという噂を

 耳にしたセバスチャンが祝いの品のティーカップを用意して、

 シエルに一芝居打つように指示していたのだった。しかし、

 クロウは訝しげな表情をして、こう言った。

 「ドルイット子爵からは手紙とお祝いの花束を頂いておりますが、

 一言もそのような事は聞いておりません。ドルイット子爵と

 ファントムハイヴ伯爵はどのような御関係ですか?」

 シエルは失敗したと思った。ドルイット子爵が手を出しそうな容姿の

 クロウ男爵を見た瞬間に計画を変えるべきだったと後悔した。

 だが、一度ついた嘘は付き通すしかない。シエルは背後に立っている

 セバスチャンのほうをチラッと見たが、セバスチャンは何も言わなかった。

 シエルは冷や汗を掻きながら、

 「ただの知り合いです。」

 と言った。すると、クロウは疑いの目を向けたような表情のまま

 「ふ~ん。それなら、良いのですが・・・」

 と言った。完全に疑われているとシエルは思った。再びセバスチャンを

 チラ見したが、セバスチャンは無言でじっとクロウを見つめていた。

 気まずい空気が漂っている中、ディナーが運ばれてきた。



 「マッシュルームのスープでございます。」

 老執事がスープを3皿テーブルに並べた。

 「さあ、召し上がってくださいませ。ファントムハイヴ伯爵の

 後ろに立っているお付きの方も是非どうぞ。」

 クロウが満面の笑顔を浮かべて言った。

 「いえ。私は執事でございますので、主と同じテーブルにつくなど、

 めっそうもございません。」

 セバスチャンは断ったが、クロウは
 
 「まあ、そう言わずに。席にお座りなさい。」

 と言った。すると、セバスチャンはシエルの許可なく席に着いた。そして、

 「スープを召し上がれ。」

 とクロウが言うと、セバスチャンはスープを飲んだ。

 シエルはセバスチャンの様子がおかしいと思ったが、これ以上何かして、

 怪しまれてもいけないと思って、セバスチャンに聞く事ができなかった。

 「ファントムハイヴ伯爵もどうぞ。早く召し上がって下さいませ。」

 とクロウがスープを勧めた。シエルは急に何か威圧感を覚えたが、

 逆らう事ができず、恐る恐るスプーンでスープをすくって口に運んだ。

 一口飲んだだけで、口の中にマッシュルームの味と香りが広がり、

 その中に隠された得体の知れない旨味がシエルの舌に至福の時を味あわせた。

 「美味しい。」

 とシエルが言った瞬間、セバスチャンが倒れた。

 「セバスチャン!!」

 とシエルが叫んでも、セバスチャンはスープ皿に顔を突っ込んだ状態で

 動かない。

 「何をした?毒を盛ったのか?」

 「このスープは森で採れたキノコを聖水でじっくり煮込んだスープです。

 悪魔の口には合わないかもしれませんね。」

 とクロウは言った。

 「何?!何故セバスチャンが悪魔だと分かった!貴様、何者だ!」

 「僕はジャスティス・クロウ。クロウ家ただ一人の生き残りであると共に

 ウィッチ家の末裔でもある。僕は魔女なんだ。」

 クロウはそう言うと、空中に指で魔方陣を描き出した。すると、

 驚いたことに、セバスチャンの頭上に白い魔方陣が浮かび上がった。



 「もう、これで、この悪魔は最低でも12時間は動けない。

 シエル。キミは・・・自分の執事がこの屋敷に入った瞬間から

 様子がおかしくなった事に気付かなかったのかい?

 ドルイット子爵の話といい、浅はかだね。この屋敷の至る所には

 悪魔封じの呪文が書いてあるのさ。普段は結界も張ってある。

 キミ達が来る事は予知していたから、今日だけ結界を解いておいたんだよ。

 この悪魔は全ての魔女が悪魔より弱く、悪魔に媚びへつらう生き物だと

 思っていて、魔女を軽んじるばかりに僕の力を見誤ったんだ。

 聖水も効かないほどの強い悪魔が毒キノコと聖水をグツグツ煮込んだ

 スープを飲んだだけで倒れる訳がないと己の力を過信していたんだろうね。

 だけど、僕の呪文はどの魔女よりも強い。今までずっと僕はこの力を

 隠していたからね。調査不足のまま屋敷にやって来て、キミ達は罠に

 嵌ったんだよ。愚かだよね。」

 クロウは笑いながら、シエルの眼帯に人差し指を向けた。

 「動くなよ。」

 シエルは不思議と足が竦んで動けなかった。クロウはシエルの傍に

 寄って来て、シエルの眼帯の紐を解いた。

 「綺麗だね。」

 悪魔と契約を交わした証が刻まれたシエルの瞳を見て、クロウは言った。

 「キミは魔女の肉を食べた事があるかい?魔女の肉を食べると願いが叶う

 という伝説がこの森にはあってね。20年前、村で疫病が流行った時に

 村人達がウィッチ家の人々を殺して食べたのさ。欲深いクロウ家の人間は

 魔女を一人残して繁殖させれば、願い事を叶える道具ができると思って、

 娘を一人監禁して、犯して、孕ませた。生まれてきた子はクロウ家の

 人々に食べられてしまったのさ。酷い話だろ?でも、魔女の子を食べても

 何も願いは叶わなかった。それで、次に生まれてきた子供は食べずに

 育てられた。第一子は食べてしまったから、第二子でもクロウ家の

 第一子として認知された。それが僕。僕の母は地下に幽閉されて、

 毎日泣いてたよ。泣かされてたって言ったほうが正しいかな。僕が

 幼い頃から母はよく全裸で三角木馬に跨らせられたり、鉄製の椅子に

 拘束されたりしていたからね。身体に鋲が刺さって痛いって泣いてたよ。

 でも、本当の地獄が始まったのは父が結婚してからだった。

 僕が5歳の時に父は結婚したんだ。母は妻じゃなかったからね。

 クロウ男爵家に相応しい正妻を迎えたと言っていたけど、あの女は

 まるで悪魔だったね。父は欲に駆られて自分の子を食べた事を悔いて、

 僕には手を挙げなかったけど、継母は僕の事を鞭で打つんだ。僕が

 7歳の時に弟が生まれたけど、あの女は赤ん坊の弟まで叩いていたよ。

 クロウ家の屋敷の地下からは僕の母の泣き声が、地上からは僕と弟の

 泣き声が毎晩、響いてね。そんな時かな。父が僕に手を出したのは・・・

 それまで僕には優しかった父が突然ベッドに僕を押し倒したんだ。

 僕は7歳で父に犯されたんだよ。」



 クロウは悲しい表情を浮かべた。

 「父は僕を溺愛し、継母は僕を寄宿学校に放り込んだ。

 僕は17歳になって学校を卒業するまで週末は父に抱かれ、

 月曜から金曜までは学校で勉強する生活が続いた。でも、クロウ家の

 跡取りだった弟は学校に行く歳になっても家庭教師で、ずっと

 この屋敷から出る事はなかった。僕はまだ恵まれていたほうなのかな。

 母は魔女狩りさながらの拷問を父から受け続けて気が狂っていたし、

 僕が17歳の誕生日に鉄の処女に閉じ込められて死んだんだ。

 継母は母の肉が腐らないように工夫して保存して、僕の卒業祝いに

 食べさせてくれた。僕は2ヶ月前、魔女の肉を食べたんだ。そう、

 母親の肉をね。最初は何の肉か分からなくて、継母がニヤニヤしながら

 僕を見ているものだから、僕は気味が悪かったのを覚えてるよ。

 ほんの2ヶ月前の出来事が随分昔のような気がする。何故だか分かるかい?

 その時、僕は覚醒したんだ。魔女の肉を食べると願いが叶うって伝説は

 説明したよね?本当はそれは間違いで、魔女が魔女の肉を食べると、

 願いが叶うんだ。つまり、僕は常日頃から自分の無力さを嘆き、強く

 なりたいと思っていた。だから、魔女の肉を食べる事で強くなったんだ。

 世界最強の魔女になったんだよ。悪魔と対等に戦える強さを手に入れたんだ。

 ウィッチ家は薬を作る白魔術。黒魔術を司る悪魔の下僕とは違うんだ。

 誇り高き一族なのさ。僕が昔話をキミにした理由が分かるかい?

 キミは女王の番犬なんだろう?全部知ってるよ。キミが昔、連れ去られて

 玩具にされた事も。今は悪魔と交わっている事も。キミは人外の者と

 交わるのが好きなのかなぁ。僕は人であって人でないんだ。もし良かったら、

 僕と交わってみる?シエル。キミの瞳を抉り取ったら、悪魔との契約は

 破棄しても大丈夫なのかな?フフフ・・・」

 クロウは笑いながら、シエルの瞳にキスしようとした。

 「や、やめろ!」

 シエルはクロウを突き飛ばした。だが、逆にシエルのほうが反動で倒れて

 尻もちをついてしまった。

 「キミ、スープを飲んだだろ?この森で採れる毒キノコには幻覚作用と

 麻薬みたいな効果があるんだ。キノコを食べたら最後、もう僕には

 逆らえないんだよ。キミはもっとキノコを食べたほうが良いな。

 さあ、スープを飲んで。」

 クロウはテーブルのスープの皿を手に取り、スープを口に含むと、

 シエルに口移しで飲ませた。シエルは嫌がったが、唇を塞がれて

 吐き出す事もできず、仕方なくゴクリと呑み込んだ。

 「いい子だ。」

 クロウはそう言うと、シエルに何度も口移しでスープを飲ませた。

 スープを全て飲み干した頃、シエルの意識は混沌とし、瞼が重くなった。

 「眠くなったんだね。良い夢を見なさい。おやすみ。シエル。」

 クロウがシエルを抱きしめて、瞳にキスをすると、シエルは眠りについた。



 夢は最悪だった。

 真っ暗な部屋に大きなキノコが何人もいて、

 「淫乱」

 と罵るのだ。キノコは小人くらいの大きさで喋るのだった。

 シエルは全裸で部屋の中央の手術台みたいなベッドに

 縛り付けられていた。赤い水玉模様の大きな傘を持つキノコが

 シエルの尻に頭を突っ込んだ。

 「あっ。ああっ。」

 あまりの大きさにシエルは思わず声をあげた。

 「淫乱。気持ち良いのか?」

 とキノコ達が聞いてきた。

 「もっと気持ち良くしてやる。」

 と言って、黄色と青色のキノコがシエルに乗り、傘の裏のひだを

 シエルに擦り付けて上下に擦った。

 「あっ。やっ。ああっ。」

 悦がるシエルにキノコ達は

 「もう1本追加だ。」

 と言って、今度は紫色のキノコが飛び蹴りするみたいにジャンプして、

 柄の部分を尻に突っ込んできた。

 「ああっ。やっ。やめろっ。」

 見る見るうちにキノコは2本ともシエルの中にすっぽりと入ってしまった。

 「2本入ったな。淫乱。今度は2本同時に入れるぞ。

 合計4本のキノコを味わえ。」

 キノコ達はそう言うと、緑色と茶色のキノコが二人並んで、

 傘の部分で穴を押し広げるようにして、先に入っていた2本のキノコを

 奥深くに押しやりながら、2本同時にシエルの中に侵入してきた。

 「ああっ。やっ。いっ。痛い。ああっ。あ~」

 シエルは4本のキノコに犯されて、イってしまった。

 「こいつ痛いのに感じるんだなぁ。淫乱だ。」

 キノコ達は口々にシエルを罵った。

 「こんな淫乱は身体の中に胞子を撒いてやれ。キノコの子を腹に宿して、

 キノコを産むんだ。」

 とキノコ達は言い出した。シエルの尻の中の4本のキノコ達が次々と

 胞子をシエルの腸に撒いた。

 「やっ。やめろっ。い、いやああ~!!」

 シエルは絶叫した。



 ハッと目が覚めると、シエルは檻の中にいた。

 そこは見覚えのある檻だった。

 何人もの子供たちが諦めた虚ろな目で震えている。

 シエルは自分に手枷足枷がついている事に気付いた。

 奴隷のようなみすぼらしい服を一枚だけ着ていて、

 下着すら身に着けていなかった。

 「来い!出番だ!」

 男が檻の扉を開けて、シエルを外に引き摺り出した。

 円形のステージを取り囲むように観客席がある丸い大きな部屋の

 出入り口から鎖に繋がれた虎が現れた。シエルはステージ中央の台に

 上半身だけ括り付けられ、足は床の金具に足枷の鎖を固定され、

 両足を開いて尻を突き出す体勢を強いられた。

 そして、尻が丸見えになるように衣服を捲し上げられ、

 鞭でバシッと1回叩かれた。

 「ヒッ。」

 と、思わず漏れた声に観客は笑い、虎は興奮したようだった。

 男が虎をシエルの背後に連れてきて、虎はシエルに覆いかぶさった。

 尻に虎の下半身の感触がして、スリスリと数回擦り付けられた後、

 シエルの尻に熱いものが挿入された。

 「あっ。やっ。ああっ。ああ~」

 シエルは虎に犯されて喘いだ。観客達はゲラゲラ笑ってシエルを

 淫乱と罵った。虎はカクカクと腰を振り、シエルの肩を甘噛みした。

 「痛いっ!や、やめっ。あああああ~」

 虎がシエルの中に放つと同時にシエルは絶頂に達してしまった。

 「虎に犯されてイクなんて!前代未聞の淫乱だ!おまえは人外の者と

 交わるのが好きなんだな。それとも、おまえは人と交わるのが

 嫌いなのか?虎が好きな淫乱には罰を与えなければいけないな。

 今から会場にいる観客50人全員の相手をしろ。そして、後で

 虎と人どっちが良かったか感想を言えよ!」

 と、男は言うと、観客を1列に整列させた。

 一番目は背の高い筋肉質な逞しい身体の男だった。

 男はシエルの手枷足枷を外すと、シエルを仰向けにして台に乗せた。

 そして、シエルの足を大きく開かせ、一気に貫いた。

 「あっ。ああっ。」

 不思議と痛くなかった。いつもは痛くて泣いてしまうのに、

 何故か今日は気持ち良かった。男がシエルの中で果てると、

 次に金髪碧眼の端正な顔立ちの若い男がシエルに挿入し、

 「気持ち良いのか?淫乱。もっと腰を振れ。」

 と、蔑んだような目で言った。シエルは命じられるままに

 腰を振って、男を喜ばせた。男がシエルの中で果てると、

 次に太った男がシエルに挿入し、シエルの首をペロペロと舐めた。

 まるでアイスクリームでも味わうように舐めまわす男にシエルは

 嫌悪感を覚えた。そして、虎に噛まれて血がにじんでいる肩を

 舐められた時、シエルは絶頂に達してしまった。

 その後も年老いた男、痩せた男、口の臭い男、背の低い男、

 顔の醜い男など様々な男達に犯され続け、夜が明ける頃に

 50人目の男の順番が回って来た。



 50人目は漆黒の黒髪に深緑色の瞳の若く美しい男だった。

 「僕が挿入する前に49人分を掻き出さないとね。」

 と男は言い、指を突っ込んで、シエルの身体から白い体液を掻き出し、

 スープ皿に入れると、今度はロートをシエルの口に突っ込んで、

 スープ皿いっぱいのドロドロとした白い体液をロートに注ぎ込んだ。

 シエルはあまりの不味さに吐きそうになったが、口を塞がれているので、

 吐き出せない。仕方なく自分の腸で薄汚れた白い液を呑み込んでいった。

 口の中いっぱいにネバネバしたものが広がって、喉から食道を通って

 胃まで汚されていく感覚にシエルは吐き気を催した。喉にこびりつく

 体液に耐えきれず、シエルは泣いてしまった。

 「可哀相に・・・水が欲しいんだね?キミにぴったりな水があるよ。

 聖水を飲みなさい。」

 男はそう言うと、ロートに放尿した。シエルは咽そうになったが、

 聖水を飲んだ。飲み終わると、男はロートを口から外し、

 「下の口も聖水で清めないとね。」

 と言って、ロートをシエルの尻に挿し、再び放尿した。

 そして、シエルの体内を聖水で満たした後、

 「こぼれないように栓をしないとね。」

 と言って、握り拳を尻に挿さったロートに突き立て、そのまま

 メリメリと尻にロートを押し込んだ。ロートが完全に体内に入り、

 手首までズッポリと納まると、観客達が

 「その瞳の悪魔との契約の印は淫乱の印だ!そんな奴は

 責め殺してしまえ!肘まで入れろ!」

 と囃し立てた。ロートの先の部分は既に直腸を超えているというのに、

 腕を肘まで入れたら、腸は破れて、死んでしまうかもしれない。

 シエルは痛みと恐怖に耐えかねて、泣き叫んだ。

 観客達はゲラゲラ笑いながら、シエルの泣き叫ぶ姿を見ている。

 「助けて!誰か・・・助けて!」

 シエルが血を吐くように叫んだ。すると、男は

 「悪魔と契約を交わした印の右目を抉り取るなら、

 許してあげてもいいよ。」

 と言った。男は腕を引き抜き、ロートも取り出した。

 そして、スプーンをシエルに渡し、

 「このスプーンで瞳を抉り取るんだ。キミが苛められているのは

 悪魔のせいなんだよ。さあ、早くスプーンを眼に突き立てるんだ!」

 と言った。シエルは手に握ったスプーンを恐る恐る

 目に突き刺そうとした。すると、その時、

 「坊ちゃん!坊ちゃん!」

 と、懐かしい悪魔の声がして、シエルは夢から目が覚めた。



 夢から覚めたシエルは大きなベッドに寝ていた。

 枕元でセバスチャンがシエルの顔を覗き込むように言った。

 「坊ちゃん。目が覚めて良かった。」

 シエルはまた夢の続きを見ているのだと思った。

 夢なら泣いても構わないだろうと思うと、涙が溢れてきた。

 シエルはセバスチャンに泣きながらしがみついて、

 「怖かった。皆が淫乱って苛めるんだ。」

 と言った。

 「それは・・・怖かったですね。・・・坊ちゃんはどんな夢を見たのですか?」

 とセバスチャンに聞かれて、シエルは答えに詰まって黙ってしまった。

 すると、その時、背後からクロウの声が聞こえた。

 「きっと、監禁調教される夢でも見たのだろう。僕がスープにした

 キノコは睡眠作用と潜在意識を夢に見せる作用があるからね。」

 シエルはビクッとして、セバスチャンから身体を離して振り返ると、

 そこにはクロウと幽霊の少年が立っていた。

 「やっぱり夢だ。」

 とシエルは言った。しかし、セバスチャンはクスッと笑って、

 「坊ちゃんは寝ぼけて夢の続きを見ていると思っていたのですか?

 夢じゃありませんよ。通りで・・・甘えん坊ですね。」

 と言った。シエルは急に恥ずかしくなって、顔を赤らめた。

 「おやおや。顔が赤いですね。風邪でも引いたんじゃないですか?」

 とセバスチャンがシエルをからかうように言うと、

 「風邪を引かないようにベッドに運んだのだが・・・」

 とクロウは言った。

 「そうでしたね。私までもベッドに運んでいただいて・・・

 ご親切に。どうも。」

 とセバスチャンはニッコリ笑って言ったが、

 明らかに怒っているように見えた。

 「どういう事だ?」

 シエルがようやくいつもの口調になって、事情を聞いた。

 「そちらの悪魔がスープに顔を突っ込んで眠ってしまったので、

 そのままにしておくのも悪いかと思って、ゲストルームに運んだのだよ。

 頭上に魔方陣を描いておいたから、悪魔でも簡単に魔法で運べたんだ。

 キミは僕が抱えて、お姫様抱っこで運んだ。キミ達は12時間も

 よく寝ていたね。途中で起きるかと思って、見張っていたけど・・・

 水晶玉に映ったキミ達の夢は滑稽だったな。」

 クロウはクスクスと馬鹿にしたように笑った。すると、セバスチャンは

 「失礼ですね。私は途中で何度か目が覚めましたが、なにしろ夢が・・・

 坊ちゃんの顔をしたキノコがいっぱい生えている森の中で

 何百匹もの猫と戯れるというあまりにも素敵な夢でしたし、

 坊ちゃんが隣で艶めかしい顔でスヤスヤ寝ているものですから、

 煩悩に負けて、頭上の空中に浮かんだ魔方陣を取り除くのが

 面倒になっただけです。どうせ12時間経ったら自然と消えると

 思っていましたからね。スープに顔を突っ込んでる間も身体が

 動かないだけで声は聞こえてましたよ。可哀相な身の上話を聞くのも

 調査の手間が省けて良いかと思ったものですから。もしも、あなたが

 危害を加えようとしたら、すぐさま戦闘態勢に入ってました。」

 と言った。



 「だと思ったよ。だから、殺そうとしなかったのさ。悪魔と

 まともに戦って勝てる魔女なんかいないからね。それに、もし

 仮に僕がキミ達を殺す事ができたとしても、今度は女王が

 黙っていないだろう。僕は人として生きていきたいからね。

 爵位も屋敷も欲しい。でも、キミ達は最初から僕が真犯人だと

 決めつけている。そこで僕が魔女である事を証明する必要があったのさ。

 よく考えてごらん。この森に生えているキノコは見るからに妖しい

 色形のものばかりだろ?幻覚作用があるとは考えなかったのかい?」

 とクロウは言った。すると、シエルはフッと笑って、こう言った。

 「そんな事とっくに考えている。おまえが男爵夫人に毒キノコを

 食べさせて、幻覚による無差別殺人を引き起こさせた。そうだろう?

 父である男爵を夫人に殺させ、弟に銃を渡し、弟に夫人を殺させた。

 まあ、弟は幽霊になってもおまえに懐いているようだから、

 弟を夫人に殺されたのは想定外か。あるいは斧で殺されても構わない

 くらいに思っていたから、出来た犯行だろうな。で、魔女である事を

 証明する必要がどこにある?あんな・・・悪趣味な夢まで見せて・・・

 キノコに詳しい奴なら魔女でなくとも誰でも出来る犯行だろう!」

 シエルは夢の事を根に持っているのか苛立っているようだった。

 「そう。その通り。毒キノコの知識に詳しい人間なら誰でも出来る

 犯行なんだ。怪しまれずに森からキノコを採ってきて、キノコ料理を

 作って、母に食べさせる事ができる人間なら、誰でも出来る。しかし、

 シェフには毒キノコの知識はない。使用人全員に知識はなく、殺害する

 動機もない。そして、父と母には毒キノコの知識はない。シエル。

 もう分かるだろ?この屋敷で、父と母を恨んでいる者は・・・

 僕と弟の二人だけ。僕が犯人じゃないなら、弟が真犯人だってこと。

 弟は母に虐待されていた。僕は血が繋がっていない分だけまだ我慢が

 できたけど、弟はそうじゃなかった。僕は魔女の力を得た事で自分が

 魔女狩りの対象になる事を恐れ、復讐は先延ばしにしていたんだ。

 僕は母親の肉を食べさせられた後も大人しく父に抱かれ、キノコの

 勉強をしながら、キノコから麻薬が出来ないか研究していた。

 弟にも食べられるキノコと幻覚作用が強いキノコの見分け方を教えた。

 弟は学校に行かせてもらえない分だけ知識欲が旺盛でね。

 10歳なのにキノコの見分け方を覚えたんだ。弟は美味しいキノコを

 森で採って来たと嘘をつき、母に食べてもらいたいと言い、

 キノコ料理をシェフに作ってもらった。実際に食べられるキノコの

 見分け方が弟には既に出来ていて、何度も食べていたからね。

 誰も疑わなかった。母が倒れた時も僕以外誰も気付かなかったよ。

 僕はいざという時の為に呪文書を読み、弟に銃を渡して、自分自身に

 結界を張って待機していた。弟の頭に斧が落ちたのは予想外だったよ。

 最初から皆殺しの計画を立てたのだったら、ドアが開いた時点で

 迷わず母を撃ち殺すからね。そこで、質問。何故だと思う?」

 クロウはクイズの正解をシエルに求めた。

 「殺す気がなかったから?」

 シエルは自信なさそうに答えた。



 「正解。当たりだよ。弟は虐待する母親にキノコのお化けの

 幻覚でも見せて、怖がらせたかっただけだったんだ。

 ちょっとした仕返しのつもりが惨殺事件に発展してしまったんだ。

 おまけに自分まで死ぬはめになってしまったというわけさ。」

 とクロウは言った。

 「可哀相な子ですね。」

 セバスチャンが言った。

 「血の繋がった母親に虐待され、兄には利用され・・・哀れと思います。

 死神に魂を回収されないように逃がしたのは無実を証明する証人が

 必要だときっと思ったからですよ。お話の内容はよく分かりましたが、

 結果的に生き残って爵位を継いだ者だけが得をした惨殺事件を
 
 このまま事故として処理して良いものかどうか悩みますね。もしも、

 心の中で描かれたシナリオが手を下す前に起きた場合、たとえ真犯人と

 言えないとしても、陰で犯行に導いた者が悪くないと思いますか?

 幽霊になった今では爵位を継ぐ事は叶いませんが、クロウ男爵を真犯人だと

 女王に報告する事はできます。どちらになさいますか?」

 セバスチャンに聞かれて、幽霊の少年は

 「お兄様は悪くないよ。悪いのは僕なんだ。お兄様を真犯人なんかに

 しないで。お兄様は独りぼっちの僕にいつも優しかった。

 学校に行かせてもらえず、家庭教師に勉強を教わっていた僕の世界は

 キノコの森と狂ったクロウ家だけだった。お兄様に森に連れて行って

 もらって、キノコについて学んだり、呪術の本を見せてもらったり・・・

 友達のいない僕にはお兄様との楽しい思い出だけが心の支えなんだ。

 だから、僕は死んでもお兄様から離れたくなくて・・・

 お兄様とずっと一緒にいたいんだ。お兄様から指示は受けていない。

 僕が一人で全部やったんだ。本当だよ。」

 と言った。

 「分かりました。」

 セバスチャンは静かに答えた。シエルはもう何も言わなかった。

 人の心の中の真相は誰にも分からない。真実は一つとは限らないのだ。

 シエルは帰る事にした。

 屋敷の外に出ると、濃い霧が視界を妨げ、森が霞んで見えた。

 馬車に乗る時にクロウはお土産にマッシュルームをセバスチャンに渡した。

 セバスチャンはお礼を言って馬車に乗ったが、シエルはお礼を言わなかった。

 見送りに来た執事やメイドには幽霊の少年が見えていないようだった。

 馬車が出発するまで少年は手を振っていた。シエルは無言で少年にだけ

 手を振った。屋敷の敷地を出る頃、朝霧に包まれた森の中の屋敷は

 クロウの心のように霞んで、もう何も見えなかった。



 その夜、シエルが女王への手紙を書き終えた後、セバスチャンが言った。

 「坊ちゃん。なんだか浮かない顔ですね。まだ何か気がかりな事でも?」

 「・・・クロウに弟は騙されている気がするんだ。」

 「左様でございますか。でも、報告書は魔女と幽霊に関する事を除いて、

 ありのままを書いたのでしょう?」

 「ああ。そうだ。詳しい事は書かなかったが・・・」

 「私も昨夜の事は秘密にしておいたほうが良いと思います。それよりも、

 坊ちゃんは夕食をあまり召し上がらなかったので、そちらのほうが心配です。」

 「マッシュルームのソテーにマッシュルームのシチューにマッシュルームの

 ゼリー寄せ。そんなものが食えるか。何の嫌がらせだ?」

 とシエルは不機嫌そうに言った。

 「せっかくマッシュルーム1箱お土産に頂いたのです。

 全部食べたほうがと思いまして・・・でも、さすがに料理しきれなくて、

 少々残してしまいました。今から食べますか?」

 セバスチャンはニッコリ笑って、マッシュルームをシエルに見せた。

 「な・・・まさか変な事を考えているんじゃないだろうな?」

 「はい。そのまさかでございます。」

 セバスチャンはシエルの服を脱がせ始めた。シエルは抵抗したが、

 あっという間に全ての衣類を剥ぎ取られてしまった。そして、セバスチャンは

 マッシュルームを一つ手に取り、シエルの下の口に入れようとした。

 「や、やめろ!キノコは嫌だ!」

 シエルは拒絶したが、セバスチャンは

 「お嫌いですか?水晶玉に映った夢の中では気持ち良さそうでしたが・・・」

 と言った。

 「観ていたのか?」

 シエルは青ざめた顔で聞いた。

 「はい。悪魔は眠らないものですから、1時間も経たないうちに

 目が覚めてしまいまして、水晶玉に映った坊ちゃんが何度も絶頂を

 迎えるのを見ておりました。」

 「な、なんで助けなかった。」

 「キノコはともかく、虎に興奮してしまいまして・・・人間50人と

 虎1匹どっちが良かったか感想を聞きたくなったのでございます。

 どちらが良かったですか?」

 「?!!!・・・チッ。悪趣味だな。」

 シエルは頬を染めて、吐き捨てるように言った。だが、セバスチャンは

 「感想を言わないんですか?言わないと、こうですよ。」

 と言うと、マッシュルームをペロッと舐めて、シエルに入れた。

 「あっ。やっ。やめっ。ああっ。」

 「やっぱり、キノコが好きなんですね。では質問を変えます。

 私とキノコどちらが好きですか?」

 「どっちも嫌いだ。」

 「素直じゃないですね。」

 と言って、セバスチャンはシエルに挿入した。

 「ああっ。ま、待て。キノコがまだ中に・・・ああっ。」

 「二つとも味わって、後で感想を言って下さいませ。」

 「や、やあっ。あっ。あんっ。ああっ。」

 シエルは喘いだ。セバスチャンは激しく腰を突き動かし、マッシュルームで

 いつもは届かない奥を責められたシエルは絶頂を迎えた。

 「ああっ。あああ~」

 欲望を吐き出した後もシエルは感想を言う訳もなく、再び責められ、

 苛められた。幾度となく繰り返される中、シエルは気を失い、夢を見た。

 夢の中でシエルは悪魔と交尾していた。

 霧に包まれた森の中の焼き払われた廃墟で長い漆黒の髪の魔女が微笑んで、

 美味しそうなキノコを指差すのだった。シエルが交尾に夢中で

 キノコを採取しないと、彼女は笑いながら消えて行った。

 夢とは不思議なもので、夢を見ている間はそれが現実なのだ。

 死後の世界も魂は生き続け、骸が朽ち果てようと存在している。

 ゆめまぼろしは儚くて、人の記憶は不確かなもの。

 目が覚めれば、忘れてしまう。

 夢幻の世界から引き戻されたシエルは現実にいる悪魔に接吻された。

 「おはようございます。坊ちゃん。よく眠ってらっしゃいましたね。

 本日の朝食はマッシュルームのスープでございます。」

 とセバスチャンは言って、ニッコリと笑った。

                             (完)





黒執事「夢幻の森」挿絵



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