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定時制教員のつぶやき

定時制教員のつぶやき

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2004.10.21
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カテゴリ:Nostalgia Sketch
高校に入学して、なぜか合唱を始めることになった。

もともと音楽は好きだけど歌は下手くそで、中学時代は文化祭の合唱コンクールが
苦痛でしかたなかったのに、なぜ入ることになったかと言えば、先輩の勧誘に
根負けしたからだ。高校の図書室には、今では手に入らない古い翻訳ミステリーが
充実していて、片っ端から借りるなどして、図書館に入り浸っていた。

そんな時、音楽部(合唱部)の先輩に声をかけられたのだ。その当時、
なぜか図書委員の主要メンバーを音楽部員が占めており、彼らの目に留まった
というわけだ。毎日のように図書室にやってくるヒマそうな1年生は、
彼から見れば格好のターゲットだっただろう。

最初は拒んでいたのだが、彼らの執拗な勧誘に根負けしたのと、音楽部員と
接していくうちに彼らの人柄に惹かれ、2週間ほど後には、僕は音楽部の
一員になっていた。

音楽部の思い出は別の機会に触れるとして、入部して困ったのは、
歌詞を読んでも何も感じないことだった。ミステリーばかり読んでいて、
言葉からイメージを膨らませるという訓練がほとんどされてなかったからだろう。
犯人捜し以外の小説だってほとんど読んでいなかった。

そんなわけだから、練習していても歌詞がただの言葉の羅列にしか思えず、
歌っていてちっとも楽しくない。

ある日、僕は普段足を止めたことのない詩集のコーナーに向かった。

中学時代、苦手の教科があれば、その教科を集中して勉強する。量をこなせば
ある程度出来るようになると習った僕は、詩もある程度読めば面白さが
分かるかもしれない、そう思ったのだ。

手に取ったのは、確か筑摩から出ていた詩の叢書だった。現在活躍中の詩人10人の
作品を集めたもので、1冊ごとに一人の詩人の作品を初期から当時の最新作まで
収めていた。脚注にはその詩に関する解説が載っていたので、これならただ詩が
載っているだけのものよりわかりやすいと思ったような憶えがある。

その10冊の中で、僕が手に取ったのは川崎洋さんのものだった。

その日は朝から雨が降っていて、自転車ではなくバスで帰らなければいけない。
バスの時間まで図書室で川崎洋さんの詩を読んだ。

最初は単なる短い文章の羅列にしか思えなかった。まず詩を読んでから脚注の
解説を読み、もう一度詩を読む。

だが、バスの時刻が迫ると詩集を片手にバス停に向かい、バスに乗り込んだ頃には
夢中になって読んでいた。

わかりやすい言葉で書かれた川崎さんの詩は、まるで滴のように一滴一滴
したたり落ちては、僕の中でゆっくりとイメージを広げていく。

どこまでも広がる海、サバンナの草原、笑顔の絶えない家族がいる居間。
一つ一つのイメージが広がるにつれて、心の中がほの温かくなっていった。

日本語の美しさ、いや、言葉の持つ美しさを初めて知ったような気がした。

清水哲男さんの解説も、詩の理解を助けるものではなく、同じ川崎洋さんの詩を
愛する者が書いたコメントのようだったのも大きかった。僕はまるで川崎さんの詩を
巡ってファン同士がやりとりするような感覚で清水さんの解説を読んでは、
心の中で僕も拙い感想を清水さんの言葉に向かって語っていた。

最後の詩を読み終えて顔を上げる。
ああ、そう言えばバスに乗っていたんだな、と気付いた。

夢中になって本を読んだ後、ふと我に返ると見慣れた風景が全く別のもののように
思え、本の中の世界と自分が今いる世界のどちらが本当の世界かわからなくなる
ことがある。

窓から外に目を遣ると、雨に濡れたガラス越しに、いつもの風景が歪んで見え、
突然別世界に放り出されたような浮遊する違和感を感じていた。


僕に詩の素晴らしさ、言葉の素晴らしさを教えてくれた川崎洋さんが亡くなった。

あれから僕は川崎さんの詩に限らずエッセイも読みふけり、そのうちの何冊かは
僕の本棚に並んでいる。

川崎さんの詩の合唱曲も何曲も歌った。
そう言えば、大学に入って最初に歌ったのも川崎さんの詩の曲だった。
何かの始まりには、川崎さんの言葉があったような気がする。

  鳥が空を見上げるように
  花がつぼみをほどく

  鳥が羽ばたこうとするように
  花は葉をしげらせる

  鳥が飛び立つように
  花は咲き初める

  鳥が歌うように
  花は匂う

  そして人は言葉で
  鳥のように飛び 花のように咲く
── 川崎洋「鳥が」 ──



川崎洋さん、ありがとう。
僕はあなたの詩を日本語で読めて本当に幸せでした。


*赤穂市民合唱団のHPで、「鳥が」のmidiを見つけました。
 上の詩を読みながら聞いてみてください。





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最終更新日  2004.10.27 14:47:45
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