ひとりジェットコースター/祈・脱歯医者遍歴
だからもういいかげん、浮いたり沈んだりはやめろというのだ。――と自分に突っ込みたくなる今日この頃。話は昨日に遡ります。 ホーさん(言うまでもないが仮名)に電話をしようと思ったのだ。 ホーさんとは北海道沙流郡平取に住むアイヌの語り部さんです。3月末に再訪かないそうで、その準備もあらゆる面でほったらかしのまま日が経って、せめて前回お世話になったホーさんにはまた行きますと知らせておこうと手紙を出した。するとそれがついたらしくお電話をいただいた・・・らしい。知らぬうち、留守電に「xxxxでーす! またかけまーす!」という、テルさん(ホーさんの奥さん)の、懐かしい元気いっぱいの声だけ入っていた。 夜だったのでやめておいて、昼間にかけなおした。かなり長くベルが鳴っていた。切ろうかな、と考えだしたところでホーさんが出た。後ろで人の声がする。お客さんかもしれない。 なんとなくホーさん、口調が固いような、どことなくぎこちないような、気がした。「・・・あ、そうですか、いや、なんかインド(…インド?…)とかドイツの方とかいらしてくださるということなんだが、いらしてくださってもね、こちらも日本語がやっとですしね、どこまでお話できるかわからないんだけれども、・・・」 あ、インドじゃなく台湾です、と訂正するゆとりもなかった。焦っていた。焦りだすと同時にみるみる沈みはじめていた。ホーさんに私は余計な負担をかけていたのだ・・・ どうしよう ・・・「・・・二日やそこら泊まっていただくのはそりゃかまいませんがね、何のお構いもできませんけども」――「家内と話はしました? あ、まだ? うちん中のことはほとんど家内なんでね、・・・だいたい普段は3時ぐらいには戻ってきます、まあそのあたりにまた、・・・」 その間、私がはさんだのは「いえ、民宿に」「そんな、すみません」くらいで、8割は「いえ」「はい」「すみません」だったろう。 頭がぐるぐる回っていた。巡る言葉は「迷惑」「負担」。 電話を切ったあとも呆然としていた。そうだ、負担になっていたんだ…どうしようどうしよう。気を遣わせたにちがいない。外国人が行くとか書き送ったから大ごとに思われたのかもしれない。 もちろん、ラニとマーティン泊めてください、と頼んだのではない。ただ会わせたかったのだ。それに前回最後の夜の気分がとても楽しくて、みんなが集まってごはん囲んであれこれ喋る雰囲気は台湾のラニのおばあちゃんちを思い出させるところもあって、二人にもここを味わってほしかったのだ。二人がちょうど北海道に来ているというのも嘘みたいな偶然ではないか。 その考えが軽すぎたのかもしれない。ラニとマーティンが来るかもと言っただけでびびった私の母とは違い、ホーさんとテルさんは人が来るのに慣れているし、むしろそういうのが好きな人たちに思えた。ピリヤさんも勧めてくれたし、ピリカさん(仮名)も喜んでくれたし、でも、だからといって… ダメだ。あとでまた考えよう。改善策を考えよう。 この時点で冷静になれば、別に「問題点」と呼ぶべきものが発生してないのはわかりそうなもんなのだが。 ひとつ気づいたことがある(あとで、だけど)。どうも私は、そこで語られている内容よりも、口調に敏感に反応するらしいのである。声で印象が違うのは当然だが、人一倍そっちに引っ張られてしまうらしい。自分はボイストレーニング受けたほうがいいような喋り方しているくせに、である。 そしてこのときのホーさんの口調は距離を置いている(そりゃ北海道だからね、って、馬鹿を言う余裕もそのときはない)感じがしたのである。 こういうときはとりあえず忘れて仕事を。・・・と思ったが仕事はみごとに止まった。 それならブログを。書きかけ項目の中で、明るい話を。・・・と思ったが書けなかった。それならこの際、目一杯落ちる方向で、うじうじ遍歴の話を。・・・これまたダメだった。ほんじゃあ本じゃ、と、明日期限で図書室から借りてる本、小川洋子の『猫を抱いて象と泳ぐ』を読み出した。・・・ますます悲しくなってしまった(結局この本、あと少し残して読みきれず。翌日返しに行ったら案の定リクエストが膨大になっていて―私が借りたときは誰もリクエストしてなかったのだ―これで永遠に戻ってこないことは確実)。 じゃあさらに受身で音楽・・・と探して目に入ったのがジョージ・ハリスン。やはり心境に合ったものが視界に入るもんである。”Give Me Love”だし。 ほんとは『Living in the Material World』より『All Things Must Pass』を聴きたい気分だったのだ(タイトルからしてぴったりでしょう)が、これはCDケースしか手元に残っていない。シニカル英国人に貸したら「どっか行っちゃった」と言って戻ってこなかったのだ。(お詫びに別の買ってあげると言われて選んだのがニルヴァーナ”In Utero”だった。なんだかな) Downward Spiralである。Downward Facing Dogである。うなだれた犬。負け犬である。―はいごめんなさい、嘘です。これはヨガの”下を向いた(/下向き)犬”のポーズのことですね。全国の真面目なヨギーの皆さんすみません。 がっくりしてたところに偶然リンさん(仮名)からメールが入った。今日は初登場が多いが、リンさんも平取の人である。が数年前までは東京の人であった。リンさんはお母さんが在日中国人(この言い方でいいのかどうかよくわからないが、お祖父さんの代から日本と言っていたと思う。不適切な表現あれば必ずや訂正します)で、それもあって、リンさんとラニも会わせたいなあ、と思っていたのである。もとが中国と言ってもぜんぜん違うじゃないか、と言われればそれは確かなんですが。 思わずリンさんへの返信にも、「私負担かけてたみたいです…」と書いてしまった。何でもすぐ思ったまんま出してしまうのが愚かなところである。裏表ないって言って 夜になった。電話が鳴った。「xxxxでーす!」あ。テルさんだ。「あれー、どうもー お手紙もらって~」テルさんの声は明るい。しかし私の第一声は「すみません…」であった。ところがである。 「いやあさっきぃ、役場の人が”聞き取り”(と言ったように聞こえたのだが、そのあとも私は聞き間違えをしてたので、違う言葉だったかもしれない)に来ててさー、お父さん”インド(インド?)やドイツの人が来るんだ”って自慢してやったさーって言ってたよー」あれ?「いやー こっちはぜんぜん構わないよ~ なんもないけど~ あたしもう、そのつもりで休みとったんだものー せっかく来るんだからさー 」あれれ? つまりホーさんの口調が固かったのは、役所の人が来ていて話にくかったから、らしいのだ。「なんもない」「お構いできない」は、ホーさんの”謙遜”だったのである。誰か来ているらしいとわかっていたにもかかわらず、否定的な意味で舞い上がってしまっていた私は、まったくそちらと結び付けなかったのであった。 そういえば、もともと謙遜するのはお二人の性格でもある。前回テルお母さんは、「なんもなくてぇー あたし料理ぜんぜんしないから」と言っていたが、実はものすごく料理上手だった。何にもないどころか目を丸くする素晴らしさだった(実を言えば、それをラニとマーティンに賞味させたいという気持がなかったとは言えない)。なんもない何もない、と言って、とりたてのトマトは山盛りだわ(おいしいおいしいおいしい)漬物はうまいわ鮭は丸ごとだわホタテは厚いわ、倒れそうにすごかった。 ・・・なのに、どういうわけかネガティブに捉えてしまうのである。いったんネガに回ると”ダメダメ私はやっぱり無能”モードに陥ってしまうのである。 ともあれ単純なので、あっという間に胸を覆っていた霧は晴れ(Toshi先生がよく言うように、気持がしぼんでいると胸も縮みがちです。aya先生が言うように、胸を大きく開いて、指の先まで思いっきり開きましょう。チャクラも開きます♪)、 Upward Spiralである。あっという間のアップワード。馬鹿である。唯一よかったのは、お昼の電話の後、すぐさま民宿に三人分予約を入れなかったことだ。これまでの経験からして、その反動に出なかったのは珍しい。進化かも。 が、一瞬、(ああ言ってくれたけど、ほんとにいいんだろうか)という思いは湧いた。だが、いいんだろうか、って、そんな考えるんだったら最初っから行くなよ、という話である。・・・あー疲れた・・・そして金曜日と言えば歯医者さんなのであった。 先週、口数が少なかったように思えた先生である。私は何か悪いこと言ったんだろうか、と不安になっていた先生である。・・・今週、先生は普通だった。・・・先週も普通だったのかもしれない。それとも・・・はたと振り返る。 先週はすでに患者がいなくて(私は予約時間より早く着いたのだよ、念のため)、すぐ通されたから、慌ててi-Podのイヤホン外しながら入っていった。 私は緊張すると眉を寄せる癖がある(らしい、と気づいたのもかなり遅いのだが)。それで怒ってるみたいに思われることがある(らしい、と気づいたのもかなり遅いのだが)。・・・それだったとか? 先生は先生で私が不機嫌だと思って、それであんまり話さなかったとか・・・ いずれにせよ、もはやどうでもいいことである。氷は溶けた(そもそも溶かす氷が張ってたか、という疑問はあるが)。 ひょんなところから音楽の話になったのだ(きっかけは「米軍機最近またうるさいですねー」だったのだが、そこからなぜ音楽まで飛ぶのかは内緒)。 なんとなんと、先生はバンドをやっているのだ! これは思わずその場で笑ってしまった。近くの歯医者さんも一緒だそうだ。歯医者さんバンド。しかもまあ、先生はベース担当。んま~ 先生ったら! 人の思いがけない面を知るというのはなんだか楽しいものである。いやー、いいな先生~ これで私の歯医者遍歴にも終止符が打たれた。間違いない。 それにしても・・・ 何でもかんでも自分のせいだと思うのもいいかげんやめてくれませんか――と自分を蹴っ飛ばしたくなる今日この頃。 責任転嫁はそりゃよくないが、何につけ自分に非があると思うのも、自分が見えてないと言う点では同類である。ヤらしい。女々しい。あ、私は女であったか(・・・年齢性別住所、すべて不詳にしておいたら面白いなとかも思うのだが、さすがに全部は難しい)。 ま、こういう人間を「ばかだねー」と受け入れてくれる友達の存在はありがたい。 ここで馬鹿にお付き合いいただいている皆さまもありがとうございます。ナマステの日々。