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2010年01月14日
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カテゴリ:“変態”を嘲う
1.政府からのプレゼント。

 親一人、子一人の親子が住む公営住宅に、市役所の職員がやって来た。
 職員は無気質なまでの無表情な顔のまま、何事かを親に話しかける。
 その親は驚いた顔をし、何でわたしが、と言う表情でその職員につめよったが、職員は突き放し、最後に何事か語り、冷酷にドアを閉めて立ち去った。

 2日後、職員と話をしていた親と重い障害をしょっていた息子の遺体が、その公営住宅から運び去られていた。息子は薬物中毒で死亡、母親は首吊りの状態で発見された。

 少し前の国会。
 「日本国の財政は逼迫しており、国債残高は700兆円もある。この状況では日本国民に十分な施策をしてやれない。」
 「社会保障の支出が硬直化している状態に、何かいい手はないか?」
 そこに、西日本の首長出身で国政に転身した原武光が“持論”をぶった
 「まともでない障害者や、後は死ぬしかない老人が、ただ生きるためだけに治療を受け続けている。こんなのにいつまでも金かけるわけにいかない」

 しばらく前なら、こんな発言すれば袋叩きの目にあった。
 しかし、生活する事、仕事する事、総じて言えば「生きている事」そのものに窮々としていた「世間」は、この言葉に喝采を浴びせた。言い代えれば「喝采をあびせてしまった」。
 「俺たちがこんなに汗水垂らして稼いでいるのに、何もできないクセして税金だけは使う」だの「どうせ生きていたってムダ何だから死なせてやったら」とか。
 時間が進むと、先に記した言葉が優しいぐらいの罵詈雑言が世の中を駆け巡るようになった。いい加減誰か止め入ってもいい様相になって来たが、それは世の中で主流派になることもなく-正確には止めに入った人はいたが、その意見は黙殺された-気が付いたらとんでもない法案ができてしまった。

 「福祉活力化法案」

 名前だけは立派だ。
 だけどもその中身と言えば「役に立ちそうな社会保障を受ける人」に対してはお金をかける一方で、「何もできない社会保障を受ける人」に対して「人道的対応として自決を促す」対応を取るという法案ができあがってしまった。
 当然、激しい反対運動は巻き起こったが、反対運動に対する激しいバッシングと、与党幹部の高圧的対応、分裂工作の前に運動は頓挫させられた。頼るべき世間は情報コントロールの前に「ほんの一部にしか適用しない」「適用される人からもこの法案を歓迎している」などという言い訳が通用し、むしろ反対派は「不人情だ」という烙印を貼られてしまった。

2.守らねばならないものは何だろう?

 国会での採決は二大政党を中心に圧倒的多数で賛成可決。
 悪夢の法案は実際に実行されることとなってしまったのだ…。
 最初のシーンはこの法案の実行された様子のひとコマ。
 
 「だって、あそこの息子さんずっと意識なかった訳でしょう。もういいんじゃないですか?」
 「お母さんも何も死ななくたっていいのにね。」
 「でも私たちも、いずれ考えなきゃならないわよ。親がスパッと死んでくれればいいけど、だらだら生き延びると辛いだけだわ」
 「人が死ぬのは嫌だけど、死ぬの望んでいるように見られるのも嫌だしねぇ。」
「何にしても“活力化法案”様々ね。辛い思い背負わなくてもいいんだから。」

 …事件が起きた場所の近所を取材して回った高橋元気は、自宅に戻るなりドドォッとソファに倒れ込んだ。仕事自体も疲れたが、取材した人の誰もが「仕方がない」といい、積極的に良かったという人は1人だけだったものの、あの親子を悼む言葉はとうとう出なかった。それが非常に辛かったし、同時にイラつく原因になっていた。

 「仕方がない、か。いつまでその言葉に甘えてりゃいいんだかな。」
 元気とて、市井に住む人々が限界ギリギリで生きているのは分かっていた。だが、そこからの“解放”を、自分以外の人の窮状をおとしめる事で晴らそうとする、その態度には腹が立っていた。来ていたワイシャツを無造作に机に脱ぎ捨てる。

 「生きて行くのにゆるくない、は分かるぜ。
 だけどな、それをエキセントリックなモノの言い方で晴らそうってのは、何とか中毒者と何が違うんだ?」
 ネクタイも机にたたきつけた。

 「ゆるぐねぇ人の立場分かれってのも簡単じゃねぇ事ぐらい分かるわ。
 だがな、自分自身がせめてよ『ゆるぐねぇ人を貶める事はしない』ってぐらいはできるだろうよ。結局、被るのは自分自身何だぜ。負の精神ってやつを。」
 寝巻に着替えて、再びソファに身を投げ出し、小さな窓から満月を眺め始めた。

 「一体、何が大事何だかな。
 色々な意味で窮々としてしまい、自分自身を守るしかない状態においこまれる。
 何とか自分自身は守ろうと考える。その事自体は間違っていない。
 だが、その思いが、結果として“自分以外の、自分に利をもたらさない人の排除”を生む原因になってしまっては…。」
 そこまで何か考えた後、もうこれ以上、物事を考えられない状態に…元気は、ガーガーいびきをかきながら睡眠をむさぼりはじめた。

3.不寛容は、結局自分にかえってきてしまう。

 あの取材の日から何日が経っただろう。
 この法律を作るきっかけになった原武光が大威張りでテレビでご高説をぶちかましていた。次は公務員給与を月給一律10万円にするという法律を用意しているそうだ。
 知らねぇぞ。それで食べて行けない公務員が、食べて行くために職務をねじ曲げるとんでもない行為に出ても…という意見は、例によって世に出ない。どこかの番組で食らいついたジャーナリストはいたが、CM明けにその席にはかわいい熊の人形がおかれ、3日後には過激な支持者によって全治6カ月の重症をおわされた。

 「ちょこっとは立ち止まって考えられないんだべか、ね。その意見がいい事か、どうか見極めるのはよ。」
 数日前に畑作業失敗してケガしていた元気がソファで愚痴っていた時、電話がなった。
 「もしもし。ああ、真か。」
 「どうだい、鹿に跳ね飛ばされた感想は。」
 「いいわけねぇだろ。茂みから生きなり出てきたの避けれないよ。
  で、用件なんだ?」
 「そん時新聞に実名で投稿して来た人いただろ。酒飲めないおまえが、散々愚痴ってビール1ケース空けた原因になった。」
 「ああ『活力化法案で救われる人は多い、先頃起きた事件だって、あれで本人が救われたんだ。自殺した母親は死ななくてもすんだ。これからもああいう人はみんなのために観念してどんどん処置してもらってください。武光様様々です。』って書いてくれた人な。」
 辛うじて「奴な」と言うのだけは防いだ。
 「その家の娘さんが交通事故にあったそうだ。今病院で大騒ぎになっている。」
 「ちょい待ち、何が大騒ぎなんだ。」
 「娘さん、むごい話絶望的だとよ。そう判明した瞬間父親が大暴れしてるって話だ。おまえは気が向かないだろうが、病院行ってみろよ。」
 「確かに、先日のモノの言い方には納得してないさ。だけどもよ、それとこれは別だし、今苦しいのは娘さんだろ。俺はな、人の不幸で飯食いたくないんだ。」
 「お前はそこらへんの時勢に流されてばっかの奴とは違うだろ。だったら、お前なりの視点で物事見てこい、そして書いて見ろよ!
 自分は安全な場所にいて、人見下して自分維持している奴らの目ぇ覚まさせろ。」

 と言うなり、真は電話を切る。
 元気は友の励ましを受け、すぐに取材道具をもって地域総合病院に駆けて行った。

4.惨劇。

総合病院。玄関前にはパトカーも止まっていた。
 『活力化法案』では、この「自決」の実行を邪魔した者に対して「公務執行妨害(!)」で逮捕する事ができるようになっていた。まさか、あの投稿者が逮捕されたか…。
 だが、病院の中に入って見たのは、予想とは別な光景。

 たしか、投稿者は40代の男性だった。
 そこには大体40歳ぐらいの男性が、刺されて倒れていた。
 その横には、包丁をもった情緒不安定そうな若者が警察に押さえられている。
 何事かつぶやいていた。
 「もうあきらめろよ…見苦しい。
 お前の子供に使う金あったら、俺らの方にもっと金使ってくれよ…。
 そのための『活力化法案』だろ。」

 一方の父親は、あえぎあえぎ何かを言っていた。
 後の取材でこんなことを話していたと言う。
 「自分の関係ないことで起きているから、他人のことを死んでもいいと言えたけど、自分の身内がああいう事になってわかった。他人が誰かを死ね、と追い詰める事をした自分を恥じている…」
 と。

 結局、父親は死亡、その娘も“処置”され、父親を刺した男も何日かした後に死亡した、と発表された。

 話を聞くと、父親は「娘が重篤な状態でもはや助かる見込がない」と医者に宣告された。その時に「冗談じゃない、まだ何か打てる手があるはずだ。ほぼ即決じゃないか。納得できない!」と相当にくらいつくが、医師は『活性化法案』を楯にけんもほろろに「無理なのは無理です」と退席。父親は退席していた医師を追いかけ、なおも食い下がっていたが、その様子を見ていた男に先のような理由で刺されてしまった、との事だ。

 取材を終えて、元気は一人、部屋にこもっていた。
 原稿を明日までに書き終えなきゃ…。

 現象書いて、ただ興味を沸き立てるだけなら、ある程度の文章を作る能力があればできる事だ。文章作る力がある物書きなら、元気の上に何千人といる。元気が物書きをしている理由は、立場が弱い人に寄り添い、その立場にいる人が存在してもいいよ、という事を示すためだ。そういう意味合いをもつ記事を書く気力は誰にも負けたくねぇ。そういう思いで、この日もワープロに向かっていた。

 時折集中力欠いて、ソファの上で伸びるのはご愛嬌、という事で。

後編はこちらからご覧いただきます。





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最終更新日  2012年02月04日 04時45分55秒
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