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ペン蔵の一言に頷きを以って返す。
クルーガーやムートンまでとはいかずとも、意思を持たない戦闘機械を生み出すだけなら可能かもしれない。 『彼』は既にこの星そのものと融合している状態だ。 何をしでかしてくるか想像もつかない。 「本体が動けなくても、ケーブルを通じて各所の施設は動かすことは出来る。僕とクルーガーはあくまでお手伝いだったからね」 「と、言うことらしい。一応こちらはデビットを見つけた以上、任務達成と考えたいんだが」 モニター越しのゼクティス(装備:独特の匂いのする被り物)に視線を送りつつペン蔵に言う。 既にクロウ部隊として彼らに与えられた任務は達成されている。 それならばさっさと戻り、こちら側で判明した後始末を『出来る』メンバーにやらせるべきだ。 何時までも少ない人数で居るのは寧ろ危険と考えるべきだろう。 『そうですね。奇跡的にデビットは助かったとはいえ、各所バラバラに居ては何時また襲われるか判りません。後正直一人で凄く心細いから早くリーダーを迎えに来い』 「消臭剤持って迎えに行くから覚悟しとけゴミ」 全てを切り捨てるかのような勢いで吐き捨てる。 しかし特に気にするような様子を見せずにゼクティスは続ける。 『Mrペン蔵、我が親愛なる子分の言うとおり、何時また『彼』の手が伸びてくるかも判りません。帰還許可を頂きたいのですが』 『ゴミ袋被りながら言われるたぁ俺も思わなかったよぃ』 やや半目でゼクティスを睨みつつ、ペン蔵は答える。 『取りあえず、デビットだけでも回収しようじゃねぇか。アトラス達をそっちに回そう』 「アトラスを? 何の為に」 アトラスは少し前にこの世界の調査に赴いていたとはいえ、戦闘部隊の筆頭と言う立場だ。 ただデビットを送り届けるためならもっと適任が居てもいいはずである。 『組織の仇になりそうな野郎なんだろ? その『彼』ってのはよぉ』 画面の奥に居るペンギンはどこか威嚇するかのように眼光を光らせた後、笑いながら言った。 『そんな不穏分子を俺たちが残す必要が何処にある? 動けない状態なんだよなぁ、『彼』ってのは』 「え―――?」 ムートンが何か言いたげにして来たのを手で静止しつつ、カイトとデビットは黙って上司の決定を聞く。 同じ画面でゴミ袋を被っているゼクティスも真剣な表情で聞いている。 (やるの、か……) それは組織に身を置いているのなら誰もが予想できる事だ。 邪魔な物は徹底的に破壊し、蹂躙し、力を見せることで跪かせる。 それが組織のやり方なのだ。 『クロウ部隊に新しい命令を下そう。『彼』の所在を掴み、可能ならば殺せ。手段は問わない』 「りょうk」 「待って! 待ってよ!」 決定に疑問は持たない。 そういう『場所』なんだと知っているからだ。 しかし元から居た住民はそんな理不尽な事知るうる筈が無い。 「何する気なんだよ!? 『彼』を倒そうとすればこの世界の機能が一気に失われることになっちゃうんだぞ!」 ムートンが叫ぶ。 この世界の機能が停止すると言うことは、残っているロボットたちの活動が困難になることを意味している。 もしそうなった場合、この世界は完全な崩壊世界になる。 『文句があるなら何時でもかかってきな僕ちゃん。取りあえず、6時間後にはそっちに増援が来る。デビットはそのまま引き取るから、お前らシルバークラスは『彼』の情報を出来るだけ集めておけ』 「判った。通信切るぞ」 『あ、こら待て子分! 急いで私を迎えに来い! いいか、これは最優先事項――――』 五月蝿くなる前にさっさと通信を切る。 こうなると迎えにいく前にやれる事をやっておいた方がいいだろう。 「先ずはウチの馬鹿隊長を迎えにいく前に情報収集だ。ムートン、『彼』は何処にいる」 「言える訳無いだろ! 『彼』が死ねば連結されている残りのエネルギーが消えて、ロボットたちは補給が出来なくなっちゃう!」 そうなったら彼らロボは何時機能停止してもおかしくない。 しかし、 「なら何故『彼』を裏切るような真似をした?」 ソレを理解していて、尚且つ『嫌』なのだと思うのならどうして『彼』の傍から離れた? 何故メリットも無いのにデビットを助けた? お世話ロボットとして誕生したのならどうして『彼』の命令に背いた? 「ハッキリさせようぜ、エムテン。こっちも暇じゃねーんだ」 「そ、それは……」 何処か困ったように後ずさるムートン。 ハートロボは一々動作が人間らしいな、とカイトは思う。 しかしその人間らしい動作が彼にとっては苛立たしかった。 「いいか、俺たちはボランティアでこの世界を平和にしようって来てるんじゃねーんだよ! 単純に資源の確保がしたいだけだ。だからお前らロボがどうなろうと組織は知ったことじゃねぇ!」 「そ、そうだけど!」 真正面から睨まれる形になりつつも、ムートンはカイトと正面から向かい合う。 だが目の前に居る男から渦巻く『オーラ』に気おされてしまっているのが現状だ。 傍目から見ていて介入できないデビットがいい証拠である。 「だけど何だ? 言いたい事があるならハッキリ言え」 「クズ野郎は、誰かを助けるのに理由が無いとやらないのかよ!?」 その発言に思わず目を大きく見開き、息を詰まらせそうになってしまった。 全く予想だにしなかった発言。 同時に、自分が何でこんな発言にたじろいでしまったのかも判らなかった。 「捕まったデビットたちが『彼』に取り込まれそうになった時、皆泣いてたよ。泣いてたんだよ……っ」 「ムートン、止めろ!」 思い出したくない、と言った様子でデビットが止めに入るが、ムートンは止まらなかった。 「彼らはまだ何もしてないんだ! それなのに無差別に殺されて、取り込まれちゃって……あんまりじゃないか! 誰だって嫌じゃないか!」 「……同情してデビットだけ助けたのか。ただのガラクタのお前が!?」 気付けば苛立ちは更に増していた。 それ故に逆上し、本音も出てくる。 「ガラクタだろうさ! 君等からすれば僕は命令も聞けない駄目なポンコツだよ!」 「止めろムートン! アンタも、ここで言い争っても仕方ねぇじゃねぇか!」 意を決して介入してきたデビットが間に入ることで二人の距離が一旦開く。 だが、このまま行けば激突は免れない。 それはデビットから見ても明らかだった。 「心があるロボだか何だか知らないが、偉くいっちょまえの口ほざくじゃねぇか! じゃあ最終的に俺たちにどうしろってんだガラクタ野郎!」 「『彼』と『組織』の両方を止めてくれ! この世界が彼らに暴れられたら、本当にこの世界が壊れちゃうよ!」 お願いだよ、と消えてしまいそうな声で呟きつつムートンが見上げてくる。 間に入っているデビットも何処かオドオドした顔でこちらを見てくる。 「……っ!」 何故だか無償に腹が立つ。 だがこの苛立ちが何故生まれるのかは、先程から自分にはどうにも理解できない。 「デビットを助けた恩を返せってことか?」 「違う。僕は単純に、そうして欲しいからお願いしてるんだ」 機械の癖にやけに力の入ってる声だった。 それだけに、苛々する。 何でこんなガラクタの為にお願いを聞いてやらなきゃ行けないんだろうと、そう思ってしまう。 「確かに本隊が到着する前にお互いに害になるような事をしない――――停戦協定を結ぶことが出来れば、戦う必要は無いけど」 デビットの一言に、ムートンは思わず反応する。 「チャンスをくれ! 戦う必要が無いなら君たちも無駄に戦うメリットはなくなるはずだ。そうなればお互いに得はあるだろ!?」 「今になって『彼』を説得しようってのか……? それができなかったからクルーガーが襲い掛かってきたんだろうが!」 「今度やれば『彼』も心を開いてくれるかもしれない!」 「心? 既に二人殺した殺人機械に心を要求するのか!?」 笑わせる、と吐き捨てながらカイトは再びムートンを睨む。 余りにも分の悪い行動過ぎる。 『彼』からすればこちらは飛んで火にいる夏の虫状態ではないか。 攻撃するならまだしも、話し合いをしようと言うのでは向こうが応じる事も無く攻撃してくる可能性がある。 否、寧ろそちらの可能性の方が高い。 「クズ野郎だってクルーガーを殺したじゃないか! 君にだって心があるから、こうして怒ってるんだろう!?」 「……一々癪に障るガラクタだな!」 一旦回れ右。 ややあってから小屋の出入り口まで歩を進める。 「お、おい! 何処行くんだよ!」 デビットが声をかけると、カイトは振り返ることも無く答える。 「ウチの駄目リーダーを回収する。……その後は『彼』のとこに行く。エムテン、準備しとけ」 「え……?」 言っている意味が良くわからないらしく、ムートンとデビットはすぐに反応できなかった。 なので付け加えるように呟く。 「時間が惜しい。もし『彼』が攻撃してくるなら俺はお前ら全員をカバーできないかもしれない。エムテン、自分の身は守れよ」 そういい残すと、彼は小屋の扉を開け、外に出る。 直後、背後から嬉しそうな少年の声が彼の耳に届いた。 「うん、ありがとうクズ野郎!」 続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010.05.03 21:14:57
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