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童話 てんくうのくろ<1>

  天空の黒 大地の白 第三部
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てんくうのくろ


昔むかし、ある国に美しい女王さまがおりました。
女王さまは、みんなにしんせつでやさしい、よい女王さま。
お城や町の人たちは、女王さまを大切にしました。
それなのに、女王さまは幸せではありません。
欲ばりな"おじ"と、いじわるな夫が、いつもこっそり女王さまをいじめていたのです。
お付きのアルブレヒトは、女王さまの味方。
とってもたよりになる強い騎士です。
でも女王さまはアルブレヒトに心ぱいをかけたくなくて、いじめられてもじっとガマンしました。
女王さま、ひとりぼっち。

そんなある日、町の外から男がやってきました。
ぼろぼろの服を着た、近づいたらプンプンにおいそうな男ですが、町の人たちの病気をなおしたり、手だすけをして喜ばれておりました。
女王さまが男に話しかけようとすると、アルブレヒトが目を三角にして、こう言います。
「女王さま、あんな男に近づいてはいけません。」
「どうして?」と女王さま。
「あれは、不良外国人です。」
女王さまは、アルブレヒトの言ういみがよく分かりませんでした。
たしかに身なりはまずしいけれど、こぎたなかったり、くさかったりするのは、おふろに入れて丸あらいすれば、ずいぶんよくなるだろうと思ったのです。
それから何日かたって、アルブレヒトがお城をるすにしたとき、女王さまはぐうぜん町で男に会いました。
前から男のことが気になっていた女王さまは、ついアルブレヒトの言いつけをわすれて、男に話しかけてしまいました。
じつをいうと、これが男のおもうつぼ。
男は魔法つかいで、人を思いのままにあやつる魔力をもっていたのです。

「女王さま、私のようなものに、お声をかけてくださったお礼です。」
男はしんせつそうな顔で、女王さまにプリンをさし出します。
女王さまは、いじわるな夫にくさったプリンを食べさせられたことがありましたので、プリンはいらないなあと思いました。
そのようすを見た男、
「これは、魔法のプリンです。食べれば強くかしこくなって、欲ばりなおじや、いじわるな夫に泣かされることもなくなる。」
女王さまは、少しきょうみがわきました。
「町を豊かにする方法だってわかります。きっと、たくさんの人から感しゃされるでしょう。」
だんだん、プリンがほしくなります。
「それに私は、女王さまが好きになった。だから大切なプリンをさし上げるのです。」
この言葉が、一ばんききました。
これまで女王さまは、多くの人から大事にされていましたが、だれかに「好き」だなんて言われたことがなかったのです。
すっかりうれしくなった女王さま、男にすすめられるままプリンをぱくり。
するとたちまち、ふしぎな魔法にかかって、男のいうことを何でもききたくなってしまいました。
「さぁ、おれを城までつれていけ。」
本しょうをあらわした男が、女王さまに命令します。
女王さまは、うっとりした顔で答えました。
「ええ、お城でいっしょにくらしましょう。でもその前に、おふろに入って。」
「わかった。」
男は、あんがい素直なところもありました。



さて、丸あらいされて、それなりになった男は、お城に入るとすぐ塔に登りました。
「おれの力を見せてやろう。それっ。」
男が手にしたつえをふると、どうでしょう。
お天気だった空が、にわかにくもり、
ゴロゴロピシャーン ドドドドドーン
いくつもカミナリが落ちました。
大つぶの雨がザアザアと、ふりはじめます。
教会のカネにカミナリのひとつがあたって、ひめいのような音を町中にひびかせたが最後、まっぷたつにさけました。
「ひゃあ!」
「てんばつだぁ!」
町の人たちは、すっかりこわがって、あわてて家に帰ると、マドをぜんぶしめてガタガタ、ブルブル、ふるえておりました。
でも、畑をたがやす農夫たちは、すぐに気がつきました。
「ヤレ、めぐみの雨だぞ、助かった。」
「雨がやんだら、ひとしごと、ホレ。」
この国では、もう長いこと雨がふらず、畑のジャガイモやこむぎが、元気をなくしていたのです。
それだけでは、ありません。
男がつえをふるたび、メンドリはたくさん卵を産み、め牛はもっとおいしい牛にゅうを出し、畑のキャベツがすくすく葉を広げます。
女王さまは大喜びして、ますます男を大切にあつかいました。

これに怒ったのは、お城に帰ってきたアルブレヒト。
「女王さま、あの男はいけないと、あれほどもうしましたのに。おふろで、くさいのはよくなっても、うさんくさいのは、なおりません。」
じっさい、そのとおりでした。
男は国を豊かにしてくれましたが、女王さまには、いつもいばって、とても冷たくしました。
やきもちをやいた、いじわるな夫も、ますます女王さまをいじめます。
そんなある日、いじわるな夫が、ぽっくり死んでしまいました。
「魔法つかいの男が、あやしいぞ。魔法で、なんだってできるんだからな。」
お城は、うわさでもちきりです。
「アルブレヒト、あの人を助けてあげて。ころしたなんて、うそよ!」
女王さまのおねがいを、アルブレヒトはききません。
女王さまが、あの男を好きなのは、魔法のせいなのですから。

男は、「フーム」と考えました。
魔法で、お城の人たちをだまらせることも、できます。
でもそれは、魔法つかいといえども、骨のおれるしごとでした。
なにしろお城には、たくさん人がいすぎます。
そこへ、お城に知らせがとどきました。
となりの国で、はんらんがおきたのです。
となりの国では、町の人々がお城をおそって、王さまを追いだし、じぶんたちで国をおさめようとしていました。
「これは、おもしろいぞ。ワクワクするじゃないか。」
男は、この国にすこし、うんざりしておりました。
「となりの国は広くて、りっぱな、強い国だ。こんなドいなかの、たいくつな小さい国より、どうせ住むなら、となりの国のほうがいいよ。」
男は旅のしたくをととのえると、女王さまをよびました。
「おれは、とかいに出ることにした。こんなヘンピな国は、もうまっぴらだ。たまには、てがみくらい書いてやる。じゃあ、さよなら。」
まるで、フォークソングに出てくる若もののようなことを言って、男はさっさと城からいなくなってしまいました。
といっても、魔法でサッとすがたを消したのではなくて、となりの国まで、てくてく歩いていきました。
魔法つかいにも、できることと、できないことは、あるようですね。

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