ソクラテスの妻用事

先日、ある小規模社長が、呟くように言った。
「こんな世の中になるとは、思っていなかった――」
６６歳となった彼は、地道に工務店を経営し、３０数年。
「どういう世の中を期待していたの？」と訊く。
「スエーデンとか北欧みたいな、福祉国家だったんだ」と言った。
「そりゃあ、同感ですよ」と応じた。

「そう期待して、政治を見てきた。もう４６年か――。この間、何にも良くならなかった。いや、もっと悪くなっている」
と社長は言い、
「国は、希望を与えないもなあ。ずっと政治を見てきたが、後半は落胆する事ばかりだよ」
と呟くように言った。
そして、４１０円のマイルドセブンを取り出した。
「これだって、矛盾している話だ。健康に悪いと言いながら、販売し、徐々に値上げしている。まあ、税金の目玉だからな」
彼は美味そうにいっぷくする。俺も併せて煙草に火をつける。
煙草の煙はにわか雲となり、愚痴のような会話を煙に巻いていった。


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