カテゴリ:音楽
日本の一部の新聞でも報道されたらしいが、今、イタリアは「アラ-ニャ・スキャンダル」で大騒ぎのようだ。
「アラーニャ」とは、人気テノール歌手ロベルト・アラーニャ。イタリア一のオペラハウス、ミラノ・スカラ座のオープニング演目「アイーダ」で、主役のひとりラダメスを、ダブルキャストのAキャストで歌うことになっていた。 いや、正確には、歌った。12月7日の初日は大成功だったらしい。 ハプニングは、10日に行われた2回目の上演で起こった。第1幕の登場シーンでラダメスが歌うアリア「清きアイーダ」を歌い終えた彼に、拍手とともにブーイングが飛んだ。それにショックを受けたアラーニャは、舞台を去ってそのまま戻ってこなかったのだ。 ブーイングといっても、そうひどいものではなく、拍手の方が多かったらしい。が、イタリアの新聞に出ていた彼の言葉を借りると、「世界中で成功してきた」彼は、歌える状態ではなくなってしまったという。一幕が終わって降板というならともかく、「清きアイーダ」の後、ラダメスは舞台にとどまって、二重唱と三重唱を歌わなければならないのだ。前代未聞のできごとといっていい。 スカラ座の総支配人リスナーは、舞台裏へ飛んでいってアラーニャを説得したが、効果はなかったという。 で、「アイーダ」はどうなったか? 関係者席にいたBキャストのテノールを引っ張り出して、そのまま続けたという。 ただしパロンビというそのテノールは、着替える暇がなかったとかで、関係者席にいたままでの服装、つまりジーンズにシャツ姿で舞台に現れたという。(見たかった!と思うのは私だけ???)ジーンズ姿の歌手に客席からはブーイングが飛んだが、一幕終了後に客席に向かってリスナー支配人がことの次第を説明すると、大拍手が起こったとか(そりゃ、そうですよね)。 で、ことはこれだけでは終わらなかった。 アラーニャは、次回からはまた自分が歌うつもりだったらしい。ところが、スカラ座はかんかん、アラーニャを出入り禁止にしてしまったのだ。 文字通り敷居をまたぐことも許されなかったアラーニャは、あるデモンストレーションに出た。「アイーダ」3回目の上演(14日)の時、ほぼ開演時間にスカラ座の前の広場に姿を見せた彼は、まず「清きアイーダ」を歌った。続いて、スカラ座の方を向いて、「蝶々夫人」のピンカートンのアリア、「さようなら、愛の家よ」を歌った。なぜなら、彼はスカラ座を「愛している」から。 ちなみに、この様子を伝えたイタリアの新聞記事のタイトルは、「アラーニャのワンマン・ショー」だった。 もちろんこんな「ワンマン・ショー」でスカラ座の機嫌が直る?わけはなく、スカラ座はアラーニャを相手取って裁判を起こしたそうだ。アラーニャの側でも訴え返したらしい。彼自身はこんな騒ぎになったことが不本意だと思っているらしいけれど。 聴衆の立場で言わせて貰えば、スカラ座にブーイングはつきもの。よほどの悪意ならともかく、多少のブーイングの洗礼は誰でも経験があるのじゃないかと思うし、それに耐えて?一流になることもあるのかなあと、期待をこめて思うのだが、歌手の立場からすれば我慢できない時もあるのだろう。 それにしてもアラーニャには、もう少し冷静になって欲しかった。 この件がたたってのことだろうが、ローマでの「椿姫」の予定もキャンセルになったという。 ついでに言えば、奥さんのソプラノ歌手ゲオルギューは、この時期に出る予定だったコヴェント・ガーデンの「ドン・カルロ」をキャンセルしたそうだ。夫の件と関係があるかは不明だけれど。 この騒動についてコメントを求められたカーティア・リッチャレッリは、「彼の気持ちは分かるけれど、私ならその場で舞台を去ることはない」と話している。 ただし彼女も、「スカラ座でブーイングの経験をして以来、スカラ座との縁は切れた」と語っている。やはり歌手にとってはしんどい問題なのだろう。 ただ、私も何度かスカラ座ではブーイングの嵐に遭遇している。やはりイタリアの劇場は反応がダイレクト。その時こてんぱんにやられた歌手でも、その後またスカラ座に出ているひともいる。最終的には本人次第、なのではないだろうか。 アラーニャは、「アイーダ」の開幕前、ある新聞のインタビュ-で、「現代は歌手が下に見られすぎている。指揮者はそこそこでも、歌手がすばらしければオペラは成り立つ」というような発言をしていた。行間にいささか「自分は大歌手」のような空気が見え隠れして、ちょっと鼻白んだ。今回の行動が、そんな考えの延長線上から起こったものでないことを願っている。波はあるが、いい時は、いい歌手なのだから。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
December 16, 2006 02:50:57 AM
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