イタリアのテノール、フランチェスコ・メーリのリサイタルを聴きました。
メーリを初めて聴いたのは、昨年春のパルマでの「コジ・ファン・トウッテ」。朗々と甘く、柔らかくも輝かしいテノールの声がひとりだけ目立っていて、あとはみな同じ、に聴こえてしまった公演でした。
そして昨年の秋、ロッシーニフェスティバルの来日公演での「マホメット2世」で、またもやすっかり参ってしまいました。
ベルカントだとは思うのですが、強さも備えた、なんとも魅力的な声と万全のテクニックなのです。
この分では、フローレスとは違い、ベルカントにとどまらないテノールになるのでは、と思いましたし、又聞きしたところでは、本人もそう考えている(将来はもっと強い声のレパートリーへシフトしたいと)ようでした。
今日のリサイタル、前から期待していたのですが、果たして、これからがますます楽しみ!なテノールであることを、確認した夜になりました。
まず何よりも素質があります。いくらでも出る、という感じの、あふれんばかりの豊かな声。芯がしっかりとし、張りとみずみずしさがあり、なんとも魅力的です。
しかも(おそらく発声を含めて)テクニックがきちんとしているので、とても快く聴けるのです。(高音がきつい箇所が1、2度ありましたが)。
プログラムはイタリア・オペラのアリアと歌曲を中心に、フランスものもまぜたもの。
いちばん魅力的だったのは、トスティの有名な歌曲「かわいい口もと」「理想の女」でしょうか。メーリの「声」を、これでもか、と堪能できる至福の時でした。
アンコールで歌われた、十八番の「人知れぬ涙」も素晴らしかった。最後の最後に出してきた「星は光りぬ」は、さすがにいっぱいいっぱいという感じでしたが(笑)。将来は、そちらの方も歌えるようになるでしょう。
夫人であるソプラノ歌手のセレーナ・ガンベローニも出演し、アリア2曲と2曲の2重唱で共演していました。
ガンベローニは、残念ながら今のところ平凡の域を出ていない歌手でした。愛妻の文句を言うようで申し訳ないけれど、メーリとならぶと余計その重さがきわだってしまいます。声も窮屈ですが、なんというか、ノリが悪いのです。曲想、曲の雰囲気をぱっとつかむ感性に欠けているといいますか。
逆に言えば、すぐれた歌手というのは、それができているのでしょう。
そのことを確認してしまった、夫婦共演としてはちょっと皮肉な結果となったのでした。
いずれにせよメ-リが、目の離せないテノールであることは間違いありません。今ならよく歌っているネモリーノ(アンコールで歌った「愛妙」の二重唱は、さすがに板についていました)やマントヴァ公でしょうか。またぜひオペラで聴いてみたいものです。