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贅沢な1ヶ月です。 このひと、プログラムが面白い。今回の来日でも、バッハとバルトークを組み合わせたり、メンデルスゾーンとシューマンに絞ってみたり。オール・ベートーヴェンもありましたが、有名ソナタなんぞではありません。「一見さん、お断り」の世界ですね。でも彼を多少知っているひとなら食いつきたくなる。 本当はバッハ(とバルトーク)に行きたかったのですが、気づいたらチケットは完売。メンデルスゾーンとシューマンも興味はあったので、神奈川県立音楽堂でのこのプログラムに行くことにしました。 やっぱり、面白かった。 知的な興奮と感覚的な充実。この二つを十二分に満たしてくれるピアニストは、ちょっと思いつきません。加えて今回は、「音楽史の片鱗を俯瞰した」達成感まであったのです。 前半と後半、メンデルスゾーンとシューマンをそれぞれ1曲ずつ組み合わせた一見シンプルなプログラムは、前半が変奏曲系、後半がファンタジー系と色分けされていました。前半は、メンデルスゾーンの「厳格な変奏曲」から、シューマンの「ピアノソナタ第1番」へ。ソフトな哲学者のような雰囲気、ていねいなペダルのコントロール、抑制の利いた表現ながら、作品自体の輪郭はくっきりと立ち上がります。作曲年代は後者のほうが早いにもかかわらず、やはり音楽のスケール感、成熟度、ロマン派度の差がめだって興味深い。けれど「幻想曲」作品28から「交響的練習曲」へと移行した後半の落差は鮮やかでした。きらめく才能に恵まれ、知的でありながら極端に夢想的だったシューマン、それだからこそ成し遂げられた作品なのだ、と初めて納得できた気がします。スケールの大きさ、きらめく音響世界の多彩さ、奔放きわまりない技巧。それらを「もっと、もっと」と呟きながら極めようとしたのだろう彼の冒険精神を、はっきりと感じることができたのです。 アンコールが長く、充実していることも有名なしシフのリサイタル。今回は6曲、30分弱でしたが、それでも「今回のリサイタルのなかでもっとも短い」(3回通った友人の言)。メンデルスゾーン、シューマンをそれぞれ2曲弾いたあと、 「来た」 バッハが鳴った瞬間、心のなかで思わずそう呟いてしまったのでした。 「イタリア協奏曲」の第3楽章。これまでのロマン派とは異なるリズム感の洪水。ペダルなしの乾いた音から迸る爽快感。 そして最後は「ゴルトベルク変奏曲」のアリア。一見単純な、でもかぎりなく純粋な、音のエッセンスが醸し出す「音楽のすべて」と言いたくなる幅広さ。 音楽史(の一部)を体験した。 アリアを聞き終わったとき、そう思ったのです。 「すべてこの曲から来ているんです、って、東北に捧げるコンサートの時に言ってたのよ」(前述の友人) それゆえの、このしめくくりだったのでしょう。 本当に、すごいピアニストです。(「三羽がらす」はどこへ行ってしまったのでしょうか) いつか彼の「音楽史」シリーズをきちんと聴いてみたい、と思ってしまいました。 もちろん、今回のプログラムでも実現している訳ですが、もっと徹底的にやってもらったら面白いだろうな、というのが偽らざる希望です。フォルテピアノなんかも混ぜてもらって。「音楽史って面白い」って、誰でも思うのではないかなあ。
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最終更新日
March 23, 2014 12:35:58 AM
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