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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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March 22, 2014
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 贅沢な1ヶ月です。
 マリア・ジョアン=ピリスと、アンドラーシュ・シフという、現代を代表するピアニスト2人を、日本で聴けたのですから。
 
 還暦を迎えたアンドラーシュ・シフ、ハンガリーが生んだ名ピアニストです。実は私のなかでは「化けた」ピアニスト、という気持ちがあります。国際舞台に出てきた頃、「ハンガリーの三羽がらす」などと呼ばれました。あとの2人はデジュー・ラーンキとゾルタン・コチシュ。(少なくとも当時は)「イケメン」若手ピアニストという売り方でした。彼ら、とくにラーンキの演奏会に、花束嬢が行列を作って話題になりました。まあ、イケメンといっても、今よりはるかに素朴だったような気がします。ハンガリーですもんねえ。
 
 「三羽がらす」のなかでは、シフは一番地味だったように思います。ところがあれよあれよという間に「三羽がらす」云々から抜け出し、フォルテピアノ(やチェンバロ)なども弾き始め、バッハの演奏で一斉を風靡し、ベートーヴェンやシューベルトでも大家然とした演奏を聴かせてくれるようになりました。前回の来日の時に聴いたシューベルトは圧巻でした。聴衆の集中力もものすごく、弾き手と聴き手が一体になって作り出す磁場の力に圧倒された記憶があります。

 このひと、プログラムが面白い。今回の来日でも、バッハとバルトークを組み合わせたり、メンデルスゾーンとシューマンに絞ってみたり。オール・ベートーヴェンもありましたが、有名ソナタなんぞではありません。「一見さん、お断り」の世界ですね。でも彼を多少知っているひとなら食いつきたくなる。

 本当はバッハ(とバルトーク)に行きたかったのですが、気づいたらチケットは完売。メンデルスゾーンとシューマンも興味はあったので、神奈川県立音楽堂でのこのプログラムに行くことにしました。

 やっぱり、面白かった。

 知的な興奮と感覚的な充実。この二つを十二分に満たしてくれるピアニストは、ちょっと思いつきません。加えて今回は、「音楽史の片鱗を俯瞰した」達成感まであったのです。

 前半と後半、メンデルスゾーンとシューマンをそれぞれ1曲ずつ組み合わせた一見シンプルなプログラムは、前半が変奏曲系、後半がファンタジー系と色分けされていました。前半は、メンデルスゾーンの「厳格な変奏曲」から、シューマンの「ピアノソナタ第1番」へ。ソフトな哲学者のような雰囲気、ていねいなペダルのコントロール、抑制の利いた表現ながら、作品自体の輪郭はくっきりと立ち上がります。作曲年代は後者のほうが早いにもかかわらず、やはり音楽のスケール感、成熟度、ロマン派度の差がめだって興味深い。けれど「幻想曲」作品28から「交響的練習曲」へと移行した後半の落差は鮮やかでした。きらめく才能に恵まれ、知的でありながら極端に夢想的だったシューマン、それだからこそ成し遂げられた作品なのだ、と初めて納得できた気がします。スケールの大きさ、きらめく音響世界の多彩さ、奔放きわまりない技巧。それらを「もっと、もっと」と呟きながら極めようとしたのだろう彼の冒険精神を、はっきりと感じることができたのです。

  アンコールが長く、充実していることも有名なしシフのリサイタル。今回は6曲、30分弱でしたが、それでも「今回のリサイタルのなかでもっとも短い」(3回通った友人の言)。メンデルスゾーン、シューマンをそれぞれ2曲弾いたあと、

 「来た」

 バッハが鳴った瞬間、心のなかで思わずそう呟いてしまったのでした。

 「イタリア協奏曲」の第3楽章。これまでのロマン派とは異なるリズム感の洪水。ペダルなしの乾いた音から迸る爽快感。

 そして最後は「ゴルトベルク変奏曲」のアリア。一見単純な、でもかぎりなく純粋な、音のエッセンスが醸し出す「音楽のすべて」と言いたくなる幅広さ。

 音楽史(の一部)を体験した。

 アリアを聞き終わったとき、そう思ったのです。 

 「すべてこの曲から来ているんです、って、東北に捧げるコンサートの時に言ってたのよ」(前述の友人)

 それゆえの、このしめくくりだったのでしょう。

 本当に、すごいピアニストです。(「三羽がらす」はどこへ行ってしまったのでしょうか)

 いつか彼の「音楽史」シリーズをきちんと聴いてみたい、と思ってしまいました。

 もちろん、今回のプログラムでも実現している訳ですが、もっと徹底的にやってもらったら面白いだろうな、というのが偽らざる希望です。フォルテピアノなんかも混ぜてもらって。「音楽史って面白い」って、誰でも思うのではないかなあ。 

  

 

 






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最終更新日  March 23, 2014 12:35:58 AM


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