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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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February 20, 2018
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METライブビューイング、4演目目の「トスカ」を見てきました。新制作で、今シーズンの話題のプロダクションのひとつです。(マクヴィカー演出)。1800年のローマを舞台にしたプッチーニのスリリングな歴史サスペンス、愛と死のドラマ。息もつかせぬストーリー展開と劇的で美しい音楽。きわめて演劇的にできているので、初心者でも決して飽きることのない、指折りの人気オペラです。
 
 METの「トスカ」といえば、ゼフィレッリのプロダクションが長年人気を誇っていました。超正統派、といいますか、台本、歴史に忠実なプロダクション。「これぞ、オペラ!」「こんなのが見たかった!」という豪華なものですね。同じゼフィレッリによる「ボエーム」「トゥーランドット」同様、お客さんがたくさん入るドル箱プロダクションだったはずです。
 その後、21世紀に入り、ややモダンでシュールなリュック・ボンディのプロダクションが登場。ライブビューイングでも何度か放映されましたが、どうもいまひとつ人気が出ず。これは現地でも見ましたが、あまりピンと来ませんでした。設定はともかく、作品にみなぎる緊張感をうまく演出できないプロダクションのように感じたのです。
 
 MET総裁でやり手のピーター・ゲルブ氏、「トスカ」をなんとかしなければ、ときっと思ったのでしょう。なんといっても人気演目。いまいち盛り上がらないのは辛い。かつてのゼフィレッリのプロダクションのように、大入り満員を誇るプロダクションを作りたいと思ったのではないでしょうか。それには、やはり正統派の豪華なもの。
 というわけで、ここのところ、METの歴史ものでヒットを連発しているデヴィット・マクヴィカーに白羽の矢が立ったのでは。そう、想像しています。マウヴィカー、最近でいえば「ロベルト・デヴェリュー」など、ドニゼッティの女王三部作も豪華で好評でしたから。
 果たしてマクヴィカーも、とにかく歴史に忠実で豪華なものを、と言われたらしい。

 マクヴィカー本人はインタビューに登場しませんでしたが、代わりに美術、衣装デザインのマクファーレンがインタビューに出てきて、実際にローマに取材にいってきて、現地を詳細に見てきたことを説明していました。気合い入っていますね、MET。終映後に関係者から聞いた話によると、衣装にとてもお金をかけているとか。「テ・デウム」に登場する合唱団の衣装も1着1着手が込んでいるそうです。その割にはスクリーンに映らなくて残念、とのことでした。たしかに。

 そう、今回のプロダクション、ひとことでいえばきわめて「映画的」なものでした。もちろん、ライブビューイングで世界に配給されることを意識してのことでしょう。美しく、緊張感にあふれ、演劇的。プッチーニが見たら喜んだにちがいありません。彼は、映画の元祖、のような存在(だと思っています)ですから。プッチーニが50年遅く生まれたら、きっとハリウッドで大ヒットを連発し、自家用ジェットを乗り回す人気映画作曲家になっていただろうと思うのです。

 装置は、繰り返しですが1800年のローマ、台本にある場所を忠実に再現。なんといってもオペラファンの大半は、歴史劇ならそれを時代通りに見たい。また「トスカ」の舞台はどれもローマの名所ばかりなので、ローマ巡りができることを楽しみにしているファンもいるでしょう。演出に惑わされることなく、作品の世界に没頭できます。
 その上で、やはりアップになることなどを意識して、演技はとても細かい。恋人たちは終始熱烈にキスを交わし、敵役のスカルピアはいやらしい視線で、そして第2幕では実際に手や腕でトスカを舐めまわします。実にわかりやすい。ほんとに、映画を見ているようです。
 カメラワークもしかり。舞台全体が映ることはめったになく、人物の動きや表情、そして手の込んだ装置をいろんな角度から映し出します。だからよけい緊張が途切れず、作品にのめりこめるのです。

 映像で見ている分には、最高です。ただ、ひとつ気になったのは、ここまでスクリーンで細かく見せられてしまうと、実際の舞台を見たときに物足りなくならないかなあ、ということです。ゲルブ総裁としては、METの舞台で実際に見て欲しいのではないかと思うのですが、舞台で見たら細かいところが確認できなくて欲求不満になるかもしれない。最初から、ライブビューイング用に作られているとしたら、完璧だと思うのですが。

 歌手たちは大健闘。ご存知の方もあると思いますが、今回は主役3人が事前に予告されたキャストからすべて入れ替わり、指揮も当所予定のレヴァインがスキャンダルで降板、だったのですが、見た方はそんなこと、どうでもよくなってしまったでしょう。とくに主役2人、トスカ役のヨンチェヴァとカヴァラドッシ役のグリゴーロは、これが初役!というのは全く驚異以外のなにものでもありません。2人とも、長年夢見てきた役だったらしく、役と作品への熱い思いを語っていました。とりわけグリゴーロの、13歳でパヴァロッティがカヴァラドッシを歌った「トスカ」で羊飼いの少年で出演、以来この役に憧れ、27年目で実現したというエピソードは印象的でした。イタリア男のグリゴーロ、ローマにも長年住んでいたようで、ほんとに憧れの、共感できる役だったよう。まあ、今、イタリア生まれのスターテノールで華があるタイプの筆頭ですね。
 グリゴーロもヨンチェヴァも、それぞれの役が「若く情熱的」ということで、演出のマクヴィガーと意見が一致したとのこと、のびのびと演じ、歌っていました。ヨンチェヴァのまっすぐでスピントな声が最初から最後まで保たれたのは驚異的。グリゴーロもいつにない緊張感。2人とも、「決め台詞(劇的な言葉=パローラ・シェニカ)が絶品だった。トスカの「いくら?」とか「死ね」とか。カヴァラドッシの「勝利だ!」とか。効きまくっていました。もちろん有名なアリアも熱唱でしたが。

 スカルピア役のルチッチ、悪役の表情が自然で憎々しく、演技巧者。インタビューで「役になりきるだけ」と言っていましたが、これはほかの2人も同じ意見。「トスカ」のように演劇的で、音楽がすべてを描いてくれていて、見る方も見ればわかる、という作品は、やる方も入りやすくてやりやすいのかもしれません。そのやりやすさにとらわれて「声」さえ壊さなければ。
  
 「トスカ」、19世紀の最後の年に作られたオペラですが、20世紀の映画の時代の幕を開けたオペラでもある、と、今回のプロダクションで改めて認識しました。

 あっ、それから、今回の案内役のメゾソプラノ、イザベル・レナードはとびきりの美女。スタイルもファッションセンスも抜群です。グリゴーロと「ウェルテル」で共演したとか、見たかったなあ。

 「トスカ」は今週金曜日まで、東劇ではもう1週間やっています。詳細は以下で。

 ​「トスカ」





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最終更新日  February 20, 2018 08:02:05 AM


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