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カテゴリ:たびごころ
彼女は何も思い出せないままだった
三日ほどで歩ける位にはなったけど 自分が誰で何処から来たのか 何処に行こうとしていたのか 赤ん坊の父親のことも 何も思い出せなかった 「その内思い出しますよ」父はそう言って 教会の物置にしていた部屋を片付け寝起きができるようにした 村人も誰も彼女を知る人はいなかった ちょっとした噂がひろまったけどそれも直ぐに止んだ 彼女はパンを焼くのがとても上手で 礼拝の後村人に振舞ったりする内徐々に溶け込んでいった ちょうど一年が過ぎようとしていた 僕が森で狼に出会った日 慌てて家に帰り着いた僕に彼女は言った 「今度一緒に森へ連れて行って」 僕は肩で息をしながら頷くと森の方を振り返った その冬は晴天が続き乾ききっていた 村人も心配していた 黒いけむりが森の奥の空に立ち上っていた バックグラウンドミュージック ラフマニノフピアノ協奏曲#2 エレーヌ グリモー クラウディオ アバド 付記 明日はオラも成人しちゃおうかな お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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