倒産法反復横跳び
破産法163条3項「前条第一項の規定は、破産者が租税等の請求権又は罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない。」 新法で新設された条文。この条文みると、どんだけ税金払っても偏頗否認にはなりませんよって読めるんですけど、そういうことでいいですか。新破産法では、租税債権の一部を優先的破産債権に落っことしてるから、破産手続の中では按分弁済しなきゃいけないはずなのに、特定の税金だけ納税しても(たとえば数年前から市民税と固定資産税を滞納してる場合に市民税だけ支払うとか)、この条文によれば否認されずに済んじゃうってことですよね。ここで、なんでわざわざ税金間の不公平をあげたかというと、今話題の税金(公課ですか)の未納率をさげろとかなんとかって問題に、なにげに乗っかってみただけ。同じ自治体の中でも、担当課間で未納率競争とかないんですか。(優先)破産債権者間の公平をかるーく壊しちゃうこの条文、優先債権に一部格下げさせられた税金の怨念なんだか、すでに納められた税金を破産法ごときに取り戻されてたまるかっていう徴収者側のプライドなんだか。民事再生法の似たような条文(128条3項)では、「前条第一項の規定は、再生債務者が再生手続開始前の罰金等につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない。」 て感じで税金は入っていなくって、おそらく税金が一般優先債権にすぎないからじゃないかと思うんだけども、これとの整合性はどうなのさ。ちなみに会社更生法87条3項ではこんな感じ。「前条第一項の規定は、更生会社が租税等の請求権又は第百四十二条第二号に規定する更生手続開始前の罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない。」破産法と同じく税金が入ってますね。 で、このあたりのことを知りたくて破産法やら何やらの本をあれこれあたってみたのですが、ちゃんと書いてあるものがありませんでした。163条1項、2項(手形がらみのやつ)までは、旧法でもあったせいか一通り説明があるのですが、3項のことは全く触れてないか、条文を引き写しているだけ。たとえば、伊藤眞先生の教科書『破産法第4版補訂版』では見つかりませんでした。加藤哲夫先生の教科書『破産法第4版』では1項、2項の説明の最後につけたしのごとく括弧書きで3項のことがふれてあるだけで、しかも租税とかの場合は否認できるって条文とは逆の結論が書いてあるんですが。なんで?163条の見出しに悪意を感じる。倒産法分野でも、紋谷暢男先生の『知的財産権法概論』みたいに倒産法制を横断的に論じた本がないかしらね。かつて谷口安平『倒産処理法』がそういう本だったようですが、類書は最近出てないみたい。