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カテゴリ:青年マンガ他
読み終わって記録し忘れていた非少女漫画3冊。
『聖★おにいさん(5)』中村光 自分のなかではちょっとにマンネリになってきた。最初の1,2巻の、2人だけで面白かった頃が懐かしい。でも立川ですっかり地に足がついた聖人の生活は、変化に乏しくて多分もうネタ切れなのかも。だからお弟子さんたちをたくさん登場させたのね。 ジーザス側の天上界の人(じゃないけど)たちは、名前や役割になじみがあるけど、シッダールタの弟子たちはあまり知らないので、相変わらずよく調べて描いてるなあと、ところどころ笑える。モブで登場するより、ピンで登場して聖人二人に絡むほうが面白いと思うんだけどなあ。冒頭、アーナンダー(天界の経理担当)が、「お盆のナスとキュウリは経費で落としましょう」とか言ったり、ユダがカシオミニ持ったジェームズくんにそっくりだったり、ピンポイントでは笑えた。 中村さん、絵は決して達者じゃないので、登場人物が多くなると画面が込み入ってきて読みにくいわ(笑)。でも、真夜中にやっている「荒川アンダーザブリッジ」は密かにDVDに撮ってみているくらいにはファンなの。 『乙嫁語り(2)』森薫 待ってたよ2巻。相変わらずすごい書き込み。森さんとか、次に書く入江亜季さんとかは、絶対ペンとインクを捨てないで欲しい。このハンドドローイングならではの弾力のある生きた線が好きだ。 もうこれは何も言うことはない。このまま好きなように描いていってほしい。マンガで読む文化人類学というか比較文化論というか。相変わらず時代が特定できないんだけど(「ロシア軍」が出てきたけど、これは帝政だよね?)、今回はフィールドワークに訪れた西欧の研究者が出てきた。彼が語り部になって、われわれ読者や西欧的な文明史観とのインターフェイスになってくれそう。 森さん、「エマ」もそうだったけど、今回も、人権なんてなきに等しい時代(地域)の女性の生き方に光を当てていて、お見事というしかない。歴史からは無視されがちな女たちの日々の営みを描くというだけでも資料集めとか大変そうだけど(社会史のなかでも生活史ってほとんどまともに取り合げられていない)、それがまたシルクロードの遊牧民とかになると、女性に関する資料があるのかどうかすら怪しい。イスラム圏のように不自由さと引き換えに男性が女性を守ってくれるわけでもないらしいというはわかるけど、でも家のためには簡単に犠牲になるんだなあとか、ぼんやり考えながら読んだ。 今回も嫁入り時の「布支度」の伝統とか、幼い頃から何年もかけて意味のある刺繍を施したり(これは世界中にあるな。キルトとかもそうだ)、模様をいれた硬いパンを焼いたりと、ディテールをきっちり描き込んでいてめまいがする。知らないことだらけだ。こういう資料を残してくれた研究者たちと、それをペン一本で再現しようとしている森さんに感謝を捧げたい。 男子の風俗を見ると、襟が着物のように平面的に合わせのヘリを一周する上着を着ていて、これは中央アジア以東の形かな。モンゴルの上着と似ている。日本の着物は独自に発達していて、背中心がある。モンゴルなど大陸あわせの上着は、正面から見ると着物そっくりだけど、背中心はないんだよね。織物の幅が違うのかも。おんなたちの装飾品なんかはユーラシア全体に見られる気がする。 女たちの風俗は独自に発達したんだろうけど、たくさんの重ね着とか頭部を覆う布とか、どうなってるんだろうと思う。弓矢で鹿くらいの動物も一発で仕留める腕があるのはわかるけど、あの動きにくそうな服装で、どうやってあれだけ大きな動物の腑分けをするんだろうかとか、ディテール好きの血が騒ぐわ。 『乱と灰色の世界(1)』入江亜季 高い評価を得ている「群青学舎」があまりフィットしなくて(独特なストーリー運びについていけなかった)、うーんどうしようと思ったけど、これはお試し読みして面白そうだったので、書店で探してもらった。 作品名も作者名も忘れていたので、コミック売り場のスタッフさんに「群青学舎の人の最新刊」とだけ伝えたのに、ちゃんと出してきた。でも最新刊の割には、去年の11月発行だったよ。 入江さんの作品は絵もストーリーも壮大なイマジネーションの賜物だ。ちょっと日本人的な箱庭思想では思いつかないようなスケール。今回も、古今東西の御伽噺のモチーフを借用はしていても、どうしてこれとこれが組み合わさる? なんでこんなこと思いつくの?ってほどイマジネーションが自由奔放。 言ってみれば「奥様は魔女」の世界なんだけどね。お父さんは日本人、お母さんは魔女(これが絵に描いたようなヨーロッパの魔女スタイル)、娘は特定のスニーカーを履くと、いきなり成長した美女になっちゃう(これはメルモちゃんだな)。にいちゃんは巨大な狼になっちゃう。魔女のお母さんに仕える3人の魔女とか(マクベスかはたまたコメディ映画のトリオものか)、とにかくはちゃめちゃだ。でも痛快。 入江さんは、とにかくその自由な線がすばらしい。ゲーム系の漫画家さんとか、端正な線を描く人は増えたけど、一気描きっていまは少年誌でも減っていると思うんだよね。描きこみのすごさと省略の大胆さもすばらしい。 【追記】タイトルが一文字欠けていたので修正しといた。ついでに「乙嫁」の1巻を読み返したら、フィールドワークの学者は最初からいたし、時代は19世紀のカスピ海周辺、とあった。何にも覚えていないのね、自分。アミルは兎の皮を上手に剥いでいたし、今のところ主軸のストーリーは実家の男たちによるアミル奪還なんだということがわかった。「奪われた花嫁」というのも、世界中どこにでもあるモチーフだな。神話素なのかな。そして2巻の白眉は、アミルが発情しちゃうところだ。あんなふうにもよおすものかな、女って(あまりに昔のことで記憶がない)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.06.21 21:58:33
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