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カテゴリ:落雷疾風記
「おいクローヴィス、どうしたんだいきなり。何かショックなことでも思い出したのか?」
ジンが心配そうに僕の肩を軽く叩いた。 「あ、ううん、いやなんでもないよ。ただ・・・・・・」 「ただ?」 「ヴァンスさんの口調がディヴァル島の話になると、突然『~だな』とか、敵の陣地の話にもかかわらずなぜかにやけてたり、とにかく変だったんだ。」 ジンは膝を立てて地べたに座り込み、ベルティナの生き残りゲームの参加商品だったピアスをポケットから取り出し、耳に装着した。 「クローヴィス、このピアスにはめ込まれている物、なんだか分かるか?」 いきなりの質問に、僕は途惑(とまど)った。少し濁った様な石の様だが、ジンが何もしなくても少し揺れているので、軽い物に違いない。 「え・・・・・・精霊石か何か?」 「いや・・・・・・これは・・・・・・」 ジンは下唇を噛締め、頭を少し掻(か)いた。 「・・・・・・『歯』だ。」 僕は息詰まった。ピアスに歯を使うなんて、聞いた事も無かったからだ。 「だが安心しな。これはライトエルフやロリヤック、ラレスやニクス、ニクセの物じゃない。・・・・・・『デーモンの歯』だ。だが問題はここから。この歯を、このデーモンの歯を、あの商人がどうやってこの歯を手に入れたが問題なんだ・・・・・・。」 僕はジンの隣に座り込み話を聞き始めた。 「デーモンはフェイギル島に住んでいたといわれるが、ここ最近、どこかへ移住したか絶滅したかで姿を消したらしい。もしかしたら近くにいるかもしれないし、埋葬されたのかもしれな・・・・・・」 「ジン!エージニア渓谷に行こう!あそこなら何か手がかりがあるかもしれない!」 僕はジンの手を引っ張ると、即座に家へ戻った。 「母さん!これからちょっと用事で、エージニア渓谷まで行ってくるよ。だから父さんの馬車を・・・・・・」 ミルイは完全に拗(す)ねて、怒りを飛ばした。 「クローヴィス!さっきは呼んだのに無視するし、おまけにあの危険な谷に行ってくるですってぇ~?!」 (ジン!やばい!逃げよう!) 「いい加減にしなさい!」 怒りという銃で頭を貫かれた。これはダメージが大きい。僕達はナパイヤー家に逃(のが)れた。 「ねぇジン、夜中に行ってみないかい?」 「おいおいクローヴィス、そいつはやめといたほうがいいぜ。あそこには落とされた奴らが持っていた精霊が、晩になると現れると聞いたことがあるぞ。 今回は珍しく僕とジンとの立場が逆になっていた。 「いや、その精霊達に話してみるってのはどうだい?」 「ハァ・・・・・・言ってる意味分かるか?悪質な奴らの墓場なんだから、たいてい居ると考えれるのは変な精霊ばかりだ。ジャルースさんの精霊は『盗霊』とか言うらしいけど、あぁいう精霊は悪質な奴らばかりだ。あの精霊は偶々(たまたま)善意だったからよかったとしても、もしかしたら大切な物を盗まれるかもしれないぞ?・・・・・・『仲間』とかな。」 僕はその『仲間』という言葉が胸に残りっぱなしだった。僕はジンに断りを入れると、僕は家に戻った。もちろん、ミルイやセルヴォイにはこっ酷(ぴど)く叱られたが、これでよかったのだろう。 30分の説教後、自分の部屋に戻った僕は、机の引き出しに置いてあったデーモンの歯で作られたピアスを取り出し、それを装着した。 (そういえばヴァンスさんはどこで寝泊りをしているんだろう・・・・・・。今度会った時に聞いてみよう。) そう思いながらピアスを弄(いじ)っていると、ドアのベルが鳴った。 「クローヴィス!いるかい?ちょっと来てくれ。」 ジンだった。僕は階段を飛び降り、外に出てドアを閉めた。 「クローヴィス、エージニア渓谷に行こう。ここからはそう遠くないはずだ。今すぐ馬車を出さないと、帰ってこれるのは明日になるかもしれないぞ。さぁ早く!」 「え・・・・・・でも馬車はどこに・・・・・・?」 「俺の家の馬車を走らせる。だから早く来い!・・・・・・あ、そうだ。そこに少し書き留めておきなよ。何も知らせずに行ったらさすがにヤバイからな。」 僕は「最低でも明日には帰ります。クローヴィス」とだけ書き、郵便受けの中に入れた。そして、ナパイヤー家の裏に走った。 裏には馬につなぐ車があった。人は車の中から精霊石を取り出し、馬型の精霊を召喚した。 「さぁクローヴィス!早く乗れ!気付かれないうちに!」 僕は馬車に駆け込むと、ジンは何も言わずに精霊に指令を出した。 精霊は音も無しに走り出すと、聞こえるのは風を切る音だけ。耳に着けたピアスが激しく揺れ、風で髪が靡(なび)く。 その時、心の底からヴァルスィンの声が。 「行けば悲しきことが起きる。私はそう感じる・・・・・・」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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