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カテゴリ:ファンタジー日記
海えとなだらかな曲線の丘を、秋の風が登ってくる。風の来る方向を追っていくと、教会を核に小さくまとまった街の中心部から、扇状にオレンジ色の屋根が、外に行くほどまばらになりながら広範囲に広がっている。さらに風の発生源へと目を向けると、ビビットな赤や青に塗られたきれいな船が数艘、漁船の群れと並んでいるそのむこうに、これもまたビビットな青の海と空が広がり、真っ白い複雑な造形の雲とで強烈なコントラストを描いている。
街の名前はクア。この国ではけして大きいほうではないが、漁業、農業がともに盛んで、中部ではもっとも豊かな町のひとつ。歴史は新しく、築150年という教会がこの町で最初の建物で、ほとんどの住民が南部からの移住者だ。だから文化もどこか陽気な南部の文化そのもので、まもなく南部では恒例の年中行事、秋の奉花際が始まろうとしている。街全体でどこかウキウキした気分を漂わせている。 奉花際は春と秋、年二回行われる。もともとは花の栽培が盛んな南部のある村が発祥といわれいるけど、実のところはよくわからない。もう数百年も続いているといわれている。でも気候が南部と違う中部や北部で行われることはほとんどない。だからクアで行われるこの陽気な祭りを一目見ようと、祭りの当日は近隣の町や村ばかりでなく、遠く北部からも見物にやってくる人がいて、大変な賑わいになる。港のキレイな船はどこかの貴族が早々とやってきたものらしい。 クアの街を丘の上の古びた石垣の傍らから眺めるように、ひとりの少女が立っている。石垣の上の異様な形の構造物は、この街の教会よりも古くからあるらしい。一本の筒が突き出るような形をしているので、街の人たちは丘の砲台と呼んでいる。その少女・・・一見して小柄なので少女と言ったが、もしかするとすでに大人なのかもしれない。よく年齢のわからない風貌をしている。2~3センチくらいまで短くカットしたくせ毛はほぼ真っ白。左の耳には赤いリボンの形をしたピアス。少女らしい澄んでいるが、見ようによっては老婆のように深い色彩のかげりの瞳。先ほどからほとんど動くことのない表情・・・。実際は二十歳を越えているのかもしれない。もしかするともっと上かもしれない。そう見るものに思わせるのは、彼女の服装のせいもある。その微妙に赤みがかった灰色のマントは、確か北部の武術一門の旅姿で、一門でも免許皆伝の者にしか与えられないと言われているものに似ている。もし彼女が免許皆伝者なら、いくらなんでも12~3歳と言うことはないだろう。 古びた石垣の一部に思えた影がごそりと動いたかと思うと、一人の老人が姿を現した。やれやれ、思ったとおりじゃ、と風に飛ばすようにはき捨てると、大きく背伸びをして、困ったもんじゃと、今度はかぜを吹き飛ばすように言った。その間も彼女の表情は全く動かない。もしかすると老人には気づいていないのだろうか。見ている人がいたらそう思ったにちがいない。それくらい間があいて彼女は、老人がばつが悪そうに何か言いかけようとしたのを止めるように、出来るだけのことはしましょう、と同じ表情で、でもはっきりとよく通る声で言った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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