亜州の星次郎 中東で泣く
お控えなすって! お控えなすって!早速、お控えなすって、ありがとさんでござんす!あっしは、渡世人、亜州の星次郎と申しやす。久しぶりでござんす。30万石の藩士でありやしたが、とある事件を契機に、脱藩し、放浪の旅に出たのでございます。脱藩してから、早や、2年弱となりやした。四国お遍路の旅に出て以来、諸国放浪、秦国、緬甸、ラオス、馬来西亜、こう言った国々を彷徨い歩いたのでござんす。その後でござんすか?へい! シナに渡り、シナ語を習っていたのでございます。勉学もいいものよ、と思っていた所、とある藩が秘密裏に、脱藩者を集めた仕事があるってんで、密使がシナまで来たんでさーな。それで、密航船にのって、とんでもねー、遠くまで来てしまいやした。まぁ、ここが、ひでーところでござんして、なんたってー、渡世人にかかせねー、酒がねーんでござんす。おまけに、べっぴんさんどころか、全く女ってー、生き物がいねーんでござんす。ったく、地獄たぁー、こんな所でござんしょうか?沙特阿拉伯と言う国でござんしてな、何でも、仏教とは全く違う、宗教らしく、着る物も全く違うし、豚も食わねーんでございやす。毎日、5回、何やら、念仏みてーなのを唱えて、同じ方向向いて、拝んでおりやす。信心深いのでござんすな。何が楽しみか? って?そんなもの、楽しみがこんな所にある訳、ござんせん!素人衆の旦那さんに、姉さん、信じられないでしょうが、夏の暑い時は、鍋に水入れて、外に出しときゃー、お湯になってしまうくれー、暑いのでござんす。木なんて、一本も生えねー、針のような葉っぱを持った、草がかろうじて砂漠の上に、這っているような状況でしてな、動物も、背中にコブのある、優しそうな顔したのが、いるくれーでござんす。何が楽しみか? って?だから、ねーと言ってるじゃーござんせんか! いや、待ってくだせー・・・いや、たまに、隣にある島国の巴林(バハレーン)って所へ行くのが楽しみで、ござんした。 そこまで行けば、食い物も、あっしの故郷で食ったのと同じような物が食えるのでございます。そこの、一膳飯屋の娘が、いいー娘でしてなー。べっぴんさんとは言えねーまでも、気立てが良いんでござんす。いつもいつも、ニコニコしておりやしてな、泰国ってー、遠い国から出稼ぎに来ているのでござんす。その顔を見てると、ホッとしやす。娘さん、きっと、貧しい境遇なんでござんしょう。しかし、そんな素振りも、全く見せず、しっかりした娘さんなんでござんす。何度か、通う内に、酒の力にも借りて、少しづつ話もするようになりましてな、何て言えば、良いんでござんしょう、心ってー、奴が触れ合ってるような、気になっちまったんでござんす。そんな事で、巴林へ行くのが、唯一の楽しみだったのでござんすが、突然、泰国へ帰る事になっちまったのでござんす。まったく、つれー話じゃーござんせんか!次は、泰国で会おうと言っちゃーくれやしたが、会えるかそうかなんてわかりゃーしません。しかしですな、こっちには、照片と言う便利なものがありましてな、会っているのと同じような物があるのでござんす。ぶったまげましたな。お見せしやしょう。娘さんのなめーは、アッチャラーと言う変な名前でござんす。どうでござんしょう? 優しい顔立ちじゃーござんせんか?もう一枚、照片を、お見せしやしょう。アッチャラー、あっしとも「一緒に撮りたいわ」、とか、可愛いことを言うのでございやす。あっしも、化粧して、並びやした。化粧したら、何だか、のっぺりした顔って言うか、お面被ってるみてーになってしめーやした。初めて、娘の手に触れましたが、柔らかくて、あったけー、手でござんした。そして、腰ってんでござんすか? そこにも手を触れさしてくれやした。何とも言えねー、柔らかさと、張りがありやしてな、たまんねーでござんす。今でも、この手が、しっかり覚えておりやす。今頃、泰国のどこにいるのやら?おとっつぁんや、おっかさんの元へは、帰れねーと言っていたので、また、どっかで、働いているのでござんしょう。別れってー奴は、何とも言えねー、物悲しいもんですな。