可愛さで20%勝って、映画で200%負けた ~ジージャー「チョコレート・ファイター」と武田梨奈「ハイキック・ガール」
話題のタイ制アクション「チョコレートファイター」を観てきた。・・・すごかった。アクション・エンターティメントとして純粋に面白かった。かつてのジャッキー・チェンの映画を彷彿とさせるスピーディな攻防は、最近では「マッハ!」シリーズでしか見ない。主演の「ジージャー(Jeeja:ヴァイオリンの意味)」ことヤーニン・ウィサミタナン(25)のアクションは本物中の本物!格闘技や武道をある程度やった人なら、その役者が本物かどうか分かるはず。ジージャーは身長162cm、体重46kgの細身。子供の頃から格闘技をはじめ、高校生の時テコンドーでタイ国際強化選手となる。高校に通いながら、テコンドー教室のインストラクターをやっていたが、在学中に父親が死亡。インストラクター代だけでは賄えない生活費を得るため、アクション女優になろうと決意。18歳のとき「マッハ!」のオーディションを受けたところをプラッチャヤー監督に見初められた。プラッチャヤー監督は彼女による彼女のためだけの映画を構想。同時にジージャーは作品のため「4年間」のトレーニングをしたという。テコンドーのトップ選手をたった一本の映画のためにさらに4年鍛える!?・・・すごい執念だ!!ジージャーは1984年生まれの25歳という年齢にびっくりするほど童顔だ。作中設定はたぶん15、6歳ではないだろうか?例えて言えば、安達祐実と池脇千鶴をミックスして、凛々しさを増したような日本人っぽいルックス。ちなみに劇中では日本人(阿部寛!)とタイ女性のハーフという設定。 かたや日本映画界が久々に放った純アクションエンターテイメント「ハイキック・ガール」がんばったとは思う。だが、映画としては惜しかった!運が悪かったと言ってもいいだろう。なにより最悪なのが、5月末という公開時期が完全に「チョコレート」とカブってしまったこと!だが、主演の武田梨奈(16)のアクションも間違いなく本物。 武田梨奈は身長157cm、体重非公開だがB75・W57・H82cmはかなり細身。過去にモーニング娘。オーディションで久住小春に敗れて落ちたことばかりが注目されるが、彼女の本物の空手レベル(少なくとも永井大よりははるかに上)は特筆に値する。この2人、ルックスは・・・日本人の私から見たら武田梨奈がジージャーに少し勝っている。(このあたりは好みのお話)だが、アクション、技の見栄え、バリュエーションのレベルでは正直にジージャーが上。格闘技をやっている人なら、予告編をYouTUBEで観た段階で差が分かるだろう。ただ、武田梨奈を弁護するわけではないが、武田梨奈はもともと「アイドル」だ。タレント事務所の制約があって、アクションの足かせになったのかもしれない。そして日本人としてはちょっと悔しいが・・・映画では完全に負けた。両作ともストーリーはあくまで脇とにかく売りは完全にアクションの純エンターテイメント作品。そして、私の目には「チョコレート・ファイター」の方が「ハイキック・ガール」より楽しめて面白かった。どっかの新聞の映画評論をパクって採点すると・チョコレート・ファイター ¥1500・ハイキック・ガール ¥700という所だろうか。だが、確かにジージャーはアクション女優として武田梨奈より上だったが、ジージャーと武田梨奈の差だけが映画の差だとは思わない。とにかく「チョコレート・ファイター」は、敵のやられ役の人々がすごすぎる。映画を観ていて、逆にそっちに注目してしまうほどだ。彼らはプロ中のプロだ! すごい!ジージャーと同じくらい拍手する。かなりの技量と演技力の持ち主が揃っている。「ハイキック・ガール」も元渋谷ギャルのキックボクサー・渡辺久江や「空手萌え」こと小林由佳など、バリバリの現役格闘家を起用しているが、残念ながら彼女たちは役者ではない。優れたパフォーマンスはできても、いい「やられ役」を期待するのは酷だ。実際、武田梨奈vs小林由佳のシーンでは、小林由佳が武田梨奈に合わせるため、抑えているのが分かる。武田梨奈vs小林由佳もともと小林由佳はフルコンの選手、コンビネーションや技の回転が速いのが持ち味。対して武田梨奈は防具空手、技の回転より一つ一つの技の正確さを重視する。同じ中段回し蹴りの応報をするにしても、初動も脚速も小林由佳の方が少し速い。分かりにくい人は、蹴り脚の戻しの速さの差、蹴りに入るモーションの速さに注目。ここまで差が見えると・・・たぶん普通の人が見ても分かるかもしれない。でも、そういうのが見えたら「映画」はダメだと思う。あくまで武田梨奈が輝かなくてはいけないのだ。2作を観て、時代劇が衰退したのは「いい切られ役が少なくなったから」だとある老監督が嘆いていた意味が(時代劇に興味がない自分でも)よく分かった。たぶん、チョコレート・ファイターとハイキック・ガールを両方観た人は、この意見に納得するだろう。アクション作品では主役より、むしろ「やられ役」が鍵だったのだ。いいアクション(時代劇)作品のやられ役は・敵意むき出しで主役に襲いかかる(様な演技ができる)・倒され方は実に見事で、説得力がある・主役の技量を大きく見せることができる・主役にミスがあっても、演技力と技術力で全力カバーする・自分がケガしてでも、主役は絶対にケガさせない・やられた後のフェードアウトが速くて自然チョコレートファイターの敵役は、これらをほぼ全て備えていた。やりきっていた。だが、ハイキック・ガールの敵役は・・・残念ながらレベルがまちまちだった。日本映画界にはそういったプロのやられ役が少ないようだ。アクション映画の敵役は、往々にして主人公以上の技量と演技力を求められるのだ。武田梨奈にチョコレートファイターの敵役をキャスティングすることが出来たら・・・きっともう2段階上のアクション映画が出来ただろう。逆にジージャーが「ハイキック・ガール」の主役だったら、これほど話題にはならなかっただろう。「映画はみんなで作るもの」と誰もが言う。確かにその通りだ。その通りだからこそ、日本アクション作品の限界を感じる。もともとアクション女優を目指して、女子プロレスの門を叩いた桜花由美は言った。「アクション女優では主役になれない」考えた結果、彼女はスクリーンの主役でなく、リングの主役を目指すことにした。美人レスラーとして有名になり、写真集やDVDも売れている。女優の仕事もしている。なるほど、桜花由美は正しい。つくづく日本映画界の(たとえば北村龍平レベルの)アクション認識には、そもそも限界をはらんでいるのだと思う。「やられ役」は脇役、バイプレーヤーなどではない。そこを分かっていない北村龍平が、大きなオファー(たとえば「あずみ」や「ゴジラ Final Wars」)でコケるのは必然の成り行き。やられ役はことアクション映画に関してはまさに大黒柱といっていい。ジャッキー・チェンもジージャーも、優れた相手がいてこそ映えたのだ。プロ魂あふれる彼らは、主役が元格闘家でも、ちょっと練習しただけの素人でも同じように吹っ飛んでみせる。時代劇の衰退、そして日本アクション映画の壁は「やられ役」という日陰の大黒柱を正当に評価してこなかった結果だ。武田梨奈もジージャーも体重40Kg代の華奢な「本物」のアクション女優だ。武田梨奈やジージャーの軽量級のスピードをさらに速く見せる。技の威力をヘビー級とは言わないまでもライト級ぐらいの「迫力」で見せる。それがファンタジーの実写化・・・映画というものだろう。「チョコレート・ファイター」は監督の執念、主演とやられ役の質でそれをクリアした。「ハイキック・ガール」はそれに遠く及ばなかった。日・タイ、2つの映画の差はそういう事だと思う。ジージャーの次作(次作のために金髪にしているらしい)と、武田梨奈の今後に注目したい。