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カテゴリ: *サイバーフェイズ制作
英田サキさん原作の、『エス-残光-』を聴きました。
『エス』『エス-咬痕-』『エス-裂罅-』と続いた物語も、とうとう最終幕です。 さまざまな感慨と共に、じっくり聴き入りました… ドラマCDとしての‘裂罅’が、原作の‘残光’の冒頭までを含んでいた為、五堂の別荘での監禁から始まります。 椎葉の追い詰められた心情が、神谷浩史さんの押し殺した音色を得て、ますます胸苦しく迫ってきます。五堂の、獲物に対する容赦の無さと、その苛烈なまでの効果を改めて感じました。 たとえば、ここで椎葉にとって宗近の存在が原作ほどの意味が無かったとしたら、監禁後の椎葉の精神状態は違うものになっていたかもしれません。 そうなった場合、五堂にとってそんな椎葉は意味があるのか、それとも既に無用のモノに成り下がってしまうのか、そんな事をつい考えてしまいました。 それはやはり、成田剣さんによる五堂の、実に特異な存在感が感じさせたものでした。 成田さんであったからこその五堂であり、既に成田さん以外の五堂は想像ができません。本当に、この配役には感謝しかありません。 静かに淡々と抑えられた表現でありながら、否応無く迫ってくる狂気にひたひたと侵食されていくようで、でもそれは単純な恐怖感や嫌悪感とは違い、やはり魅惑という言葉が実は一番近いように思います。 でも、五堂の内なる真闇が放つ芳香に誘われる蝶は多いものの、その中に居られるのはやはり五堂ただ一人だという事を、つくづく感じました。 己の過去を語る五堂の、ただ一人で在る様には、もはや孤独や寂寥などはないのです。それは、勝手に他人が感じる事で、五堂には全く意味の無い感情です。 ただ独りで在れる事が、五堂の唯一の救いだったかもしれません。 だから反対に、紀里の妊娠を知らずに逝った事は、五堂にとっては汚点を残した事になるのだろうと思います。 東明が自邸に椎葉を連れて戻り、強引にピアスを施す場面を聴いていて、やっぱり東明は悔しかったんだなぁと感じました。 兄の事を惑わす椎葉に対して嫉妬していたのと同時に、弟の自分ではなく椎葉に愛情を抱いている兄に対して悔しくて、それで兄の持ち物にキズを刻んでしまうのです。 でも、ここで最も劣悪な手段ではなく、耳へのピアスというあたりが、東明の心根を良く表していると思います。 近藤孝行さんによって、東明の内面が改めて伝わってきて、ただの愚か者ではなく彼もまた苦しんでそして成長している青年だという事を感じさせて戴きました。 だから、その後の宗近登場の場面で、私はちょっと東明が可哀想になりました… 未だ銃傷が癒えぬ身でありながら、宗近は椎葉の元へ駆けつけました。 真っ直ぐに目の前へ現れ、その視線に射すくめられた椎葉には、もう迷う間もなかったでしょう。 この、小西克幸さんの登場場面には、一瞬で鮮やかな画が浮かんで、聴き惚れてしまいました。 宗近の存在感、宗近の包容力、そして宗近の想いが、真っ直ぐに飛び込んでくるのですが、つくづく宗近が小西さんであった事の幸せを実感しました。 この場面で、宗近は椎葉しか見ていません。椎葉の無事を自分で確認する事こそが、宗近の目的であって、他は全て瑣末なものに過ぎないとすら感じさせる勢いです。 つまり、椎葉の存在を確認するまで、東明の存在は無と同然なのです。それを、東明も痛感したでしょう。 ここでの東明の絶望は、その後、兄によって改めて弟としての存在の揺るぎなさを実感させられて、そして東明の想いは成就するのです。 三木眞一郎さんの巧みさを、もう改めて言う必要などないのですが、やはり今回も篠塚の存在感には、ただただ唸るしかありません。 登場場面としてはたった一つであるのに、一瞬で空気の色を染めて、篠塚が支配する場面に変化させてしまいます。 やはり、「…とうとう、あの男の息の根を止める時がきたらしい」の、極抑えた中に込められた意志の強靭さに、篠塚の本性を突きつけられました。 椎葉に向ける言葉にはやはり真実の想いが込められていて、義兄の義弟に寄せる揺るぎない情愛を改めて感じたのですが、もう一ヶ所、私には何となく篠塚の本音のようなものが感じられたのが、宗近に向って言う「さて、君の話を聞かせてもらおう」でした。 それまでの音色とはガラリと変るもので、もちろん話の展開から真剣で厳しいものになるのは当然なのですが、その中に、「君には、何が出来るのか…」と値踏みをしているようなものを感じてしまったのです。 篠塚は、宗近の本気を計り、その男としての本質を見抜こうとしていたのではないかと… 神谷浩史さんの椎葉に対して、改めて言及する必要はないと思います。 一つ一つの場面、一つ一つの台詞に、神谷さんの椎葉に対する想いを感じ、ただひたすら聴き入るばかりでした。 丁寧に、真摯に、椎葉昌紀という人間を描き切って下さったと思います。 こうして『エス』という物語の終焉まで、神谷さんによる椎葉を聴き切る事ができて、本当に幸せでした。 感謝しています。 もちろん、正直なところ、我が侭を言いたい部分も在る事は確かです。 でも、英田サキさんの原作による『エス』を、十全に理解した制作と出演の方々によって完成したものを拝聴させて戴くと、もはや言うべき必要はないと思えます。 英田さんも、CD化する為にはどうしても制約があり、カットされた場面や入れたい台詞について、毎回強い葛藤があったと仰っています。 だから、もう、瑣末な事は言うまいと思うのです。あとは、自分の中で想像すれば良いのだし。 今は、『エス』の無事終焉に感謝して、そして一抹の淋しさと共に余韻に浸っているところです。 幸いな事に、‘シリーズ完結記念オリジナルCD’というカーテンコールが用意されています。 もう一度、彼らに逢えるのです… 『エス-残光-』 2007年11月 サイバーフェイズ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.11.28 16:17:57
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