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優樹瞳夢の小説連載部屋

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2008年04月12日
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カテゴリ:小説
第1話はこちら

Red Vapors #49 ラスト・イグザミネーション(2)

  02

 ドラゴンを駆り、宙を翔る。
 白み始めた空と、はるか眼下に大地と海。地上にはない匂い。
 遠影しかない景色をちらりと見やり、大気を踏みしめて羽ばたく。
『バン!』
 翼の羽ばたく音が、痛いほど耳に響いた。

 対するは、まさに私設軍とでも言おうか。十数匹以上からなる連隊。
「ガアアアアアアアアアアアア!」
 遠くどこまでも届きそうな咆哮をあげ、1匹のドラゴンがまっすぐ突っ込んでくる。

 2018年4月1日、午前5時32分。
 北海道小樽湾上空800メートル空域。
 戦闘開始――。

『ドン! ……ドン!』
 ほぼ真正面からの竜弾砲撃!
 だがアキラはそれを最低限の旋回飛行で避け、仕かける!
「……ふんっ!」
 気合一閃!
 燃える弾丸が髪をかすめ、先端がちりりと燃えた。構わず身体を返して前後逆さまになり、すれ違いざまに鉤爪を振り下ろす!
“Quarter roll and 180゚ stall drift for scratching attack”
『ガガガガガガガガガガ……!』
 凄まじい敵ドラゴンの悲鳴とともに、皮膚が、首から腹にかけて盛大に裂ける!
「ギャアアアアアア!」

「よっしゃ!」
 そのとき、攻撃が効いたことに、アキラは歓喜した。
 過去に戦ったドラゴン達は、皮膚がいずれも軍事用並に硬く、今までは引っ掻いたくらいでは傷もつかなかったのだ。
「こちらアキラ! ブレードが効いてる! 互角に戦えるぜ!」
 捕縛したサンプルから、その硬さの秘密が細胞壁に珪素を含むためであることが分かり、自分らのドラゴンの爪にあらかじめ金属ブレードを装着しておいたのだ。
「うっし! でかしたアキラ!」
 コウも声を上げる。その直後に1匹片付けたようだ。

「簡単に落っことさないで! 地上に人がいるのよ!」
 キヨラの怒鳴り声。
「ちゃんと意識してる! 大丈夫!」
 アキラはいい加減に返事した。
 無論、今自分らが行っているのは、戦うための戦いではなく、オタルの自宅を強制捜査するために特攻してるんであり、最悪逃げればいいのだが、それでも敵に手も足も出ないのは気分が悪い。
 アキラは自分達に先手ムードが流れることを期待した。

 が――。
「ぐわっ!」
 その直後、誰か味方の悲鳴が聞こえた。
 見ると、後輩のドラゴンが片翼をもがれて落ちていくところだった!
「大丈夫か!?」
「すす、すいません先輩、脱出ッス!」
 直後にライダーは、それを見捨ててパラシュートを開く。
 捨てられた方は最後まで空中でもがいていたものの、けっきょく森林に突っ込んだ。

「くっ……」
 残念ながら、攻撃が効くというだけでこちらの優勢にはならなかった。
 なんせライダーがまだ新人なのだ。
 そもそも、アキラとコウが20もそこそこの若さでチーフになれたのも、たまたま空中戦の経験があったからなのだ。それを例外とすれば、警察には現在、まともに戦える人材などいないのである。

「ドラゴンは俺とコウが引き付けとく! 他はとにかく敵の本拠地に向かえ!」
「はいっ!」
「了解!」
「コウ! キバれよ!」
「任しとけ!」
 ここは2人で頑張るしかない。

 アキラはとりあえず、自分の状況を見やった。
 前から3匹。後ろにも1匹。挟み撃ちのつもりなのだろう。
『ドン! ドドン!』
 ほぼ同時に竜弾を吐いた! だが今日はこちらにも武器がある!
『ダダダダダッ!』
 トリモチ・マシンガン!
 敵がワッと散る。
 と、うち1匹が、こちらが思った通り、上に逃げた!

 アキラはそれに狙いを付け、スナップアップして一気に上昇。
『ぶわん!』
 彼の駆るエスペランサは、イメージと数センチも違わぬ弧を描く!

 この正確さこそ、ピンピック手術を受けた恩恵である。声で命令せずとも、完全にドラゴンがこちらの手足のように動く。
 本当に自分自身がドラゴンになったような気がする。
「捕まえた!」
『ガッ!』
 そいつの両足首を掴み、抵抗する間も与えずはらわたを食いちぎる!
『ギギイッ!』
 歯は火花すら散らしてその硬い皮膚に食い込み、腸を引きずり出す。
 そしてその傷口へ砲撃!
『ダダダッ!』
 粘着弾でも、内臓に至近距離から撃てばかなりの威力になる。
「ガアアアアアア!」
 ドラゴンは断末魔とともに吹っ飛んで、そのまま海へ落ちた。

 ――次!
「行くぜ! エスペランサ!」
「…………」
 真上を向いた状態から羽ばたくのを止め、ドラゴンの背を体重で引っ張って反転。マーメイドダイブ! 大地がぐるんと回り、垂直降下!
 たまたまそこにいたドラゴンに、正面衝突に近い速度で突進。
 捕まえる……!
『ドシン!』
「キイイイイイイッ!」
 金切り声をあげる敵の翼を無理な方向へ曲げ、そこへ粘着弾を叩き込んだ。
『ダムッ!』
「ごりっ……!」
 着弾の衝撃で関節がおかしな向きに歪み、そいつはぐったりした。

 そしてそのドラゴンを、さらに別のドラゴンの方へ放り投げようと、アキラはエスペランサの身体を捻る。

 と――。
 そのときだった。

「キイイイイイイイイイッッ!」
 急にだった。
 エスペランサが突然金切り声を上げ、敵の身体を放り出して、バタバタとこちらの意図しない方向へ飛び始めたのである!
「……!?」
 全く予想外のことで、アキラは驚いた。

 そして――。

   ドンッッ!

 敵ドラゴンも予測してなかったのだろう。そのまま側面衝突。アキラは激しく揺さぶられた。
「ぐあっっ!」
 吹っ飛ぶ。

 吹っ飛んで、そして気づいた。
 ドラゴンというのは、たまに命令無視をするのが宿命みたいなものということ。
 アキラとエスペランサは現在、ピンピックによって脳同士が直接繋がっている。それによってドラゴンを完全に操るためだ。
 だが逆にドラゴンからしてみれば、これは自分の身体が好き勝手に操られてしまうということでもある。それは、通常の服従状態とは比較にならないほど、大きなストレスだろう。
 加え、こいつは後輩からの借り物で、彼とはまだ充分なコミュニケーションもとれていない赤の他人同士だ!

 それを思い出したときには、身体は数百メートル下の地面へ向け、すでに墜落し始めていた。

つづく

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最終更新日  2008年04月12日 23時08分48秒
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