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優樹瞳夢の小説連載部屋

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2008年09月27日
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カテゴリ:小説
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うさぎ探偵! PROF.1 夏休みは殺人(9)

  09

 厳密にいえば、紋次郎が犯人の名を呼んだのは部屋が明るくなる直前だった。
「もうやめろ。宮島!」
 ――えっ!?
 だがその名に驚く前にもう、愛菜は自分自身の手が電灯のスイッチを入れ終えていて……。
 目の前に、まどかが立っていたのである。

 手に包丁を持って。
「…………」
 目を見開いて、少し震えて。

 そんな彼女に何と声をかけるべきか、本当に何も浮かばなかった。
 犯人が大津を殺しに来るのを待ち伏せて7時間。その間の疲れなど全部吹っ飛ぶショックだった。
 紋次郎が、犯人は彼女だと知っていたことも含めて。

 彼は数秒ほど次の言葉を考えたあと、
「小説とか漫画とかだと、ここらで推理ショーが始まるんだがな。俺はそういう悪趣味なことはしない。理由は分かるな? 宮島。……いや、まどか」
「…………」
 もちろん今の愛菜には分かった。
 おまえが犯人だと、みんなの前で暴露される。これほど屈辱的なこともない。相手の精神状態によってはその場で自殺してもおかしくない。そんなことをして正義漢ぶって悦に入るなど、悪趣味以外の何だろうか。

 とはいえ、次にまどかが呟いた言葉は、紋次郎の配慮に対する感謝などでは、もちろん決してなかったわけだが。
「なんで……なんでよ! もう少しだったのに……!」
 彼女はようやく声を絞り出し、がっくりとうなだれたのである。

「なんでっておまえ、大津には加納殺しは不可能だったからさ。
 あいつの死亡推定時刻は、遺体の状態や状況を総合的に考えて、部員の1人と最後に会話を交わした午後6時半から、オーナーの奥さんが悲鳴をあげる8時くらいまでの間。つまり宴会中だ。食事中に1度もトイレに立っていない大津には、時間的に犯行は無理なんだ。俺のこの耳を1本賭けてもいい」
 紋次郎は、自慢のその長い耳を指した。

 だが、愛菜には1つ合点がいかないことがあった。
「で、でもなんで最初からまどかって分かったの?」
 彼が『宮島!』と叫んだのは、明かりがつく数瞬前だ。

「ああ、それは『ごぶりん』って奴を最初に見た時点から、ずっと分かっていた」
「……!?」
 それを聞いて、まどかはギョッとした顔をした。

「愛菜、例の書き込み見せてみ」
「え? あ、うん」
 愛菜は自分の携帯の画面に、例の書き込みを表示させた。

  Re:うちの学校にさ at ごぶりん 2008/07/23 01:23:56
  加納の奴 チョーパーうぜえ
  1年のクセにエース狙ってんじゃねえよ
  先輩は俺の嫁だっつーの!

  Re:うちの学校にさ at 蓬餅 2008/07/23 01:24:21
  あはは。じゃあ、いっそヤっちゃう?

  Re:うちの学校にさ at ごぶりん 2008/07/23 01:26:03
  いいよもう
  やっちゃってよ!

「2~3年生は男しかいないわけだから、『テニス部の先輩』に当たる人物は男だ。加えて『俺の嫁』ってのは嫁にしてもいいくらい好きって意味だから、『ごぶりんはホモか女か』のどっちか。俺が調べた限りではテニス部にホモキャラはいなかったから、犯人は彼女で7割方決まりだったんだ」
「どうしてよ。男の子同士でも『俺の嫁』とか言い合ったりするわよ」
「そりゃ冗談の範囲でだろ? ここまで激しく堂々と訴えるようなのは、カミングアウト済みの真性ホモだと思う。女のおまえには理解できないかもしれないが、男ってのは本能的に男同士の同性愛を嫌悪するもんだからな。といっても、100%の確信じゃなかったけどさ」
 紋次郎は肩をすくめた。(たしかに、確信があるくらいなら、大津の命を狙わせてそれを待ち伏せる、なんて手の混んだ作戦は必要ないだろう)

 紋次郎はしばし、鼻をヒクヒクさせて何かを考え、
「……というわけだ。おまえは手口も『蓬餅』に比べてお粗末だし、ボロを出しすぎた。もうあきらめろ。ここで大津の口を封じても何にもならない。ナイフを振り降ろすより、愛菜が大声を上げる方がはるかに早いし、外には刑事さんにも待機してもらってる」
 彼女を説得するように、ゆっくりと言った。

「…………」
 まどかはしばし静かにうつむいて、ジッと考え込むように押し黙った。
 愛菜は、彼女がナイフを手放してくれればいいと信じた。

 が――。
「やっぱり嫌!」
 突然彼女が叫び声を上げ、こっちに襲いかかって来たのである!
「ま、まどか!」
 もう少しで刃がこちらをかすめるところだった。
 こちとら伊達に中型2輪を振り回してないが、相手だってスパルタ教育を受けたテニス部員である。スイングがかなり力強い。
「ちょ、ちょっとまどか!」
「嫌! 嫌よ! 死ぬのは嫌! 嫌!」
 彼女が叫ぶごとにナイフが宙を掻き、ともすれば当たりそう。
 その辺で待機中の刑事さんが来てくれることに期待はしたが、今から声を聞きつけてもたどり着くのに数十秒はかかる。そんなに長くは戦えない。

「何言ってんだこいつ!」
 紋次郎がまどかの腕に噛みついた。
「いたっ!」
 彼女はとっさにそれを振り払い、紋次郎は飛んで、背中から床に落ちる。
「ぐは!」
「まどか! 落ち着いて!」
 だが隙としては充分で、愛菜は一瞬の隙に背後に回り込んだ。

 とにかく身体でぶつかって彼女を押し倒す!
「ナイフだ! ナイフを奪え!」
 紋次郎の言葉で腕を踏みつける。ナイフが床を滑った。
「なんで、なんでよ! 死にたくない! 死刑は嫌! 助けて!」
 それでも必死に武器にすがろうとするまどか。
 上から胸を圧迫して取り押さえているが、言ってる意味も分からず、振りほどかれそうだ。

 と。
「死刑なんかなるかアホ!!!」
 全力で叫ぶ彼女以上に強い、紋次郎の怒声。

 耳元で叫ばれ、まどかはようやく抵抗しなくなった。

   ***

 ある程度は大人しくなったが、愛菜はまだ彼女を解放できなかった。
 一瞬の隙を突いて立ち上がろうとするのだ。

「どういうことなんだ? おまえを誰が死刑なんかにするんだ」
「何言ってるのよ! あたしのせいで加納が死んだんだから、死刑になるかもしれないじゃない!」
 ――やっぱりまどかが犯人なの?
 それを聞いて愛菜はそう思った。

 だがそうではなかった。
「は? いやだから! 加納殺しの実行犯はおまえじゃなくて蓬餅だろ? 大津と同じ理由で、おまえにゃ時間的に無理だからな。たしかに死体を隠したのはおまえだろう。でなきゃ、煮物の味醂で酔った振りして野外を徘徊した理由がないからな。でもおまえは最初のうち、愛菜達をからかうために酔って見せてただけだから、常識で考えて死刑はないだろ」
 紋次郎はあからさまに顔をしかめてみせる。

「た、たしかに酔っ払った振りしたのはそうだけど……」
 まどかは一瞬言葉に詰まり、だがすぐに持ち直して、「でも分かんないじゃん! それともなに? あんたがあたしの命、保障してくれるわけ!? できるわけないわよね! 裁判なんて大人の胸先三寸で決まるんだから! 『最近の若者』が起こした事件なんて全部『理解不能』で片付けられて、やってないことまで全部あたしのせいになっちゃうのよ!」
 と、苦しげな笑みを浮かべた。

 開いた口がふさがらないとはこのことだ。まどかとの付き合いは、高校に入学して以来もう半年だが、こんな小学生みたいな考え方をするとは全然気づかなかったのである。
 警察や裁判所は、まがりなりにも国家司法組織だ。まさか刑罰を適当に決めたりはしないだろう。

 とはいえ――。
「…………」
 愛菜には何の反論もできなかったが。裁判所がどんなふうに罪状を決めるかなんて知らないし、死刑は絶対ないかといえば、この世の中に絶対なんてない。

 だが。
「いや、おまえは死刑にはならない。未成年者を死刑にしちゃいけないって、少年法で決まってるからだ」
 紋次郎はずばり言い切った。なんでそんなに言えるのかと不思議に思うほどに。
「そんなの分かんないじゃん! 警察なんて法律くらい簡単に破るんだから! 規則で決まってるくらいで信用なんかできるわけないじゃん!」
「……いや、悪いがこれだけは言い切れるのさ。公開裁判制度といって、裁判官は公衆の前で堂々と判決を下さなきゃいけないって決まってるんだ。そういう仕組みである以上、法に反した厳しい刑罰を科すのは不可能だ。それにさ――」
 紋次郎は少し呼吸を置いて、「おまえ、蓬餅が加納を殺すなんて思ってなかったんだろ? あいつが『いっそヤっちゃう?』ってヤの字をカタカナで書いているのに、そのあと『やっちゃってよ!』って、ひらがなで返信してた。
 これは、奴の言葉の特別な意味に気づいてなかったからだ。オーナーの悲鳴を聞いて始めて、蓬餅が本当に人を殺したことに気づいたんだ。でなきゃ、もっと上手に死体を隠せたはずだからな。だからおまえは、遺体を隠したりしなきゃ無罪だったんだよ」
「なんでよ! あたしが書いたせいで加納が死んだんだったら、けっきょくあたしのせいじゃん! うさぎのあんたにゃ分かんないのよ! 最近は一言『殺す』って書いただけで逮捕されるんだから!」

 ――駄目だ。強情すぎる。
 愛菜はため息をつきたくなった。
 ありもしない罪におびえて、無駄に罪を重ねていく。
 これほど典型的な『ローリングストーン』があるだろうか。

 だが、紋次郎は眉1つ動かさず、
「だったら訊くけどさ。おまえ、なんで命なんか狙われるんだ? おかしいだろ。ほっといても死刑になる女がさ」
 そんなことを言う。
「……は?」
 しかしこれはまどかも意味が分からなかったようだ。

 すると紋次郎は、また叫んだ。
「いるんだろ? 出てこいよ! 蓬餅!」
 と。
 おそらく真犯人であろう、殺人鬼のハンドル名を。

「……!?」
 愛菜はギョッとして周囲を見渡した。

つづく






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最終更新日  2008年09月28日 21時17分53秒
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