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MINOLTA TC-1

 
 
 
       MINOLTA TC-1

 TC-1正面

勝手にインプレッション

TC-1は、エンゾーが初めて手にした「高級コンパクト」と呼ばれるジャンルのカメラだ。ミノルタの開発陣が自ら上司に嘆願し、作りたいものを作ったという面白い背景を持った、非常に趣味性の高いコンパクトである。

欲しいと思ったきっかけは、海外旅行での出来事に端を発する。ある年、少し遅い正月休みを取って、タイを訪れた。夕刻バンコク市内のホテルに着き、チェックインを済ませたあとでぶらりと近所を散策したくなった。空港からタクシーでホテルに向かう途中、道路沿いにバンコク名物の屋台が軒を並べているのを見て、いい被写体に巡り会えるかも知れないと思ったのだ。

はたして、屋台は大勢の地元客で賑わい、活況を呈していた。立ち上る湯気、鉄板を焦がす食材と濃密なハーブの香り。どう切り取っても絵になりそうだ。ところが、手にしたEOS7のレンズを向けた瞬間、ファインダー越しに、屋台のおばさんに緊張が走るのが分かった。客も一様に、不信を露わにする。これではとても、自然な表情など撮れそうにない。一眼レフとは、時にそういう道具なのだという事を、そのとき初めて悟った。

小さくて相手を威圧せず、しかし写りは一眼レフ並み・・・そんな良い仕事をしてくれるコンパクトカメラはないか。半分は真剣でありつつも、残り半分は買い物をするための都合の良い口実であることを自覚しつつ、思い切って購入に踏み切ったのがTC-1だった。ほとんどの機材を中古品でまかなうエンゾーが、珍しく新品で調達したカメラだ。

TC-1レンズ
(G-ロッコール28mmF3.5。後に限定2000本で、Lマウントとして発売された)

撮影モードには、プログラムモードが無い。絞り優先AEオンリーである。とはいえ、絞り開放時と5.6の時には、ミノルタが言うところの「超自動露出」機能が働き、露光時間をコントロールしてくれる。(その際は、セールスポイントの一つである円形絞りは効力を失う)

四角い鏡筒がユニークなTC-1のレンズには、絞り値が4種類しかない。しかも、2枚の鉄板に大きさの異なる4つの真円を穿った、文字通りの完全円形絞りだ。執拗に、徹底的にボケ味にこだわっている。また、5群5枚で構成されるエレメントは、シンプルであるがゆえにヌケが良い。カリカリの解像力と濃厚な発色、そして劇的な周辺光量落ちには、素直に感動を覚える。

仕事でニューヨークに行った時、EOS7と一緒に持って行ったが、TC-1のG-ロッコール28mmF3.5は、それなりに写りに定評のあるEF24-85mmが霞んでしまうほどの描写力だった。特に、小さなL判プリントでその差が明確に分かってしまうのには、かなり驚いた。数百枚を撮った中で、TC-1で撮ったカットは一枚残らず正確に言い当てることが出来た。それほど、際立った個性を有していた。

ダイヤルとレバーの組み合わせで行う撮影モードの切替は、非常にシンプルで分かりやすい。ロック機構も兼ねていて、不用意にモードが切り替わる事がない作りになっている。電源を切っても、ストロボの発光モードをはじめとする幾つかの選択したモードがすべて保存されるのは、とても便利だ。

他にも、長時間露出に強かったり、ファインダー内で大まかな距離情報が分かるなど、細かいところまで使い勝手を練り上げてある。欠点を探すのが難しいカメラだ。

     TC-1&ケース
     (平井製作所製の両吊り本皮ケース)

小ささを極限まで追い求めたカメラなので、アイレットが一つしかなく、首や肩から下げようと思ったら、別途カメラケースを買う必要がある。ミノルタ純正のハードケースは、上品なワインレッドで、特に女性に受けそうな可愛いデザインである。が、かなり傷が付きやすいので、エンゾーは平井製作所製のものを愛用している。こちらはトップカバーがないが、速写ケースというものは、名前とは裏腹にスナップには不向きなので、こちらの方が都合が良い。

最大のライバルは、同じ28mmで半段明るいGR1vだろう。シャンパンゴールドのチタンボディに身を包んだエレガントなTC-1とは、あらゆる意味で対極に位置する、ストイックでスパルタンなカメラだったが、残念な事に、リコーの銀塩撤退で、ライバル不在の状態になってしまった。
孤高の最高級コンパクトカメラとして、これからも息長く生産されて欲しいものである。

【2005.10.25追記】
ついにTC-1も生産が終了した。銀塩高級コンパクトというジャンルは、完全に幕を閉じようとしている。コンパクトカメラで写真を撮ることの楽しさを教えてくれたTC-1に敬意を表して、LマウントのGロッコール28mmF3.5を入手した。TC-1が壊れても、フィルムが息絶えない限り、末永く使って行きたい。


長所

○見ているだけでも飽きない、美しいカメラだ。工業製品として、非常に優れたデザインを有している。
○巷で「カリカリ」と表現される、細密でコントラストの高い写り。非常にヌケが良く、発色は濃厚。
○よく考えられた、シンプルな操作系。さらにスポット測光まで可能だ。
○必要十分なファインダー情報。特に距離情報は非常にありがたい。また、倍率も大きく見やすい。

短所

●惜しむらくはF3.5。実用上は困らないが、気持ちの問題というか。F2.8だったら・・・それは言うまい。
●シャッターの半押しが微妙すぎて分かりにくい。
●やや作動音(特にAF駆動音)が大きくて耳障り。
●他に欠点ないなあ・・・いいカメラです。ほんと。

超個人的オススメ度(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆

偏愛度(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆

Yahooオークション出現率(10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆☆
*ディスコン発表後、やや値崩れ気味。買うならこれからが美味しい時期か。

 
 



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