寿司に興味津々なドイツの中学生二人が注文したもの
これはたしか去年、日の長いケルンの夏のある日のことです。ごく一般的なドイツ人は、まだ日光浴を楽しんでいる夕方7時頃、中学生くらいの年頃と思われる少年が二人、がらがらのスシナラ一号店へやってきました。持ち帰りの注文がメインのファーストフード店であるスシナラ1号店でも寿司のセットを注文すれば、軽く10ユーロはするわけです。当然、中学生には高い食べ物です。だから僕は、かっぱ巻きなどの値段の割と安い巻を注文するだろうとにらんでいました。ところがそこで、まず最初に少し気の強そうな短髪の少年が注文したものは、うちのセットメニューの中でも一番売れ筋の「スシオリジナル」。10ユーロ(約1600円)です。おっ、頑張るなぁ。というのが僕たちバイトの共通した印象だったと思います。そしてもう一人の少年。なんだかまだ何を注文しようか悩んでいるようで、自信なさげ。何度かうーんと、うなって彼が注文したものは、予想外の「ライスひとつ」これは、今までに一度も経験したことのない注文でした。いってみれば僕らの引き出しに入っていない”モノ”。値段すら知りません。「ライス」という聞きなれた言葉にもかかわらず、聞き返しそうになるバイト君たち。当然スシナラ1号店には、酢飯しか置いていません。それを伝えても、「ライス一つでいいです。」の一点張り。「これでいいんですね?」と確認しつつ、お椀いっぱいの酢飯をだしました。その時、「ハイ。」と言ってライスを受け取ったあと、小さく「ライスだけじゃん」と言ったのを、僕はしっかり聞きとりましたよ。彼は、酢飯以上のなにかを期待していた、ようです。短髪の少年が注文した「スシオリジナル」との値段差、約10倍。これはエウベルとアイウトンのドイツ語力くらいの差があったはずです。「俺の、少し食べてみるか?」と笑いながら聞く短髪の少年の問いにも「いらない」と答える彼。中学生とはいえ、彼は男です。プライドがあります。何度も確認されて、それでも注文したライス。俺はこれが最初から食べたかったんだとばかりに、食べきらなくてはなりません。とはいえ、お椀いっぱいの酢飯を食べきるのは、ドイツ育ちの少年にはかなり厳しい話。そこで彼がとった行動…、それはご飯に醤油。上京したてのマンガの主人公が、貧しさのあまり白米に醤油をかけて食べる、まさにあれです。正直、普通の家庭で育った人なら、母親から貧乏くさいからやめなさい、と言われてしまうようなあの食べ方をまさかここケルンの寿司屋で目撃することになるとは思ってもみませんでした。会計の時に、「お味の方はいかがでしたか?」といつものように聞いてみました。すると、彼は「ゼア レッカー!(本当においしかった)」と一言。どうやらうちの酢飯と醤油はかなりうまいらしいです。