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FD/agt_frascati 長崎【FD 出島パラダイス】

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俺がまだ23くれぇの歳で生きるためにクラブでジャズバンドと一緒にサックスを弾いてたときさ。

今よりもちょっとガラが悪い奴らがいてどっか心根のあったけ~奴らが多かったころさ。

ある時一人の女が歌い手としてそのクラブに来るようになった。

そうだな~歳は18か19かそこらだったな。

きれいなブロンドの長い髪で吸い込まれそうなブルーの瞳をしていた。

こんなスラムのクラブで歌うような女には見えなかった。気取ってるわけでもねぇがどこか品が良く育ちがいい感じだった。

女はすぐに人気が出た。あれだけいい女だ。ガラの悪い連中はほっとかねぇ。

でも女は何人にも求婚されたが全て断っていた。

女の唄う歌は不思議でいつも悲恋の誰かを待つ歌ばかり唄ってやがった。

ある日クラブが閉店した後、女に何度も何度も求婚していた男があまりにもなびかねぇ女に対して腹を立て、待ち伏せして、女を自分のものにしようと待ち構えていた。

女は当然嫌がり、大声を上げた。周りの野郎どもはからかい半分で誰も助けねぇ。俺も厄介事に首を突っ込むのは好きじゃねぇがあまりにもめに余る奴らの行動にそんときゃ腹が立ったんで。

バンドの奴らと一緒にボコボコにしてやったぜ。俺も若かったんだな。(笑)


そんなこんなで女を助けてから女はやたら店で俺らのバンドが終わるまで毎日待っていた。


そうする内に女の素性やどうしてここで唄うことになったのかいつの間にか俺は女の相談相手になっていた。


女はいいところのお嬢さんで昔っからピアノや歌をやってたらしく。親も何とかっていう有名な音楽家か家は何とかっていう有名な名家らしかったが

俺がなんだ、そんな世間のことなんて全く知らねーサックスバカだったもんだから、聴いたって覚えちゃいねぇ。(笑)


そんな育ちのいい娘がなんでこんなゴロツキばかりのスラムの小さなクラブで唄ってかというと、近所の幼なじみで歳は3つ上の奴と惚れ合っちまったが親に反対されちまって、駆け落ち同然で家を飛び出しちまったんだと。


女はそんな事をずっと俺に話して聴かせたもんさ。


駆け落ちしてしばらくは幸せな日が続いたらしいが戦争中さ、どんなにアメリカが勝ってるって言ったって男は外に行かなきゃ行けなかった時代さ。

男は海軍に入ってたらしくすぐに徴兵されちまってどっかの海にいっちまったらしい。

しばらく便りはあったらしいが半年過ぎても返事がこなくなり生活にも困って女はここに流れ着いたって話さ。駆け落ち同然で出て来ちまったもんだから家にも帰れなかったとよ。

可哀想な女だ。俺はそんな一途に男を待ち続ける女に惹かれていった。

だからっていって女を我がものにしようとする男どもとは同じにはなりたくなかった。

ただ純粋に奴を待つあの女を支えてやりたかった。


そんなどっちつかずな関係が一年くれぇ続いただろうか。それなりに幸せな日々だった。

でも突然運命は壊れるもんで何も便りが来なくなった男からある日突然手紙と一枚の電報が女のところに届いた。


書いてあった言葉は男は太平洋の海に沈んだ。

そして奴の戦友が女に伝えて欲しいと手紙を渡され、それと一緒に送ってきていた。


手紙には

「愛してる君に触れたかった。君の歌が聴きたかった。幸せにしてあげられずごめんね。幸せになって」

短い文だったがそんな言葉だった。


女は大泣きした。俺は何て応えたらいいか分からず抱きしめてやることしかできなかった。


それから半年女はすっかり唄わなくなってしまい、家から出てこなくなった。


俺はあんまり心配だったもんで近所の世話好きのばあさんのところに女をおいてもらうように頼んだ。

生活は苦しかったが女が元気になればと思って俺は毎日女に会いに行った。

柄にもなく花やプレゼントなんてもってな。女のためにサックスを弾いたり。


でも女の目に映る全ては色をなくしていた。ただ生きているだけ。そんな感じがした。

とうとう、そんな生活に終わりを告げる日がきた。曇ったり晴れたり、雹がふったりするへんてこな天気の日、いつものように俺は女に会いに行った。


女は俺に「もう十分です。ありがとう。」俺は一瞬何のことかわらず言葉が出てこなかった。

「でもあたしはやっぱりあの人のことが忘れられない。あの人じゃないと行けないの。ごめんなさい。こんなによくしてもらっているのに」

女が本当に言ってる意味を俺はその時わかろうとしなかった。わかっていなかった。


「俺じゃだめか?俺じゃあいつの代わりにはなれねぇってことか?」

女はただ黙って首を縦に振るだけだった。そんな自分の失恋に自分のことしか考えていなかった俺はその場から立ち去った。逃げるように。

それが女と会った最期だった。

次の日女は男の後を追って海に沈んでいった。

それを知ったのは少し経ってのことだった。俺は後悔した。女はあのときもう決めていたんだろう。俺がもう少し早く気づいて止めていたら、バカやろういつまでもメソメソしてんじゃねぇって怒鳴ってでも女に思いを伝えていたら未来は変わっていたのかもしれねぇな。

それから何年かして生きていくために働いて、それなりに結婚してガキが産まれて、それなりに幸せだった。


でも今でも思い出しちまう。戦争なんてもんがあるから人を不幸にしちまう。戦争なんかなけりゃああいつらは生きてたかもしんねぇのに。

俺はあれからずっとあの女を思ってサックスを弾いている。世界が平和であり続けるように。

わけぇやつらは戦争のことなんか忘れちまってまた同じ事を繰り返してる。戦争なんてしちゃいけねぇ。悲しみや人の心を不味くするだけさ。


女の名はLaLa。長い髪のブロンドでビードロのような綺麗なブルーの瞳をしていた。

もう俺みたいな不幸な奴らを出さないために、伝えてくれ。戦争なんてしちゃいけねぇ。


好きな奴が近くにいて愛し合えるってことがどんなにすばらしいかを。


わけぇ奴ら、今を大事にしな。今を大事にできねぇやつは先だって大事にできねぇ。

古くせぇじじいの話さ。聞いてくれてありがとよ。



*今日届いたままの原稿。次号FDよりグレゴリーの連載始まります。





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Last updated  2007.06.20 23:44:18


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