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カテゴリ:実践!企業価値評価
■注目した記事(6/18 1面と13面)
(1面) 家電量販 ラオックス 中国最大手の傘下に 再建支援 蘇寧電器と交渉 (13面) 日中家電店 ボーダーレス化 中国最大手が日本進出へ 経営ノウハウを吸収 ■記事への素朴な疑問 経営再建中のラオックスが、 中国小売最大手の蘇寧電器の傘下に入る方向で交渉中のようです。 最終合意すれば来週にも発表する見通しですが、これが確定すれば、 日本の有力小売業が中国企業の傘下に収まる初めてのケース、となります。 蘇寧電器は中国で約900店を展開し、 08年度のグループ売上は前年比20%増の1兆4千億円です。 傘下にした後は、日本の価格政策・接客サービスなどの販売ノウハウを 中国での店舗運営に活かす考えです。 これに対してヤマダ電機は来春に中国に出店しますが、 日中の家電量販大手が相手国へ相互に進出する動きは、 家電市場のボーダーレス化が進んだことを意味しています。 今後、ヤマダは規模の拡大、蘇寧電器は経営効率といった質の拡大を求めます。 日本国内でみると、躍進するヤマダ、 再建中で中国傘下になるラオックスと、明暗が分かれていますね。 本日は、経営再建中のラオックスを取り上げます。 これまでの同社の経営状況はどうだったのでしょうか? それでは、08年度まで直近5年間の財務状況を基に分析を行います。 ラオックスの決算・財務分析はこちらから ■ラオックスの損益計算書P/Lの視点 過去5年平均の売上は20%以上の減少、営業利益・純利益はずっと赤字です。 04年と、08年の各指標と伸び率は以下の通りです。 04年 08年 売上高 1600億円 590億円 (67%減) 営業利益 マイナス 6億円 マイナス50億円 (赤字額が8.3倍増) 純利益 マイナス46億円 マイナス60億円 (赤字額が1.3倍増) 減収と赤字が続いています。キャッシュの流入、財務体質が気になりますね。 ラオックスの決算・財務分析はこちらから 次に、実際のキャッシュの流れを見てみましょう。 ■ラオックスのキャッシュフロー計算書C/Sの視点 04年は営業CFがプラス40億円でしたが、その後は大きく減少し、 08年はマイナス73億円です。 投資CFは04年がマイナス20億でしたが、 その後は資産売却で増加しており、08年はプラス92億円です。 財務CFは常にマイナスで、返済を続けています。 08年はマイナス17億円です。 04年までは営業CFプラス、投資CFマイナスと、 健全なキャッシュの流れでしたが、 05年からは営業CFが入らない中、一挙に資産売却して キャッシュを繋ぎながら返済を続けていることが分かります。 この様子はキャッシュフローマトリクスで見ると一目瞭然で、 安定期から停滞期、そして後退期へキャッシュの流入構造が 変化していることが分かります。 ラオックスの決算・財務分析はこちらから それでは、今までの状況はラオックスの貸借対象表B/Sに どのように反映されているか、見てみましょう。 ■ラオックスの貸借対象表B/Sの視点 総資産は07年の400億円から27%減少し、08年は290億円でした。 主な変化としては、 運用面では有形固定資産が110億から50億へと半分以上減少し、 調達面では短期借入金が半分になり、また長期借入金を全済しています。 株主資本比率は60%です。 資産売却し、返済を続けていますね。 株主資本比率は多く確保できているようです。 ラオックスの決算・財務分析はこちらから それでは今までの経営状況を、損益計算書P/L・貸借対象表B/Sでみた収益、 資産の状況を、経営効率の視点で確認します。 ■ラオックスの経営効率(ROIC)の視点 効率性の面では、有形固定資産回転率、 売上債権及び棚卸資産回転日数が上昇しており、 土地・建物の売却、売掛・在庫の圧縮が進んでおり、 長期・短期双方のキャッシュ回収が進んでいる様子が分かります。 収益性の面では、特に販管比の悪化により 営業利益が減少していることが分かります。 ざっくり見て、原価は変動費、販管は固定費に対応しますが、 急激な資産圧縮はできている一方、 人件費や退職・福利費などの固定費はすぐには削減できず、 他の構造改革に追いついていない様子が見て取れます。 総じて、ROICは06年は0%、08年は-18.6%となっています。 ラオックスの決算・財務分析はこちらから ■ラオックスの分析まとめ 売上が04年から70%減収と急減し、利益は赤字続きで、 営業利益は04年から8倍に拡大しています。 (損益計算書P/Lの視点) 05年から営業CFのマイナスが続く中、資産売却して 投資CFをプラスにし、返済を続けています。 (キャッシュフロー計算書C/Sの視点) 株主資本比率は60%を確保する中、固定資産、借金が減少し、 総資産が30%減少しています。 (貸借対象表B/Sの視点) 長期・短期資産の圧縮で効率性は向上する一方、 販管比など固定費の圧縮は追いついていない状況です。 (経営効率ROICの視点)。 有報の業績等の概要には、 赤字体質の脱却に向け、構造改革を進めており、 不採算店舗閉鎖、営業強化を図り既存店の改装、早期退職の実施、 を進めている旨が記載されています。 キャッシュフロー計算書C/Sで見たキャッシュ、 特に本業の儲けを表す営業CFは、 企業が実質的に収益を実現できたかどうかの明確な指標です。 よってこれら構造改革の今後の結果については、 一時的な黒字転換などに踊らされず、 営業CFがプラスに転じ安定した伸びを示せているかどうかに 注目したいですね。 ちなみに08年の中国の家電市場規模は11兆円と、 日本より4兆円を上回っており、今後も成長が見込まれています。 また、中国政府による家電買い替えなどの販売促進策もあり、 短期では特に急成長しています。 野村総合研究所によると、平方メートル当たりの売上高では、 ヤマダは蘇寧の5倍あり、企業買収や大量出店といった 急成長の裏で販売効率が悪くなっている蘇寧の実情が表れているようです。 今回の交渉で日本の経営効率ノウハウを吸収し、 これから中国に出店するヤマダと競争することが想像されますが、 今後の日中を合わせた家電市場の動向に注目ですね。 ラオックスの決算・財務分析はこちらから 以上の分析でご不明な点等ございましたら、 是非シェアーズまでご連絡ください。 感想もお待ちしております! support@shares.ne.jp お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年06月29日 16時15分31秒
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