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「雪の二人」
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心の声は相変わらず聞こえるけれど、
なるべくガードして聞かないようにしている。
それでも彼の声だけは、はっきりと聞こえるのはなぜだろう。
お互いに惹かれあう気持ちがそうしているのかしら。
言葉を口にする必要はない。
でも、話す訓練のために、
少しずつ口にするようにした。
うちを飛び出したまま、
彼のアパートに転がり込んだ。
父は探しには来ないだろう。
厄介払いが出来たと思ってるかもしれない。
義理の母や兄弟達なら尚更だろう。
私も彼の工場で働かせてもらうことにした。
流れ作業を無言でする仕事なら、なんとか出来る。
なにより彼の心の声が聞こえる距離に居られるのが嬉しい。
うるさい工場内でも、心の声なら聞こえるしね。
「今日の夕食何がいい?」
なんて会話も出来て、新婚みたいだ。
二人で働いても、生活はギリギリだったけど、
一緒に居られるだけで幸せだった。
その幸せも長くは続かなかった。
いきなり、知らない男達がアパートに押しかけ、
研究所に連れて行かれたのだった。
そして、彼とは離れ離れにさせられた。
どれくらいの距離まで、心の声が聞こえるとかの研究だった。
私たちにそんな能力があることを知っているのなら、
なぜ、子どもの頃、発達障害などと言ったのだろう。
そう言われなければ、父も私を捨てることはなかったのに。
でも、かえって、特殊能力者だからこそ、
施設に預けられたのだろうか。
だんだん分からなくなってきた。
彼も両親が死んだと聞かされたらしいが、
それも本当だったのか怪しいものだ。
私たちが施設で二人きりでしか遊ばなくても、
誰も止めるものはいなかったのだ。
疑えば切りがなくなってくる。
彼とは別々に研究材料にされているうち、
私はあることに気が付いた。
子どもを身ごもっていたのだ。
でも、こんなところで産んだら、
この子も研究材料にされてしまうだろう。
なんとかここを逃げ出したい。
彼とは距離があるのか、心の声は聞こえない。
どうしたらいいのだろう・・・。
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