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山口小夜の不思議遊戯

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2005年08月23日
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 ●かぎかっこの向こう
 
 相生(あいおい)の村は、地図上では鳥取市街に近い。
 しかし、この二つの地域は、久松山という山によって決定的に隔てられている。
 海抜たった260mの、普通なら絶対に丘とか峠とか呼ばれているであろうこの山は、まわりが平野だったために、地元の景色の中ではかなり目立つ存在になっている。

 ♪山はひさまつ・・・民謡や祭り歌には必ず歌詞として盛り込まれる久松山は、そんなわけで鳥取の人の故郷を思う心のよりどころとして、押しも押されぬ地位を獲得していたのである。
 事実、見渡すかぎりの真っ平らな砂地に、ぽかっとお椀をふせて作られたような緑の小山は、名所とはいえないまでも、地元の人なら愛着を持つべき景色なのだろう。市街を貫く若狭大路の向こうはしは、そのままこの久松山の頂上に祀られている磐倉(いわくら)への参道になるためにすんずまりになっている。

 そこへきてこの久松山。むんと行く手に立ちはだかるその姿は、さながら「市街地はここで終わりである。」の、かぎかっことじの体現のようなものである。そして、この久松山の向こうに、相生村はあった。

 久松山は神さまのおわす山であるだけに、街の人々もよく参道を通って頂上までお参りする人もいるが、山の向こうについては、これっぽっちも知ろうとする人はいなかった。いたしかたあるまい。かぎかっこは断定であってその後ろについては、ふつう誰も考えないからだ。

 しかし、誰も想像だにしないところにも、かそけく息づく営みがあった。
久松山の向こうっかわに、山肌に寄り添うように建っている民家がちらほら。
 山に隔てられ、永いこと他の地域との交流もなく、独自の文化を築いてきた相生村。鳥取に点在する集落の中でも、相生はとりわけ小さな村だった。
 
 そこは目には見えないが、人の形をしている神を信仰する国だった。いわば日本神話そのものが息づいているのである。
 八百万(やおよろず)の神々の集う国、出雲に近いこの村では、あらゆる自然神が信じられ、一本の草にも神が宿り、風の吹き変わりにも神の姿を垣間み、一匹の狐さえ神格化されていた。
 そこに住む人はそれゆえに「御詞(みことば)」という古来より伝わる呪(まじな)いを持ち、日々の言葉も「御詞」に近い、独特な響きのある言語を使っていた。

 このように信仰対象は無限にあったが、その源は久松山であり、村人たちは「御詞」において、この山を「たいこうがなる」と呼び慣わしていた。


 (注:このブログは20年前の小学生の日記をもとに小説化したものです。地名、団体名などは仮称または架空のものです)





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最終更新日  2005年08月31日 12時37分52秒
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