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●きみよ、あるがまま
学校が始まってしまうと、日々はまた田園風景的な日常に落ち着き、何事も起こらない日々の移り変わりは、小夜に地上でたったひとつこの村しか存在しないように思わせた。 小夜は学校の往復の道のりや新しい授業環境にも、もうずいぶんと慣れてきた。 さて、その日は新しく集金係に任じられた小夜が、全校の皆から九月分の維持費を集める日に当たっていた。 分校には給食がない。みんなめいめいお弁当を持ってくるので、給食費はいらないのだが、維持費として毎月3000円ずつを集めるのである。 小夜は母から持たされてきた自分の分を集金袋の中に入れると、さっそく任務を果たすべくクラスの中を回って歩いた。 ──義之、今月の集金だが。 小夜は己生(おのき)の前田義之の前で、名簿をひらひらさせた。 ──あぁ、都合つかんかった。 義之は一言そう言うと、何事もなかったかのように悠々と小夜の前から去っていった。 忘れたのだろうか・・・と思い直し、小夜は忘れ印をリストの義之の欄につけておいた。 次に、二年生のめっかちこと山根浩昭と、その姉で五年の山根芳子。 弟はご存知のとおりその特徴ある目の動きから、めっかちと呼ばれているが、芳子の仮名(かりな)は、いわれ(大柄な長女という意)である。 ──めっかちといわれ・・・。 ──悪ぃ、今月は払えんよって。 ──・・・・? 黙ってしまった小夜に、向こうから先生が慌てて声をかけた。 ──お小夜ちゃん、これ忘れとったわ。 橋本先生は小夜をそばに寄せると、小さな紙切れを握らせた。 ──ここに載せてある人、集金せんでええから。 ──はぁ・・・・。 小夜はすぐさま渡されたメモを開いて、これはどういうことかとしげしげと眺めた。 なぜなら、そこには全校のほとんど半数にあたいする名が連なっていたのである。 ─── その日学校がひけて家に戻ってきた小夜の耳に、家人のものではないが耳慣れた声が聞こえてきた。 小夜は立ち止まり、玄関先のたたきで耳をすませた。 声から察するに、訪問客はみくまりのちゃん(お父さん)であるらしかった。 彼もまた、小夜の父と同じく県庁に勤めている人だった。 開き戸のすきまから中を伺うと、果たしてみくまりのちゃんの背中が見えた。 小夜の家は相生の人から借り受けた古い民家で、当然のように囲炉裏がしつらえてあった。その囲炉裏をはさんだ向かいに、小夜の父が対峙している。 ──今年は不作でしただ・・・。 今度はみくまりのちゃんの言葉が、小夜の耳にはっきりと聞き取れた。 そしてふと漏れ聞いたこの言葉によって、小夜は今日学校で起こったことのすべてが腑に落ちた。 不作だったからといって、月3000円の維持費が払えなかったというのか──。 小夜の心に、一生うなされそうなみくまりのちゃんの言葉がこだました。 小夜の父からもまた、返事はない。 当時の彼は30代半ば。 彼にあるものは農村に対する熱情と若い体力だけであって、中央に物申すことのできるほどの権力ではなかった。 終始言葉もなかった父親の気持ちが、小夜の心にちりちりと、痛いほどに理解できていた。 小夜は土間に立ち尽くしたままでいた。 黒いランドセルをおろすこともしないで。 本日の日記--------------------------------------------------------- 皆様、朗報です!明日、小夜子姉貴が帰ってくる予定です。 更新するだけでやっとの私でしたが、ちょっと管理人もどきになれて楽しませていただきました。至らぬ所もありましたが、お許しくださいませ。 これからは、また読み応えのある日記になると思いまーす。お楽しみ――に!それでは、さらばじゃあ・・・どろん。。。 明日は●小夜、豊にからかわれる●です。 タイムスリップした本人が帰ってくる予定です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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