|
カテゴリ:ラ・ワ行の著作者(海外)の書評
おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
■ピエール・ルメートル『その女アレックス』(文春文庫、橘明美訳) ◎こんなすごいミステリは初めて ピエール・ルメートル『その女アレックス』(文春文庫、橘明美訳)の帯コピーが、どんどん誇らしげになっています。私の文春文庫は2014年9月10日第1刷で、橙色地に「あなたの予想はすべて裏切られる!」とあります。 やがて書店に平積みされている帯は、赤地で「第1位!」と大書されたものにかわりました。そして最近では「1位・6冠」のコピーが踊っています。破竹の快進撃といってよいと思います。 私が本書を買い求めたのは、『このミステリがすごい!2015年版』(宝島社)で「海外部門第1位」になっていたからです。当時はひっそりと、書店の棚に背表紙だけを向けて、1冊あっただけでした。ところがあっというまに、赤い帯にかわって平積みされていました。6冠の内訳はつぎのとおりです。 ――『この女アレックス』が海外ミステリ史上初の6冠を達成! 「このミステリーがすごい!」や「週刊文春ミステリーベスト10」など、日本のミステリ・ランキング4つを全制覇。本国フランスでも、英訳刊行されたイギリスでも高く評価され、賞を受けています。(『本の話WEB』より) 読んでみました。圧倒されました。納得の第1位です。著者のピエール・ルメートルは、もちろん知りませんでした。前記の『本の話WEB』の記事で紹介させていただきます。このサイトは充実しています。6冠達成を祝って、三橋暁、大矢博子、千街晶之、瀧井朝世が書評をならべています。ただし書評のプロたちだけあって、ネタバレにならないような自制した文章になっています。 ――作者紹介によれば、この作品はパリ警視庁犯罪捜査部のカミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公としたシリーズの第2作にあたるようだが(第1作は未紹介)、警察小説としてもその出来映えは出色である。捜査陣の要である警部のカミーユは、癇癪を破裂させたかと思うと、自分に自信が持てずに落ち込むという周囲には扱い辛い人物だが、捜査官としては優秀で、閃きと持ち前の粘り強さで自らの捜査班を率いる。並外れて小柄な身体的コンプレックスもご愛嬌だ。(三橋暁、『本の話WEB』より) ルメートルの第1作は、2009年に『死のドレスを花婿に』(柏書房)というタイトルで邦訳されています。書店を探しましたが、見つかりません。 ◎読者を翻弄しつづける展開 本書のストーリーについては、ネタバレになるので多くについてふれることができません。簡単に紹介させていただきます。 アレックスは30歳で男を引きつけるような美人です。「ヘアウィッグとヘアピースがいくらでもある店」で試着を楽しんでいます。通りから自分を見ている、男の存在に気づきます。アレックスは店を出ます。 そして突然が路上で拉致され、車で運ばれて、廃屋の倉庫のようなところへ軟禁されます。アレックスは全裸にされて、狭い檻に監禁されます。身を屈めたままの状態で、檻は空中に吊り上げられます。 本書は拉致された女性アレックスの視点と、誘拐事件を追うパリ警視庁の視点が交互にくりかえされます。アレックスは、誘拐犯がだれなのかがわかりません。なぜ誘拐されたのかもわかりません。いっぽう警察は、だれが誘拐されたのかを知りません。若い女が強引に車に押し込まれた、という目撃情報があるだけなのです。 誘拐犯はアレックスに、「お前が死ぬところを見たい」といったきりです。誘拐の動機を話そうとしません。パリ警視庁犯罪捜査部に、事件解決のための緊急チームが編成されます。 大男の上司ル・グエンは、身長145センチの小柄なカミーユ・ヴェルーヴェン刑事を現場責任者に指名します。彼には妻が誘拐され殺害された、という忌まわしい過去があります。とても新たな誘拐事件を、任せられる精神状態ではありません。相棒として指名されたのは、ハンサムで金持ちのルイと、しみったれでドケチなアルマンでした。この4人がなんともいえない、味のあるやりとりをくりかえします。 檻に閉じ込められたまま、何日も経過します。アレックスの衰弱は、危機的なものになっていきます。ドブネズミが、アレックスの死を待ちかえています。地道な捜査にもかかわらず、誘拐された女の身元はわかりません。もちろん軟禁場所も、特定できません。アレックスは、会社を辞めたばかりでした。捜索願を出すような、家族や恋人もいません。 交互にあらわれるアレックスの章と警察の章は、さしたる進展のないままページを重ねます。死を意識するようになったアレックス。誘拐され虐殺された妻の像を振り払うちびのカミーユ。捜査の停滞をなじる上層部。アレックスは必死になって、脱出の方法を思い描きます。強靭な精神力です。そして突然、転機がおとずれます。 私をふくめて多くの読者は、先を予想しながらストーリーを追いかけています。ところが『その女アレックス』は、何度も予想とは異なる世界へと読者をいざないます。そして衝撃のラスト。とてつもないミステリーの世界に、私はほんろうされつづけました。「超一級品です」という帯を巻いて、「標茶六三の文庫で読む400+α」の棚に、本書を入れることにしました。そのために1冊を専用棚から外さざるをえませんが。 お薦め。ただし残虐シーンに弱い方は、第3部から先を読んではいけません。 (標茶六三:2015.01.07) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年11月02日 06時21分38秒
コメント(0) | コメントを書く
[ラ・ワ行の著作者(海外)の書評] カテゴリの最新記事
|