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2015年02月16日
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私立探偵フィリップ・マーロウは、億万長者の娘シルヴィアの夫テリー・レノックスと知り合う。あり余る富に囲まれていながら、男はどこか暗い蔭を宿していた。何度か会って杯を重ねるうち、互いに友情を覚えはじめた二人。しかし、やがてレノックスは妻殺しの容疑をかけられ自殺を遂げてしまう。が、その裏には哀しくも奥深い真相が隠されていた…大都会の孤独と死、愛と友情を謳いあげた永遠の名作が、村上春樹の翻訳により鮮やかに甦る。アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長篇賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

■チャンドラー『ロング・グッドバイ』(早川書房軽装版、村上春樹訳)
チャンドラー:ロング・グッドバイ.jpg

◎チャンドラー作品は訳者で別物になる

桐野夏生『柔らかな頬』(上下巻、文春文庫、「標茶六三の文庫で読む400+α」推薦作)を再読しているとき、猛烈にチャンドラーを読みたくなりました。桐野夏生の女探偵・村野ミロが、チャンドラーの描く私立探偵・フィリップ・マーロウと重なってきたのです。
 

 桐野夏生のミロシリーズは、すべて読んでいます。一方チャンドラーの作品は第1作『大いなる眠り』(創元推理文庫)、第2作『さらば愛しい人よ』(ハヤカワ文庫)、第7作『プレイバック』(ハヤカワ文庫)しか読んでいませんでした。もっとも評価の高い『長いお別れ』を買い求めてきました。しかも2冊も。清水俊二訳『長いお別れ』(ハヤカワ文庫)と村上春樹訳『ロング・グッドバイ』(早川書房・軽装版)です。
 

 原書は同じですが、タイトルはちがっています。清水俊二訳を読んでから、村上春樹訳を読みました。2冊はまったく別物でした。前者は文庫版で482ページ、後者は新書版で655ページもあります。バーでフィリップ・マーロウと、有名なコメディアンがぶつかるシーンがあります。2冊を比較してみましょう。


 
【清水俊二訳】(ハヤカワ・ミステリ文庫)
 彼は私の手をふりきって、脅し文句をならべた。「きいたふうなことをいうな。あごをはずしてやろうか」
「ヤンキーズのセンターをやって、パンののし棒でホームランを打つ方が楽だぜ」
 彼はこぶしを握りしめた。
「よさないか。マニュキユアがだいなしになる」
 彼はやっと感情をおさえたようだった。「もう一度いってみろ。いればがいるようになるぞ」
 私は冷笑を浴びせた。「いつでも来い。だが、そんな台詞は古いよ」
 彼の表情が変わった。顔に笑いがうかんだ。「映画の仕事をしているのか」
「郵便局にポスターがかかっているようなのに出てるよ」
「また会おうぜ」彼は相変わらず薄笑いをうかべたまま、立ち去った。


 
【村上春樹訳】(早川書房・軽装版)
 彼は腕をふりほどき、すごみをきかせた。「おつなことを言うじゃないか。顎をゆるゆるにしてほしいのか?」
「笑えるねえ」と私は言った。「ヤンキーズに入ってセンターを守り、棒パンでホームランをかっ飛ばすがいい」
 彼は肉厚のこぶしをぐっと固めた。
「おっとお嬢さん、マニュキュアにご用心」と私は言った。
 彼は怒りをぐっと飲み込んだ。「口の減らねえちんぴらだ」と彼は鼻で笑った。「予定がなければ、しっかりのしてやるんだが」
「ほう、ちゃんと予定を覚えていられるんだ」
「消えちまえ、この棒だらやろう」と彼はうなった。「あとひとつでも生意気なことを言いやがったら、歯医者の支払いで泣きを見ることになるぞ」
 私はにゃっと笑った。「楽しみだね。ただし次回はもうちっと冴えた台詞をこしらえてこいよ」
 彼の顔つきがそれで変わった。声を上げて笑った。「おたく、映画に出ているのかい?」
「ああ、郵便局にはってある手配写真にな」
「前科者ファイルで探してみよう」と言って彼は去っていった。笑みを浮かべたまま。

 清水俊二が、『長いお別れ』を翻訳したのは1976年です。清水俊二は1906(明治39)年生まれなので、70歳のときに翻訳したことになります。古いからダメだとはいいませんけれど、村上春樹の新訳はチャンドラーに新たな息吹を与えたのだと思います。『長いお別れ』を読むのなら、村上春樹『ロング・グッドバイ』(早川書店、新書サイズ)のほうをお薦めします。ただし、なじんでいるタイトル名まで変えるな、との注文つきでですが。

 チャンドラー作品といえば、清水俊二訳が常識でした。ところがこの訳文にたいして、批判的な意見もありました。チャンドラー作品のだいごみは、セリフまわしにあります。その点について、興味深い記述があります。引用してみます。マーロウの名セリフをとりあげたものです。3つの訳文をならべてみます。

 
1.「しっかりしていなかったら、生きていられない、やさしくなれなかったら、生きていく資格がない」
(清水俊二訳『プレイバック』ハヤカワ文庫)

2.「タフでなければ生きていけない、優しくないと生きていく資格がない」(生島治郎訳。『傷痕の街』あとがきに書いているようです。絶版で入手できませんので、検証していません)

3.「ハードでないとやっていけない。ジェントルでないと生きていく気にもなれない」(矢作俊彦と久間十義との対談で、原書を忠実に訳すと、こうなると例をしめしたもの)

 前記引用は小森収編『ベスト・ミステリ論18』(宝島新書)からのものです。本書のなかで「清水チャンドラーの弊害について」という、ものものしいものタイトルで、2つの訳文(引用した1と2)を切り捨てています。


 翻訳本は訳者を選ぶ。できれば最新の翻訳を選ぶ。そのことをお知らせするために、長々と引用をしてしまいました。


◎マーロウは、世界的な名探偵 

『ロング・グッドバイ』(「長いお別れ」)の主人公フィリップ・マーロウは、世界的な名探偵です。シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロなどと遜色のないアメリカの名探偵なのです。

 しかしフィリップ・マーロウは、2人の著名な探偵とは明らかに個性がちがいます。彼の個性をうまく表現している文章があります。 

――反骨精神とユーモア精神のかたまりのような男で、きわめてプライドが高い。時に応じて軽妙なへらず口をたたく。男には強いが女には弱く、とくに金髪で青い目の淑女に対しては必要以上に騎士道精神を発揮したがる傾向がある。(郷原宏『このミステリーを読め・海外編』王様文庫P113より)

 村上春樹はチャンドラー作品を、何度読んでも飽きないといいます。そんな人が『ロング・グッドバイ』を最高傑作だと断言しているのです。自ら翻訳してみたくなる気持ちはわかります。村上春樹訳は、リズム感がよくて読みやすいものでした。「村上春樹翻訳ライブラリー」(中央公論新社)のなかでも、レイモンド・カーヴァー『必要になったら電話をかけて』も絶品でしたが、本書はそれとならぶ傑作です。


 村上春樹はチャンドラー作品を、ハードボイルドなどという枠にはいれていません。ハードボイルドや純文学などのくくりには、おさまりきれない「文学作品」(小説)が存在しているのです。それがチャンドラーの作品です。


 桐野夏生を読んでいて、チャンドラーをもっと真剣に読み直そうと思いました。チャンドラーの影響を受けた作家は、ほかにもたくさんいます。矢作俊彦はそのものずばり『ロング・グッドバイ』(角川文庫)という作品を書いていますし、大沢在昌、平井和正、原りよう、稲見一良などの作品にも強い影響が認めらます。

 
◎『ロング・グッドバイ』のあらすじ

 私(マーロウ)は「ダンサーズ」のテラスの前で、はじめてテリー・レノックスに出会います。彼はロールスロイスのなかで、酔っ払って泥酔していました。車のなかにいた美しい若い女は、彼を押し出して車を走らせました。


 男は若く見えましたが、髪の毛は真っ白でした。マーロウは仕方なく、男を彼のアパートに送り届けましたた。私(マーロウ)が再びテリー・レノックスと会ったときも、彼はへべれけに酔っ払って正体をなくしていました。

 
 私は彼を自分のアパートに連れ帰ります。彼はラスベガスのクラブに身をおき、先日一緒にいたのはシルヴィアという妻だと語ります。シルヴィアは新聞王といわれている、大富豪のハーランド・ポッターの娘だということがわかります。

 
 テリー・レノックスは、ときどき私のアパートに姿をあらわすようになります。いつでも酔っていますが、私は彼のなかの誠実さに好感をもちます。ある日テリーは、拳銃をもって私のところにやってきます。私は彼をメキシコへ逃がします。殺人課のグリーン部長刑事らが訪ねてきます。テリーが妻・シルヴィアを、殺害したということでした。

 
 私は逃亡を助けた罪で、連行されます。黙秘をつづけているあいだに、テリーが拳銃自殺したことを知ります。このものがたりに、アル中で流行作家のロジャー・ウエイドと妻のアイリーン・ウエイドの、ドタバタ劇が重なってきます。


『ロング・グッドバイ』の、ストーリーをたどるのは邪道だと思います。なんといってもチャンドラーの魅力は、奥深い会話のやりとりにあります。ぜひ楽しんでいただきたいと思います。村上春樹訳『ロング・グッドバイ』を読み終えたら、翻訳者の異なるつぎの2作品も手にとってもらいたいものです。

双葉十三郎訳『大いなる眠り』(創元推理文庫)
清水俊二訳『さらば愛しき女よ』(ハヤカワ文庫)

 私は村上春樹の訳文が好きです。それは訳者としての彼が、楽しそうに仕事をしているからです。

――この本を読み飽きない理由としては、まずだいいちに文章のうまさがあげられるだろう。チャンドラー独特の闊達な文体は、この『ロング・グッドバイ』において間違いなく最高点をマークしている。最初にこの小説を読んだとき、その文体の「普通でなさ」に僕はまさに仰天してしまった。こんなもがありなのか、と。(村上春樹訳者「あとがき」より)

(山本藤光:2010.03.29初稿、2015.02.15改稿)






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最終更新日  2017年11月15日 08時29分31秒
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